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子どもが怖い話を作ること ・ アートケアだより2024年10月号

●子どもも不条理な世界を想像する

先日、奈良県立美術館のお招きで「0歳からの家族鑑賞ツアー」を実施してきました。数多くの絵本の絵を手がけたエドワード・ゴーリーの展覧会です。
皆さんはエドワード・ゴーリーの絵本を読んだことがありますか? 
『不幸な子ども』『蟲の神」『狂瀾怒濤:あるいはブラックドール狂騒』『うろんな客』『金箔のコウモリ』… 絵本のいくつかのタイトルから、妖しく恐ろしい、けれど独自のユーモアと品のあるゴーリーの世界が伝わるでしょうか。やっぱり見ないと伝わらないですよね~ 図書館にもあるので、ぜひ一度手に取ってみてください。
ゴーリー本人は自分の絵本は子ども向けに出版して然るべきものだと言っていたそうですが、出版社はそうは思わなかったようです。ハッピーエンドはほとんどなくて、子どもたちがありとあらゆる不幸な状況に見舞われ、挙句は死んでしまう結末だったり、異形のキャラクターが大きな針で相手を突くといった悪態オンパレードの作品など、年齢によっては見せるのがためらわれる内容もあります。
怖くて痛いけれど見てしまう、どこか安心して見ることができるのは、想像の世界、そしてゴーリーの力量ゆえでしょう。
描き方がまたすごい。小さな紙に細密に描き込まれたペン画です。ある絵本を描き終えた時、背景の描き込みにあまりに疲れて4年間、絵本を描けなかったという逸話もあるくらい。

奈良県立美術館「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展は11月10日まで開催中!

鑑賞ツアーで、ハガキより少し大きい程度のサイズの絵を広い展示室で大人数で観るのは難しいです。展示室は6室あり、作品数が多く、全部じっくり見たら疲れてしまいます。
そこで、ご家族があたりをつけられるよう「お子さんと観る時に気をつけること」と、各作品の特徴や展示室の巡り方のヒントを記した資料を配布してご案内しました。

展示室に向かう前の保護者向けガイダンスの時間に「子どもたちもシュールで怖くて、如何ともし難い物語を作ること、それは成長の過程で多くのお子さんに見られること」をお話ししました。その際、「アートケアひろば」の「音ことばワーク」で子どもたちが描いた作品を紹介しました。
「暴力的な表現をする子どもたちは心が病んでいるのでは?」「危険な行動に繋がるのでは?」と心配なさる方もおられます。そのような場合もありますから注意は必要です。でも、楽しく毎日を過ごしていても、不条理な世界を想像したり表現する子もいます。むしろそういう想像をするのは、当たり前のことで、健全なのかなとも思います。
大人も怖い話をしたり映画を見たりしますよね。人特有の「遊び」の感覚だったり、どこか心のバランスにつながる行動なのかもしれません。

●音ことばワーク・物語づくり

「アートケアひろば」では、お絵描き工作を中心とした「美術ワーク」と、音や言葉、身体表現を中心とした「音ことばワーク」のクラスがあります。
どちらのクラスも「子ども本人がやりたいことを表現する」というスタイル。「音ことばワーク」は個人の表現に加えて、お芝居や楽器演奏など、仲間と話し合ってグループで構築していく内容が多いのが特徴です。
もちろん、子どもたちが想像もつかない表現方法もあるので、「音ことばワークで、こんなことができるよ」という表現例のリストを渡してあります。

6月のワークでは、絵本や映画、アニメなど物語の流れをざっくりと書き記す「台割」と呼ぶワークシートに、自分が考えた物語を絵と文字で表現しました。
その日は「みんなに紹介したい本」として、ことわざを怖い話にしたマンガ入りの本を持ってきたお友達がいました。皆で行ごとに音読して「こっわー!!!」と盛り上がった後に「自分たちも書く!」と台割を書き始めたので、作ったお話は怖かったりシュールな展開に。
そんな前提で、どうぞ次の2作品をご覧ください。
ちなみに思いついたアイデアをメモのように形にしていくエチュードなので、絵の完成度は問うていません。1枚10コマを書き上げるのに10分~15分程度、かなり素早いです。アイデアを考えるところからですから、相当に早いと思います。台割のワークをするといつも、子どもたちの発想と、それを見える形に表すスピードに驚かされます。

Yちゃん3年生『トマトソース』

夢の中で何者かに牢屋に入れられる主人公。家族が察知し、目覚めさせようとトマトソースを作り食べさせるも目覚めず。夢の中で追いかけられているうちに100年が過ぎ…
家族に会えるのか?元の生活に戻れるのか?!

Sくん4年生『あかちゃんのゆめ(ゆめのはずが…)』

雲に乗り、虹のようなすべり台で楽しく遊ぶ赤ちゃんの夢。次に遊んだすべり台では…!!

●子どもが怖い話をしたり、不安を出してきたら

Yちゃんの『トマトソース』の語り口、なんとも和みます~ 登場人物の表情や体の動きなどの描写も秀逸。どうしてこんなふうにサクッと描けちゃうんでしょう!

Sくんは『あかちゃんのゆめ(ゆめのはずが…)』のほかに、アメリカで起きた地震と津波から人々がカナダへ、命からがら避難し、1年後にそこでまた地震に遭うというお話も作りました。
日本の最近の地震の多さ、子どもたちも時々不安になっていると思います
Sくんは、日本ではなく海外を舞台とすることで、直接的に自分の不安を表現するのではなく、物語として想像し、創造しています。

子どもたちが怖い話をしだしたら、大人の方は心配し過ぎず、でも注意を傾けながら、子どもが話せるオープンな環境を作ってあげてほしいなと思います。不安や怖れは蓋をするのではなく、安心できる信頼関係のある人たちの中で話すことで、安心が得られると思います。

(写真と作品は、ご家族の許可を得て掲載しています。転送等はご遠慮ください)

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