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実施ルポ:松任中川一政記念美術館「0歳からの家族鑑賞会ミュージアム・スタート」 「こども園・2歳児クラス鑑賞会」
白山市立松任中川一政記念美術館さん主催で「0歳からの家族鑑賞会ミュージアム・スタート」と「こども園・2歳児クラス鑑賞会」を開催しました。
今年で8年目。すっかり「ホーム」という気持ちです。
鑑賞会自体もアットホームな雰囲気です。小さめの美術館で少人数で実施するから、というだけではなくて、職員さんも参加者さんもあたたかい。通常、小さい子を連れて鑑賞会に参加するご家族は「大丈夫だろうか?」と緊張されていることが多いのですが、ここ松任中川一政記念美術館さんの鑑賞会にお越しの皆様は、緊張しつつもリラックスされているんですよね。松任という土地柄なのでしょうか?!
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今回鑑賞する展覧会は、「書」がテーマの1つとなっていることもあり、例年とは違う導入を用意しました。
美術館にお願いして、2作品を等倍でカラー出力していただき、筆でそれをなぞることができるようにしました。
なぞらなくていい、という投げかけです。小さい子は筆を触ること自体がまず楽しい。そしてぐるぐる筆を動かすことが楽しい。
文字に興味を持つ園児さんや書写をしている学童期のお子さんたちは、こちらから言わなくても文字をなぞります。
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模写をすると、その作家の制作プロセスが追体験できます。造形的な発見とともに、作家の想いやそこに込められたエネルギーなど、有形無形に感じることができる。
ですので私は時々、保護者の方に「お子さんの絵を模写してみてくださいね」と伝えることがあります。上手下手で見がちな子どもの絵に対して、模写することで違う感覚を持つことができるので、とてもオススメです。
ということで「大人の方もぜひ」とお声かけしました。
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一政さんの文字は、学校でお手本としてなぞった書体とは全く異なるので、大人の方にも新鮮。そして芸術としての書、中川一政という作家の書を実感していただけたご様子でした。
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展示室では、小さなお子さんたちは書より油彩に興味を持ちます。
展示室入ってすぐには、ほぼ常時展示されている『駒ヶ岳』(1975)があります。
3歳の男の子が2人、別々の時間に参加していたので影響しあったわけではないのですが、注目していました。「恐竜!!トリケラトプス!」と言う子、雲のあたりを「ライオン」と言う子。2人とも生き物を見つけていました。
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他に今年の特徴として、例年ですと着目度が低い、小さめの風景画も着目されていたことが挙げられます。『マリア園眺望(長崎)』(1960)『福浦』(1968)など。
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お話しできる子どもたち(今回は1歳~6歳)は、そこに何が見えるか、みんなと話して共有することがとても楽しそうでした。鑑賞会で初めて会った「おともだち」と作品を見てお話しする、すてきな経験だなぁと思います。
0歳の子たちもじっくり観ていて、ご家族がたくさん記録用紙に書いておられました。
薔薇の作品に触発されて「クルクル〜」と回った子がいました。
みんなで「クルクル〜」。体感覚で鑑賞するのも、子どもとの鑑賞ならではです。
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さて「書」の作品。好んで見られた作品も多々ありました。
一政さんの書は、一つとして同じ字体がありません。漢詩など先人の思想や書への造詣が深い方なので、それら先人の真意が一政さんの体を通して出てきた、そんな力強さがあります。
3歳のお子さんが『万葉屏風「矢釣山」』(1990)を選びました。
「今という漢字を指差してうなずく。理由はかっこいいからだそう」
そうですか!あっぱれです。
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今年も来てくださった、かわちこども園の2歳児クラスさん。
みんなで展示室1つずつ鑑賞して「このお部屋でどれが一番気になった?」と聞かれてドキドキしながらお話しして、話し終えると誇らしそうにしている園児さん! 親御さんに見せたいキュンとなる姿です。
ちょっと高いところにある作品を見たそうにしている時は、先生方が交代で抱っこしてくださいます。先生方、いつもありがとうございます!
