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ルネサンスの寵児、フィリッポ。 空間の美しさ。Part.4

やっと、ひとりで現場を仕切れるようになったフィリッポ。


一難去って、また一難。

あんな高いところに登るの嫌だ。
落ちたら確実に死ぬよな。
そもそも、どうやって、あの高さまで登るのさ。

現場作業安全対策ガイドライン

クーポラの高さ、116.50メートル。見たことも聞いたこともない、超高層。

実際に請け負う現場作業員のもっともなる意見。みんなを集めて、フィリッポが話し始めます。

Filippo disse queste parole : Signori operai, e' non è dubbio che le cose grandi abbino in sé delle dubitazioni nel dar lor fine; et ancor che io conosca questa opera esser faticosa e difficile a condursi, … e come si possi trovar modo che gli uomini con sicurtà ci lavorino, conoscendo uno espresso pericolo di morte senza rimedio ne gli sbigottiti dalla altezza dello edifizio più che dalla larghezza della volta; …

Giorgio Vasari, le Vite, vol.I

作業員の皆様が、いまだかつてみない大事業を前に、不安になられるお気持ちは、よくわかります。そして、いかに困難で大変な作業になるのかも、理解しています。転落死を回避し、高層でも怖がらず作業ができるように、皆様の安全を第一に考え対策を講じます。

メディチ家当主の右腕となり、活躍したジョルジョ・ヴァザーリ。彼の執筆した「芸術家列伝」に、このように記述されています。

ブルネレスキが講じた安全対策は、そのまま労働災害対策です。

それまでは、建設中に転落事故が起きると、悪魔の仕業と考えられていました。悪魔が壊し、人の命を奪っていくのです。

モンテオリベートマッジョーレ修道院の
フレスコ画より
モンテオリベートマッジョーレ修道院の
フレスコ画より

そんな時代に生きていたブルネレスキ。迷信的な悪魔の悪行で終わらせず、建設現場で想定される事故やリスクを考え、安全対策を講じたのです。

なんという、モダンな考え方なんでしょう。

フィリッポの革新的なアイデア

1. 堅固な足場を作る

中世時代の建築現場の様子。外壁に足場をつくり、作業しているのがわかります。

サンジミニアーノの大聖堂の壁画より

一方、クーポラを建てるには、地上から100メートル以上離れたところで作業をしなければならない。石を積み上げるだけでなく、モルタルもその場で作るので、そのための足場やスペースも必要。

吹き抜け状態の部分までは螺旋階段でひたすら登り続け、そこからは、クーポラを内側と外側に分けて、その間に足場を作る、二重構造になっています。

クーポラへは、いまでも階段を登っていきますが、この階段が、安全対策として当時造られた階段です。ふふふ。登りたくなったでしょう。ぜひ、フィレンツェに来た際には、463段の階段を往復で体験してください!

2. クレーンを作る

レオナルドダヴィンチに先駆けたエンジニア、ブルネレスキ。人力でえっさ、ほっさ担いでいたら、いつ終わるかもわからない。上に持ち上げるだけで体力を使い果たしちゃう。

心配することなかれ。我にプランあり。歯車のはたらきを利用して、上に持ち上げられる仕組みを、すでに設計してある。あとは、腕の良い職人に作ってもらうだけだ。

ブルネレスキのデッサンや文章は、まったく残されていません。これらの設計図は、ブルネレスキの生誕より75年後に生まれる、レオナルドダヴィンチによるもの。

なぜ残されていないのか。

ブルネレスキが、他人の手に渡るのを嫌って、ぜーんぶ燃やしちゃったから。あぁ、なんてもったいないことを。

様々な諸説があり、こんな感じだったんじゃないかなぁ。と導き出されたのが、この建築現場。

クーポラの建設と同時期に、少なくとも4件の建築を掛け持ちしていたブルネレスキ。これらにも、木製クレーンが使われていたかもしれません。

そして、いまだかつて見たこともない、自分たちよりもずっとサイズの大きな道具を、設計図を見ながら作り上げる職人の腕もすごいものです。

木の材質とか、強度とか、歯車がうまく噛み合うような歯の角度とか、いろいろな条件をクリアしながら作っていったこでしょう。

3. クーポラ専用帆船バダローネ

製作:Professore Architetto Massimo Ricci

クレーンを作ったかと思えば、船も作ります。クーポラ用の大理石を運搬する専用船です。

もちろん、それまでも帆船はありましたが、より迅速に、より短期間で運べるようにと、風力を最大限に活かせる構造を考えたのです。ここでも歯車のはたらきが活きています!

時間を短縮できるということは、コストも削減できるということ。事業経営者としても、才ありのブルネレスキ。

製作:Professore Architetto Massimo Ricci

大理石はカッラーラ街から運ばれてきます。いまでも、カッラーラ街の山の尾根は、夏でも、積雪したように白く、太陽の光を受けて、大理石が輝いています。

カッラーラからピサまでは海路にて。ピサからは、アルノ川を逆流してフィレンツェへ向かいますが、フィレンツェは浅瀬なので、途中で降ろして、陸路で建設現場のドゥーモまで運ばれていました。

製作:Professore Architetto Massimo Ricci

まったく新しい帆船バダローネを発明したブルネレスキに、発明料金を支払おうにも、彼は受け入れません。

発明料金はいりません。ただし、運行するごとに、いくばくかの手数料を頂きたい。

発明は、1つの作品として捉えられていたのかもしれません。興味深いエピソードです。彼の言葉は、まだ続きます。

わたしの発明した船とまったく同じものを造るようなら、その場で焼き捨てますので、ご了承のほど。

バダローネの著作権は、わたしブルネレスキにあります。ほかの者が同じもの(コピー)を造ることは許しません。と言っているのです。

史上初のコピーライトかもしれません!

このバダローネ、一度大失敗をしています。

風に乗り、スイスイと重い大理石がフィレンツェに届く、はずだったのに、載積規定以上の重い大理石を積んで、難破。。。嗚呼。

大理石の材料費、諸々の被害総額は、ブルネレスキが全額支払ったそうです。


「フィリッポの革新的なアイデア」
もうちょっと続きます。
次回にご案内するのはこの項目。
4. 石積み技術
5. クーポラ青空食堂がオープン
6. 謎の曲線
7. 労働時間


いままで、5000文字を超える長文を投稿していましたが、せっかく立ち寄って下さったのに、なかなか最後まで辿り着けなくて、負担をかけているかもしれないと考え、今回のシリーズでは、なるべく短い文章で投稿しています。どちらが良いのかなぁ。

最後まで読んでくださり
ありがとうございます!

シリーズはこちらです
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参考文献と掲載写真
La grande storia dell'Artigianato by Giunti Editore S.p.A 
Le cupole sotto il cielo di Firenze by angelo pontecorboli editore
Associazione Fillippo di Ser Brunelleschi
National Geographic
 


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