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アートケアだより 2023年8月号

 毎年恒例、6年生ご家族へのインタビューです。
 物事の感じ方や捉え方、行動の仕方など、子どもたちそれぞれに特性が違います。どう育ててきたか。ご苦労も喜びもたくさんある。ご家族の思いと工夫を共有させていただくことで、他の皆様の育児のヒントになればとお聞かせいただいています。
 今月はKくんのお母さんIさんです。

●友達に「生きる目的」を聞く我が子


冨田:Kくんは哲学的だなぁと感心しています。どうして哲学的な面が育ったのか、気になるところです。
I:本を読むのが苦痛じゃないようで、その辺に置いてある本でも新聞でも何でも読むんです。しかも読んだ内容が結構インプットされていて、例えば武将の話が出てくると「お父さんの歴史雑誌の何号のどの辺に系図が載っていた」とか。頭の中でどう整理されているのか?脳の中が違うんだろうなぁと思ったりします。
 幼稚園くらいの頃からそんな感じで、でも経験が伴っていないんですよ。本と自分の世界。人とコミュニケーションを自ら取りたいと思い出したのはここ数年なんです。遅ればせながら、経験が増えているところです。

冨田:コミュニケーションに積極的になったきっかけってありますか?
I:5年生でガンダムをきっかけにできた友だちが、自分の歴代の好きだったものと興味が似ていたそうなんです。そのお子さんは社交的でいろんなことを知っていて、どんな話題もヒットして話してもらえるみたいです。
冨田:今も同じクラスなのかな? その子を介して他の子との交流が広がったといったことはありますか。
I:今も同じクラスです。周りの子とも少しは話しているみたいです。心をゆるせる、危害を加えられないという気持ちになれたみたいですが、今も「なんかわかり合えない」「話しても話しても通じないんだよ」って言ってます。
 でも本人の話したい内容が独特で、先日は「お母さん、今日、〇〇くんに『生きる目的について考えたことある?』って聞いたんだ」っていうんですよ。私も主人もびっくりして、「どういう話の流れから?」って聞いたら「急に」って。「その子はどう思った?びっくりしてなかった?」「いや、普通に話したよ。〇〇くんと自分の考えは違ってたけど印象的だった」と。
 そばでその会話を聞いた子が「難しい話してんじゃねーよ。もっと面白い話しようぜー。バナナの前を歩いているのは? 答えニンジン」って言ったそうなんです。
冨田:ニンジン?不思議ななぞなぞですな。答えになってないからおもしろい、みたいなものですね。
I:そうなんですけど、Kは「もはやクイズでもなけりゃなぞなぞでもない話をしてるんだよー」って。
冨田:ナンセンスマンガのノリで、Kくんのツボと違うタイプですよね。そうかぁ。いろんな人がいるっていうことを経験してるんですねぇ。
I:そうだと思います。キライとかではなくて、話し合いにならないからストレスを感じるらしいんです。本で読んでいる通りに物事は進まない。ということを、経験しながら学んでいるところかと思います。

 大きくなるにつれ、本人の悩みの内容が変わってきています。低学年の頃は「牛乳パックがたためない」とか、「お母さん、今日、給食で魚しか食べられなかったんだよ。魚の骨を取り除いていたら時間がなくなっちゃったんだ」といった具体的なことが多かったんですけど、最近は先ほどの「生きる目的」みたいな「大人でもそういうことで悩んでいるんだよ」という種の話です。

3歳 初めてワークに来た日

●対応を何パターンか想定する子育て、こんなに頭が疲れるなんて!