3室すべて回って、あらためて「どれが一番好きだった?」と聞くと、「私はこれー」「僕はこれー」とにぎやかに気に入った作品のところへ戻っていました。
誰にも気兼ねなく自分の観点で作品を選んでいる、その素直さに、このお子さんたちが経験している日頃の保育の素晴らしさに想い馳せました。
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後日、美術館にメールで送られてきた「参加者の皆様からご感想」をそのまま掲載します。(美術館を通じてご家族に掲載の許可をいただいてあります)
お子さん:1歳4か月
初めて行く場所には泣くのではないかと不安になります。まして美術館となると静かにしなくてはと思ってしまいますが、今日は貸切にしてくださり、安心して参加することができました。
1歳児が美術作品を見てもわからないと思っていましたが、たくさんの作品に触れて、指を差したり反応してくれていました。先生のお話にも耳を傾けていた様子でとても嬉しい時間になりました。
一人一人にメッセージもいただき、普段の様子とまた違った様子を見てもらえる機会が少ないので嬉しかったです。お写真大切にします。 今日はありがとうございました。
お子さん:3歳
毎年参加させて頂きありがとうございます。
3回目の今年はぐずって泣くこともなく、眠そうな様子はありましたが、その場に最後までいられたことに成長を感じました。
今年もお声をかけて頂きありがとうございました。
写真も嬉しかったです。
人見知りはしますが、保育園や家では豆を撒くほどお喋りします。
絵本の読み聞かせも大好きで、人の話を聞くことも少しずつできているように思います。
貴重な経験をさせて頂きありがとうございました。
お子さん:0歳9か月
貴重な機会をありがとうございました。お写真もありがとうございました!良い想い出が増えました。
美術館での鑑賞は我が子にとって初めてでしたが、まだ早いと思いきや、先生のおっしゃる通りモノクロのものをじーっと見ており、子どもながらに何か色合いなど見ていたのかなと思いました。作品を見て笑ったりはしませんでしたが、きょろきょろとお部屋全体を見渡しては興味津々でした。
我が子が一番小さい月齢でしたが、他の子は華やかな絵を見てにっこり笑ったりしており、次来た時は我が子のそのような様子も見られるのかなと楽しみです。
私自身、そちらの記念館は久しぶりです。地元なので、母や学校行事で来た記憶は薄らあります。また、母の影響で絵画コンクールに出して、ひまわりの絵で賞を取ったことがあり、帰ってから母ともその話ができて良かったです。近くてもこのような機会がなければ美術館に足を運ぶこともなかったでしょうし、良いきっかけとなりました。イベントは来年もあるのでしょうか、また伺わせていただきます!ありがとうございました。
お子さん:0歳9ヵ月
先日は0歳からの家族鑑賞会に参加させていただきありがとうございました。
写真も、娘と2人で写っているものがほとんどないので嬉しいです!(いつもわたしがカメラマンなので。。。)
当日は初めて0歳の娘とゆっくり作品を鑑賞することができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。
また、冨田先生や美術館、市のスタッフの皆様からはあたたかな対応と、優しいお声かけをいただきまして、ありがとうございました。
小さな子供連れで気兼ねなく美術鑑賞できる機会はなかなか無いので、休館日に開催していただき大変ありがたかったです。
0歳ならではの作品を見た時の子供の反応がとても可愛いくて、これからも色んなアートを一緒に楽しみたいなあと思いました。
子供の反応を観察してみると、興味の有無がこんなにもはっきりしているものなのかと驚きました。
アートを通して子供の成長を感じることは、とても楽しくて素敵な事だと、今回学ばせていただきました。
また機会がありましたらぜひ参加させていただきたいです。この度は本当にありがとうございました。
お子さん:1歳2ヵ月
こんにちは。先日は楽しいイベントを、ありがとうございました。
息子も楽しそうにしていたのですが、私や夫も、育児とはまた離れた美術館という場所で気持ちがリフレッシュできたと思います。とても良い時間でした。
乳幼児と、芸術や文化はあまり関係がないと思っていましたが、触れ合うことで子どもたちも刺激され、親にとっても貴重な思い出になるのだと知りました。
とても良い企画だと思ったし、冨田めぐみさんと一緒に働いてみたくなりました。またこのような企画があったら参加したいです。
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皆様のご感想は、美術館の職員さんと、いつも嬉しく拝見させていただいています。
なんだか気恥ずかしいコメントもいただいておりますが、こういったご感想の1つ1つに励まされています。励まされる、それはきっと美術館の職員さんも同じだと思います!
皆様、今年もありがとうございました!
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白山市立中川一政記念美術館 「中川一政 書と陶芸の世界 ー 画家の余技を超えて ー 」 は、11月24日(日)まで開催中です。
https://www.hakusan-museum.jp/nakagawakinen/
(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(美術館で撮影し、掲載許可をいただいた写真を掲載しています)