パリ オランジュリー美術館 『0~2歳鑑賞会』『3~5歳ダンス鑑賞会』ルポ
6月16日(日)午前、パリのオランジュリー美術館で鑑賞会を見学しました。
系列のオルセー美術館・研究員Yannick Le Papeさん(ヤニックさん)のお話によると、オランジュリーの乳幼児鑑賞会は、数ヶ月前に始めたばかりで、ファミリーエリアも改装して新しく作ったのだそうです。
ヤニックさんは、乳幼児の鑑賞会について調査なさっています。
「フランスでは乳幼児の鑑賞会があまり行われていませんでした。それで世界各地で行われている乳幼児の美術プログラムについて調査し、パリでプログラムを作る際の参考に、と思ったのです」とおっしゃっていました。
そんな経緯で開催されたプログラムは、詩のようなガイド、物語性のある世界観で、子どもたちを惹きつける魅力がいっぱいでした。
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オランジュリー美術館の『ファミリーエリア』
靴を脱いで上がれる「ファミリーエリア」は、子どもたちがアーティスティックな遊具に触れたり、あちこち歩いたり、保護者もくつろげる空間です。
私も日本で開催する際、「ガイダンスは、靴を脱ぐか椅子に座ってくつろげるスペースでできると、ありがたいです」と美術館の担当者さんにご相談しています。
こじんまりした規模感、波状に起伏を持たせた椅子になる床の構成、それらの素材や色合い。小さい子どもたちに適した理想的な空間でした。置いてあるアート感覚を広げてくれる遊べる物も、年齢によって使いたくなるもののバランスが取れていて、何歳になっても楽しみに思うことができるはずです。
コートやベビーカーを置ける専用のクローゼットスペースがあるので、空間がすっきりと見えて落ち着けます。
本当に素敵な環境です!
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オランジュリー美術館『0~2歳鑑賞会』
0~2歳の鑑賞会、この日は3組。0歳9ヶ月、1歳11ヶ月、2歳0ヶ月のお子さんと、どの組もご両親ともに参加していました。
少人数だと、すごく親密になれていいですね~。子どもたちの不安も少なくなりますし。
私は最大で15組程度30人までという規模で実施してきましたが、コロナが大流行した時期に少人数5組で実施して、なんてラクなんだ~!!と思いました。
少人数と大人数、それぞれ大変さと良さがあります。少人数の場合、1人1人と目線を合わせ、ゆったり関われるので、参加者さんはもちろん実施者としても嬉しい状況となります。
前日に訪れたフォンダシオン・ルイ・ヴィトンの鑑賞会と同様に(ルポはこちら)、ガイドする担当者さんは、たくさんのグッズが入ったカバンを持っています。
この回のガイドはSandra Beaufilsさん(サンドラさん)。胸から下げたバラの花のついた名札、私も同じような飾りを身に付けていたことがあり、とても親近感を覚えました。
フレンドリーかつ冷静に集団をリードする、素晴らしい力量をお持ちの方でした。
「ファミリーエリア」で集合、リラックスした雰囲気の中でガイダンス。その後、展示室に向かいます。さぁ、赤ちゃんたちはモネとどう出会うでしょう!
サンドラさんの「太陽の光がキラキラ… 水面が…」(正確には聞き取れていません…)と話される言葉は、詩の朗読を聞いているかのようでした。フランス語の響きも相まって、なんだかうっとりしてしまいます。
あえて静かな口調で話しかける方法は、子どもたちが静かに意識を向けて聞く姿勢を作る秘訣でもあります。この方法は、広く保育や教育の現場で活用されています。
でも、サンドラさんの語りかけは、子どもを静かにさせるためというより、ガイド自体が高い芸術性のあるパフォーミング・アーツのよう、そんな印象を持ちました。
ララララーラー、ラーララーと、フランスではポピュラーな歌なのか、ご家族にも呼びかけて皆で歌いながら移動していました。これまた和みます~。日本の美術館で鑑賞会をする時は、歌は控えてと言われてしまう現状です。この先、日本の環境も変わってくるでしょうか。
1人、作品に近づきたくなるお子さんが! 終始、ご両親が抱っこしてセーブ。2歳イヤイヤ期の様子は日本の子どもたちと同じだなぁと思いました。
でもその日に集まった子たちは比較的、穏やかな様子でした。そしてご両親のセーブの仕方も、さりげなく、穏やか。
日本では、かなり神経質に、必要以上に叱るように子どもを静止するご家族が多いので(その反対に、全く子どもを見ない方もいて、極端な感じがありますが)、日本では子連れの方々にとって、美術館がいかに緊張を強いる場所であるか、あらためて考えさせられました。
サンドラさんは、語りながらカバンから次々とグッズを取り出し、親子に手渡します。
睡蓮に描かれているモチーフ、筆のタッチ、色、木の形、ふわっとした質感。
作品との連動は見事というほかありません。
赤ちゃんにはまだ、睡蓮やモネ、絵の構成など作品について、はっきりとは理解できない。けれどこの展示空間で経験したことは、きっと何かの感覚につながる素敵な「蓄積」になるだろうと思いました。
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オランジュリー美術館『3~5歳ダンス鑑賞会』
ダンス鑑賞会のガイドはEva Margailさん(エバさん)。朗らかで、一目で「この人となら体を動かしてみたい!」と思える雰囲気を持った方です。
7~8組が参加。車椅子のお子さんも参加していました。
子どもたち皆で手をつないでもらって、お名前&挨拶。準備体操のように手足を少し動かし、リラックスと一体感を促していらっしゃいました。素敵な導入!
チーンと音の響きが美しい打音を、集合の合図にして移動します。広く混雑した展示室で、よく聞こえる音、かつ耳に心地よい音です。
オランジュリーのモネの展示室は2室かつ広いので、鑑賞ツアーの参加者に、移動に伴うストレスが少ないように思います。
全体が楕円形をしており、ベンチの近くに、ある程度の人数で集まって動くことができるスペースを確保できます。これにより、実施者、参加者、他の鑑賞者、全員にとって過ごしやすい緩やかなゾーニングがなされていました。
鑑賞会はとても楽しげで目を引くもので、展示室にいた人たちが、しきりに撮影していました。でも保護者も美術館の職員さんも、誰も気に留めていませんでした。これも日本と大違い。
0~2歳と同様、ダンス鑑賞会でも、鑑賞を助ける様々なグッズが用意されていました。
特に、大きな青い布を使って池や漣をイメージするタームは、子どももご家族もピカピカの笑顔で体を動かしていました。
ハスの葉を模したグッズも大活躍。扇のように扱って動きを編み出したり、輪に並べて皆が座って集合できるようにしたり。アーティスティックで、流れるような美しい展開です。
最後に小さな素敵な箱の中から、大切に取り出されたものは… 睡蓮の花!
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この2つの鑑賞会では、大人も子どもも皆、幸せに過ごしていました。
きっと天国からモネも嬉しく見ていることでしょうね。
世界の宝であるモネの睡蓮の部屋で、こんなに素敵な時間を持てるなんて夢のよう。
小さい子どもとご家族にとって、そして次世代へアートの心を継承する上で、価値あるプログラムだと思います。
オランジュリー美術館 https://www.musee-orangerie.fr/fr
(写真撮影び掲載について美術館のご担当者様に許可をいただいております)