冨田:小さい頃のことをもう少し聞かせてください。
I:小さい頃から観点が不思議で、例えば小さい子って、思い通りにならなかったことを何度もぐずって要求してきたら大人から「何度も言わなくてもいいじゃない、だったら外に行きなさい!」みたいに言われたら、「ごめんなさい~」って、とりあえず場を納めようとすることってありますよね。でもそういうことが一切なく、周りが何を言おうが、おおもとの原因が解決しない限り態度を変えないんです。おばあちゃんがお菓子で釣ろうとしても、揺れない(笑)
冨田:周りは大変でしょう。
I:「こういうことはこうなりそうだ」と予測が立つものに対して事前準備というか、何通りかのパターンを想定してましたね。時間が足りないのを嫌がるので、1日に1個しか予定を入れない。焦らせたり、やれなくなることがないようにする。
 子育てって大変って聞いていましたけど、私、こんなに頭が疲れるなんて!って思ってました。下の子の時はそうでなくて肉体的な疲労だけだったので、Kだからだったんだと今は思います。それと子どもが大きくなると、物理的な大変さとはまた違う大変さがありますね。
冨田:何通りかのパターン想定もすごいですし、最近の哲学的な問いに対して、ご家族が丁寧に対話していらっしゃるのがすごいな、と思っています。
I:Kをきっかけに、自分自身がもっと考えるようになりました。私なりの答えを出せない、と思ったら、今の社会を知ることなど、いろんなことを知ったり、考えなきゃって思うようになりました。
冨田:子どもの持って生まれたものによって、大人の世界も広がりますよね。
I:本当にそう思います。今まで考えもしなかったことを考えざるを得ないってことがあらゆる面であります。この子じゃなかったら考えなかったようなことが。
 最近、こちらも話し方が変わってきて、小さい頃のように「これはこういうことだよ」と教えるのではなく、今は「お母さんはこういうことのような気がするけど、どう?」とか「こう言っている人もいるみたいよー」という感じで話してます。いろんな考えがあるねと。彼も「お母さん、ここ読んでみて」と本を見せてくれたり。
 「この話題はお父さんが詳しいから聞いてみよう」って私から振っていたこともあってか、本人も「この話は是非ともお父さんに聞いてみたい」と話題によって聞く人を選んでいるようなところもあります。

●適当にしないのはなぜ?


冨田:親としては、面倒くさくて適当に返すこともあって当然と思うんですけど、そうでないのはなぜでしょう。
I:小さい頃に、時間がかかる子だったからかもしれません。私は子どもが生まれる前は、やれることはダーって入れちゃう方だったんですけど、生まれた子どもはすごいスローペース。私のペースにこの子を巻き込んじゃいけないって思いました。
 仕事をしていなかったからスローペースでできたんだと思います。お仕事をされている方はそうはいかないですよね。
冨田:お仕事のことやお体のことを、書いてもいいですか?
I:はい。
冨田:有名なダンスチームに所属してダンサーとしてご活躍されて、何年か前に人工股関節の手術をされて。
I:結婚する頃に、もう足が痛くて続けるのは難しいなと仕事をやめました。仕事をしなくてもいいよというありがたい状況ですよね。だから子どもと過ごせた。
 仕事がのっている20代後半の頃だったらやめなかったと思いますし、結婚する時、子どもができないかもしれないと言われていたことをを伝えて結婚したんです。不妊治療もしたんですが自然妊娠で「あ、できるんだ」と。
冨田:まぁ!そうだったんですか。仕事のこと妊娠のこと、何か見えない力で準備されているような。
I:流れに逆らわない。
冨田:最近までダンスを教えていらっしゃいましたよね。
I:姪っ子たち中心に、週1回しかやらないと決めてやっていました。人工股関節の手術を機に終えました。
 手術するタイミングは、子どもたちと出かけられる時期にしたいなと思っていたんです。もっと大きくなってから手術しても、誰も一緒に出掛けてくれないと思って。手術して、子どもたちと山登りやキャンプに行けました。(ダンスの仕事がなくても)それでもう充分っていう感じです♡

●創作と心の変化


冨田:そうだ、アートケアのこと、話してなかった!入会されたのは3歳、年少さんの頃。
I:もっと小さい頃に参加していたんですが、ワークの時間ちょうどおっぱいおっぱいで、飲むと寝ちゃうんですよ。それで昼寝のタイミングが変わってから来ようかなと。
(2人でアートケアのアルバムを見ながら)
冨田:粘土で電車ですね~
I:この頃、全部、電車でした。
冨田:最初の電車はまるっとしてますけど、次の月から細長く、本物の形と似た作りに変化してますね。3ヶ月後には線路も作ってますね。変化が早い。

年少さん11月 「電車」
12月 細長い電車に変化
年少さん1月 粘土で「線路」を作る
2月 ふわふわの綿で「雲」ハッピーな様子!

 翌月、別なテーマになってますね。折り紙と綿で「空」。いい笑顔! 次も綿で「通す」がテーマ、その次が「形をつなげる」になっていますね。
 私、子どもの成長について「螺旋状の成長」ってお話しすることがあるんですよ。大好きなテーマで表現して、違うものに興味を持ってそのテーマから離れて、でも再び同じテーマに戻ってきた時、以前に興味を持っていた頃より内容が一段進化しているんです。
 ほら、次に電車を作り出したこの頃は、前の電車と違うでしょう。車種が増えて1つ1つの特徴を表現し分ける、リアリティを追求し始めている。1回で終わらせず何ヶ月かかけて作るようになったり。
I:ほんとだ、おもしろい!

年中さん8月 車種がはっきりしている
年中さんの秋から冬、時間をかけて大きめの電車を制作
ジオラマに!


