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ベネチアのカーニバル n.2 ベネチアに生まれ育った、ベネチア女性の想うカーニバル。

Atelier Antonia Sautter
Carnevale di Venezia n.2

第1回はベネチアのカーニバルの様子をお伝えしました。第2回と第3回はアントニア・サウター(Antonia Sautter )さんのアトリエにお邪魔します。

街全体が、運河、小道、路地で形成されるベネチア。雑踏をすり抜け脇道に入った途端に、誰もいない静かな路地に出会うことがあります。まるで中世時代にタイムスリップしたような感覚です。

アントニアさんのアトリエも、そんな路地の一角にあります。部屋に入ると、華やかなドレス、仮面、髪飾り、羽根、ブローチ、アクセサリー、リボン、美しい品々が目に飛び込んできます。

きらびやかな世界に圧倒されていると、スタッフが声をかけてくれて、部屋の奥へと通されました。このアトリエで、スタッフの方から、アントニアさんのお話しを伺うことになります。


nata viva lavora 
ここで生まれ育ち仕事をする。

アトリエの主人はアントニア・サウターさん。ベネチアで生まれ育った生粋のベネチア人です。衣装はすべてアントニアさんがデザインし、仕立て屋のベネチア女性達がひと針ずつ縫った、100%メイド・イン・ベニスの作品です。

海に浮かぬぶ島では、水面に映える光、時間とともに移りゆく色、陸での生活では感じることのできない、特有の美しさがあります。わたしにとってベネチアは美のインスピレーションを与えてくれるミューズ(女神)です。

衣装を創作するにあたり、モデルになるのは、ベネチアに生きた人物であることが多く、ベロニカ・フランコもそのひとりです。ルネッサンス時代の高級娼婦で、教養があり、詩作に長け、当時は存在すらしていなかった女性の権利を訴えた女性です。

もうひとりはカタリーナ・コルナーロでしょう。1400年代中期にキプロス王と結婚し王妃となったキプロスの女王です。イギリスのエリザベス1世や、フランス王妃マリー・アントワネットも、衣装を創作するためのモデルです。

デザインができたら、仕立て屋とともに衣装を作っていきます。理想に近づけるために、途中で何度も変更を加えます。納得いくまで作り込むので、いつ完成するかわかりません。完成したときがそのときです。

2021年はベネチア生誕1600年に当たりましたが、生誕を記念して作ったのが、こちらの「ベネチア」というドレスです。

朝焼けの時間は、生まれたばかりの太陽の光がラグーナ(ベネチアの潟)へ眩しく輝き、海と運河が重なり合い渦巻きます。ベネチアで最も愛する風景のひとつで、その美しいベネチアを表現しています。

2020年に開催されたベネチア国際映画祭にて、イタリア女優ベアトリス・スキャフィーノ(Beatrice Schiaffino)がドレスを纏い、レッドカーペットで発表しました。

参照:Io donna

こちらはイタリアのコルティーナ・ダンペッツォで開催された、2021年アルペンスキー世界選手権のためのデザインです。

参照:Life and People

コルティーナ・ダンペッツォはドロミティ州にあります。衣装は「ドロミティの女王(Regina delle Dolomiti)」と名付けられ、開催式のときにスロベニアのアルペンスキー選手ティナ・マゼが着こなし発表しました。

参照:Instagram Antonia Sautter

雪をイメージした『ドロミティの女王のドレス』に近づいてみると、刺繍、ファー、ビーズ、いろいろな素材と色が織り込まれていて、光が差し込む美しい雪のようでした。

まるでカーニバルの申し子のように、カーニバル時期の2月18日に生まれたアントニアさん。仕立て屋をしてたアントニアさんのお母様は、娘の誕生日プレゼントも兼ねて、カーニバルの衣装を毎年作っていました。

カーニバルのベネチアで生まれ、マンマに手製のドレスを作ってもらい、毎年お姫様に扮装していた幼いアントニアさん。『ベネチアのカーニバルは、わたしの身体に染み込んでいます。』とおっしゃっていますが、この世界へ入ったのはごく自然なことだったのかもしれません。

saper fare bene delle cose 
表現するための技術。

ベルベットの生地に模様を印刷する技術は、900年初頭にオリエントから伝えられました。

厚みのある木板に手で模様を彫り、天然の染色液をつけて生地に押しつけることで出来上がります。アトリエ専用の工房があり、いまも手作業で製作されています。

参照:Instagram Antonia Sautter

衣装に使う素材は、新品とは限りません。ヴィンテージ店や骨董市で見つけたものや、劇場で使われた衣装を再利用することもあります。このアトリエで、再びベネチアの物語の一章として蘇ります。

あるときはベネチアの歴史を紐解き、あるときはベネチアの風景を、1着のドレスに託します。

わたしは夢を叶えましたが、本当に自分がしたいことは何か、そのためにするべきことは何かを知り、常に目標に向かう強い気持ちが必要です。そうして、夢が叶った時に、初めて心から満足を得られます。

アントニアさんのコレクションは約1600着あります。一部の600着がアトリエに飾られており、カーニバル時期に限らず年間を通して貸し出しています。

刺繍やリボンで飾られた、華やかで贅沢なドレスにかけられた魔法は、袖を通す女性達を、たちまち物語の主人公へと導きます。

その方に似合いそうなドレスを何着も試着して決めていきます。そのときの感情はなんとも言えないもので、別人に生まれ変わるような高揚感です。

ドレスを身に纏い一歩外にでたら、そこはベネチア。カーニバル時期はもちろん、観光や新婚旅行で訪れて写真撮影をするのも、忘れられない思い出となるでしょう。

街に溢れる観光客と隣合わせで、細く狭い路地には、伝統を継承し、職人がモノづくりをする世界が、いまも存在するベネチア。

そこには、絵葉書の世界でも、ディズニーランドでもない、ベネチアという街に直接に触れることのできる、生きた世界があります。街を歩いているだけでは知ることのできない、ベネチアの側面のひとつです。

好きなことを仕事に選ぶということは、その時点で仕事ではなく、生活の一部になります。

こう話すアントニアさんがオーガナイズするイベントが、毎年カーニバルの時期に開催されます。それは『体験すべき世界の10大イベント』と称賛されています。

さて、そのイベントとは、どのようなもので、どのように生まれたのでしょうか?

次回に続きます。

最後までお読みくださり、
ありがとうございます。
次回もアントニアさんのアトリエで
お会いできたら嬉しいです。

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文中にでてきた「ベロニカ・フランコ」。
1998年に製作された映画「娼婦ベロニカ」は
彼女のストーリーです。
ご興味のある方は、ご覧ください!



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イタリアのモノづくり | ようこ
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