ルポ:ちひろ美術館・東京さんと「あかちゃん・子どものための鑑賞会」を開催しました
ちひろ美術館・東京さんと、7月28日(日)に「あかちゃんのための鑑賞会」8月18日(日)に「子どものための鑑賞会」を開催しました。
「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ あ・そ・ぼ」展。
アートユニットのplaplaxさんが年間を通じて、ちひろ美術館の3つの展覧会のディレクターをなさっていて、「あ・そ・ぼ」展では《絵を見るための遊具》という楽しい作品が会場のあちこちにあります。《まどのらくがき》《絵の具の足あと》というインタラクティブな作品も!
そして発達心理学・認知科学がご専門の京都大学准教授・森口佑介先生の解説も掲示されています。
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とにかく楽しい展示!
様々な展覧会で子どもとご家族の鑑賞会を実施してきましたが、今回は特に「子どもたちには美術館が楽しいところだと感じられ、大人には、ちひろさんの描写力と子どもの発達について思い巡らせる展示だろうなぁ!」と楽しみに準備しました。
展示室を事前確認した際、plaplaxさんの作品の1つ、くぐり抜けられる箱を、這いつくばって通りましたら、担当学芸員の原島さんが「ここをくぐった大人は初めて見ました~」と。
あらま、ちょっと恥ずかしい。でも思わずくぐりたくなっちゃうんですよ。大人の方もぜひ!
そんな楽しい展覧会なのです。
楽しみながら、ちひろさんが工夫されたことに気づける、とっても素敵な展覧会です。
鑑賞では、いつもの通り「子どもたちが気になった作品についてやり取りし、解説する」という流れをベースに。
0~2歳対象の「あかちゃんのための鑑賞会」では、発達についての観点でご案内しました。
3~6歳対象の「子どものための鑑賞会」では、plaplaxさんの作品を思いっきり楽しみつつ、壁に展示されている、ちひろさんの作品もじっくり鑑賞することを促す構成にしました。
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子どもと能動性
ガイダンスで私は「子どもと能動性」についてお話しています。
「子どもたちは、自分から発した好奇心に基づいて能動性を発揮できると、喜びと意欲や自信が増すサイクルに入ることができる」という流れを図とともにお示ししています。
このサイクルを鑑賞時に活かしてしていただくと、子どもたちが作品に気持ちをフォーカスしやすくなる様子が見られます。
今回、plaplaxさんが作成された、絵を観る様々な視点を提示する造形、特に《まどのらくがき》《絵の具の足あと》は、まさに子どもたちの能動性を刺激するものだと思います。
だから大人が何も言わなくても子どもたちは寄っていって、夢中になって作品と「遊び」ます。
《絵の具の足あと》は少し暗い場所にあるので、「あかちゃん」の回では「怖い」と近寄らないお子さんもいました。が、それもまた成長の一過程です。
3歳を過ぎる頃から、暗いことの怖さよりアクションを起こすと変化する面白さが勝ってくることでしょう。
この作品は2018年に制作され、再展示されました。また何年か後に展示されて鑑賞できたらいいですね!
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心の色を描いてもいい
『まきばのうし』。ちひろ美術館さんのHPで紹介されている森口先生のコメントに、大いに頷きました。勉強になります。
昨年も今年も、鑑賞会で子どもたちが注目した作品です。
すっかり忘れていたのですが、今回のルポを書くにあたり昨年のルポを見直したところ「まきばのうし」について、こう書いていました。
4歳の子が「なんかマグマみたい」と、みんなの前で発言してくれた作品です。
牧場なのに、緑ではなく赤一面の背景。それをマグマと見ると、おどろおどろしさや怖さが感じられます。
そこに描かれているのは、大きな牛が近くにいて、ドキドキしている子どもたち。その心情を、ちひろさんは「赤」に込めて背景色としたのだと想像できます。
そんなちひろさんの色の選択意図が、イメージの連鎖を通して、子どもたちに伝わっているなぁと感じます。
心を、色に託して表現する。
その自由さを、ちひろさんの作品から受け取ってもらえたかな…
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この絵の子、なんで裸なの?