冨田:次のステップは1年生の冬に来てますね。自分が操縦できるサイズで、よりリアルに。マスコンハンドルは動かせるように工夫して作っていて、楽しかったですよね。この時期の制作は、お父さんにだいぶがんばっていただきました。

1年生12月 動かせる!「マスコンハンドル」
ダンボールに発色の良い絵の具で塗る 気持ち良さそう〜
月1回90分のワーク5ヶ月かけて完成!

冨田:あ!このロケットの工作はいつだろう?入学直前じゃないかな。あ、やっぱりそうです。年長さんの2月。
I:え~どうしてですか?
冨田:これ、ロケットともう1つ別なもの、鉛筆に見えませんか?子どもって、自分の心に気になるトピックスがあると、無意識のうちにそれに近い形を表現することがあるんです。学校に入ったら鉛筆で字を書きますよね。学校のことが気になっている入学前の時期に、鉛筆のように見えるものを作ったり描いたりする子が、ちらほらいるんですよ。本人が言っているのは「ロケット」だけど「鉛筆」も象徴している。
 「ロケット」自体も、宇宙に飛び立つものですから、「卒園して学校に行くんだ~」という気持ちを代弁しているようですよね。

入学を意識し出している頃、年長さん2月「ロケット」


冨田:入学してすぐの頃は「楽しく行っている」。5月はワークをお休みして、あらら6月は「Kにとって学校のペースははすべてが早く、いつも焦って駆け足で過ごしている感覚みたいです」とありますね。「体中にじんましんが出たり」って辛い!
I:ずーっと学校が辛い気持ちがある中、本人、がんばってました。毎年3,4月頃に、チックが出るんです。出ても主人と2人で「あ、何か心配なんだねー」って思って特に触れずに過ごすんですね。そうすると終わったかな?と思ったらチックが別な形で、例えば咳払いをするとか違う形で出て「まだ何か心配あるんだねー」と。そしてだんだんおさまってくるんです。
冨田:触れずに見守るって大事ですね。指摘されると追い込まれる子もいますから。
 あ、これ、うさぎの絵が描けなくて泣いたこともありましたね。
I:その時、冨田先生がトレーシングペーパーを出してくださって、そこから持ち直してしばらくトレペにはまってました。
冨田:できなくて泣いて終わりじゃなくて、どうしたらできるようになるかが大事だと思っていて。

1年生の夏「うさぎ」


●学校!自分に合う方法を見つけて先生に相談してみる


冨田:コロナ時期はいつだったのかな、2年生の終わり頃?
I:今、4年目だからそうですね。3年生の始めが時差登校でした。
冨田:ありましたね、時差でクラスを2グループに分けて教室で過ごした時期! その頃、少人数で良かったという子もいましたけど、どうでしたか?
I:Kには良かったです。少人数とか学校がしばらく休みだったとか。お仕事があるのに家庭にいないといけなかったり、学校がないことで不安なお子さんもいたと思うんですけど、うちは逆に精神が安定して。機嫌がいい、子どもがリラックスしているから親もリラックスできて「学校、このくらいでいいよねー」なんて言ってました。あの、私個人的に思うんですけど、学校って忙しすぎないですか?
冨田:というと?
I:低学年の頃、とにかく宿題が大変で、夕方学校から帰ってきて、一休みして宿題に取り掛かったらもう夜なんです。ご飯食べてお風呂入って寝るだけ。自分の好きなことをできる時間が取れるのは週末だけ。もう少し平日に自分の好きなことができたら、ストレスも違うと思うんですよ。

 2年生の時の担任の先生は漢字練習に厳しい方で、十字に分けられたマスの区分の中のどの位置まで線を書くか、トメハネはどうか、細かく確認がある。すごく気にして「これじゃぁダメだー!」って泣きながら何回も消して書き直すんです。あまりに消しすぎて穴があきそうになるので「これで大丈夫だよ、もう消さないで残そう」って言い聞かせて。

 「漢字練習は1文字10個」というのも「なんで10個書くの?」と彼には意味がわからない。「覚えるためにだよ」「10個じゃなくても覚えたらいいんだよね」「じゃぁ何個書いたら覚える?」「3個」と。2年生の時、とても大変だったので、3年生になって先生に相談したら「いいんじゃないですか」と、覚えるなら3個でよしとしてもらえたんです。自分で決めた個数なので、集中して覚えてました。

 授業中に、先生が言ったことや黒板に書かれたことをノートに書き写すってあるじゃないですか。それがKにはとても難しいことだったんですね。それで本人「試しにノートに書かないで先生の話を聞いてみたんだよ。そしたらすごくよくわかったんだ」って言うんです。それを先生にお伝えしたら、これまた「自分に合う方法を見つけたんだからいいですよ」と、板書も本人の意思に任せてくれました。
 こんな感じで、自分にとって不要と思えることへのエネルギーを減らすと落ち着くようなんです。

 5年生の時の先生は、本人も大好きな先生で、子どもたちの意見を採用して「1週間単位で金曜に宿題を出す」と決まって、平日、自分でペース配分できるようになったんです。自分の責任だから木曜の夜にできてなかったとしても必死でやってました。

 最近は算数の教科書で、いくつか答えを出すまでの考え方の例が載っているんですけど「これ、おかしいよ!!こんなまどろっこしい考え方はしないと思う」なんて教科書にダメ出ししてました。「いろんな考え方があるよと載せているんじゃないでもお母さんもこの考え方では解かないと思う」って言っちゃいました。
 私ってほんと、学校の先生からしたら面倒な親だと思うんですよ。
冨田:そうかしら?
I:毎年、学年末に担任の先生に面談をお願いして、「彼はこういう特性があるから、来年の担任の先生にこういう申し送りをお願いします」とお話ししていたんです。
冨田:不満そうな伝え方だと面倒な親だと思われるかもしれませんが、Iさんは面倒な親だとは思われないと思いますよ! 対その子の特性と対応について情報がある方が、先生方も楽だと思います。
I:今思うと、彼は言葉で自分の気持ちや困っていることを説明することができるから、助かってました。具体的に聞くと、わかるように話してくれるので、こちらもどう対処したらいいかわかります。下の子は「なんかやだ、とにかくやだ」なので分からなくて。
冨田:それぞれの特性で苦心されるところも違いますね。

3年生9月「北條氏綱」 武将シリーズを制作していた頃


4年生 ガンダムシリーズ 陰影に着目!


●他の人や物事の、いい部分を見つける回路ができた


冨田:アートケアでも終わりの時間が決まっていますが、大丈夫だったのかな。
I:アートケアでは怒られたり否定されることが一切ないから、大丈夫なんだと思うんです。
ワークの終わりでみんなの作品を見て話す時も、彼は否定的なことを言わないなぁって見てます。それは、アートケアでいい部分を言い続けてもらえたから、いい部分を見つける回路、みたいなものができたんだと思うんです。
 「こんなことを言ったら可哀想だよね」ではなくて、良いところを見つけ、自分はこんな風に見える感じる、と言えるようになっている。
冨田:教科書にはダメ出しするのにね!
I:本当に(笑)

冨田:Kくん、すごい!といつも感心していることってたくさんあるんですけど、中でも質問の仕方が素晴らしいんです。Kくんは「こうしてみたいと思ったので、こうやってみたら、こうなった。なので次はこうしてみようかなと思うんですけど、どうでしょう。他にいい方法はありますか?」と聞いてくるんですよ。「教えてくださーい!」みたいな丸投げの質問ではなくて、自分で考えて案を出した上で質問してくる。これは「仮説→検証」のような学びを深めるプロセスにも重なっているので、これから先、どんな分野で学びを深めていくか、とっても楽しみに思っています。

5年生「雑巾」デッサン
右上の折り畳まれた箇所をどう描くかなど質問を重ねながら描き進めていました。
ループ状に編まれた糸の目など投げかけると、自分で工夫を重ねてすごい。
(ワークは月1回なので)結果、数ヶ月、取り組んだ作品です。


・・・・・・インタビューを終えて・・・・・・

 小さい頃、作業か上手くいかないくて感情がたかぶっていた時、どうしたかったかを聞いて、気持ちを整える関わりを持ちながら、一緒に案を考えて作業したことが懐かしいです。
 いつだったかご家庭で上手くいかないことがあった時に、Iさんが「冨田先生とだったら、こういう時どうする?」とKくんに投げかけたら、落ち着いて考えることができた、と聞かせてくださったことがあります。その時、アートケアでの経験が日常に役立っているんだと、ありがたく思いました。

 もっとも、Kくんがこんなふうに気持ちを整えて論理的に考え、人に伝えられるようになった1番の原動力は、ご家族が日々、Kくんに合うスタイルを考え、あたたかい気持ちで対応されてきた。その積み重ねゆえだと思います。そしてKくん本人の力。

 今、お子さんのことで大変だと思っていらっしゃるご家族の皆さん、子どもの特性はそれぞれですが、気持ちを整えやすい環境を作るというのは、どの子にもお勧めですよ。そしてみんな成長します! 子どもの成長する力を信頼して対応されると、一歩ずつ、開けてくると思います。

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