『日傘を持つ女の子と赤い帽子の男の子』には、洋服を着た少し年長の子と、裸んぼの小さな子が描かれています。
「なんで裸なの?と思った」と6歳の子が発言してくれたので、皆でよーく観ることに。
「洋服を着ている子もいるのに、おかしい」
「何歳くらいだと思う?」
「3さい!」「1さい」「わかんない」
「私ね(冨田)、今日の朝、海の近くで走ったんだけど、この絵とおんなじような裸んぼの子を見たんだよ(本当のことです)。あー!ちひろさんの絵に出てくる子と同じじゃん!って子がいたの。絵とそっくり。しかもね、海に入ってるんじゃなくて、置いてあったショベルカーに、ちょこんと座ってた。だからちょっと不思議だった」
そう話したら、子どもたちが一斉に、今日一番の目の輝きで私を見つめ返しました。
全員のキラキラした目の力。すごかった。後ろから見ていたご家族には見えなかったと思います。うーん、お見せしたかった、伝えたい!
洋服を着た子と裸ん坊の子。描かれている世界は、現実ではあり得ないような、作られたものであると思った。なのに、現実にそのような光景があると知った時の驚き。
それならこの絵にあるは本当の世界?
でもやっぱり不思議に見える。
どうしてこんなふうに描いたんだろう。
いろんな思いが子どもたちの中に、駆け巡ったようでした。
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ご家族が「鑑賞会で気づいたことがある!」と話してくださったこと
展示室では、麦わら帽子など、ちひろさんの絵に描かれた様々な「物」の実物が展示されているコーナーがあります。
0歳7ヶ月のお子さんのご家族が、嬉しいお話をしてくださいました。
「実は先日、家族でこの展示を観に来たんです。その時には気づかなかったことを、今日、冨田さんのお話を聞いて気づけました」
「そうですか!どんな気づきですか?」
「冨田さんが『0歳7ヶ月だと、平面より立体物に興味を示しますよ。ただ、まだこの月齢だと、この立体物と絵に描かれている物が同じ、といった関連性には気づいていないと思いますけどね』とおっしゃって、『わ、その通りだ!』と。うちの子、天井からぶら下がっている帽子とか、てるてる坊主とか、立体物に興味を持って見ていました。家族だけでは気付かなかったことです。今日、参加してよかったです!」
お聞かせくださって、ありがとうございました。
そう言って頂けて、励みになりました!
「細かな動きも気持ちを表現しているのが分かって、普段の生活でもそうやって子どもの気持ちを汲み取りたいと思った」と記録用紙に書いてくださったご家族。
「どこ行ってもバタバタなのに、今日は落ち着いていて、しかも鑑賞していて、びっくりしました~」と話してくださったご家族。
ありがたかったです。
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体感型の作品がある中で、絵画作品を子どもが観るには
今回の鑑賞会では、plaplaxさんの作品は、当然ながらみんな大好き。
一方、体感型の作品が多い場合、絵画作品に興味を示さなくなる傾向があることも事実です。
「僕がちひろさんの作品が大好きで来ました」と参加されたお父さんは、ちょっと残念がってました。
お子さんは1歳9ヶ月。「ぶら下がっている帽子や、登ったり、覗いたり、庭の水撒き(スプリンクラーの放水)を楽しそうに見ていた」ので、お父さんは「いっしょにちひろさんの絵を見たいなぁ」と…!
(記録写真には一緒に作品を見ている姿が写っていました。でもご自身の体感と異なることってありますね)
小さい子どもたちは、額に入って壁に並んでいる絵画作品よりも、立体や動きの伴うものに気が向きます。そのような環境の中、いかに絵画作品を見てもらうか。
「遊び」であり「鑑賞」であり。
きっと展示を構成されたplaplaxさんも学芸員さんも、工夫されたことがたくさんあったのだろうと思いました。
体感型の作品がある良さも、もちろんあります!
今回、例年以上に、ちひろさんの作品を観て、子どもたちそれぞれ異なる、多様な作品に着目するという素敵な様子になりました。
それは、plaplaxさんの作品で体を動かし、音を出し、いっぱい能動性を発揮できたことが大きかったと思います。
子どもには「緩急」が大事。
だから、plaplaxさんの作品を満喫し終えた頃合いで、ちひろさんの絵画作品を見るよう声かけをすると、子どもたちはスッと集中できました。
そしてまた体を動かして、集中して…良い循環が生まれます。
子どもが鑑賞しやすい美術館って、どんなだろう。いろいろと思い巡らせました。
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ちひろ美術館・東京 「あ・そ・ぼ」展は、2024年10月6日(日)まで開催中です。
https://chihiro.jp/tokyo/
(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(ちひろ美術館・東京さんが撮影し、当会へご共有くださった写真を掲載しています。鑑賞会の際、美術館と当会SNS等で掲載する旨を、ご家族にご了解いただいております)
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