ライブ映画オタクによるムビナナ感想と考察
「ムビナナ」こと『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』を鑑賞しました。
気になるところを見直したかったので、ABEMAで配信が始まるまで待っていたら結構時間が経ってしまった…。
この1年はライブシーンのあるアニメーション映画が盛り上がりを見せたので、ムビナナについての感想を中心に所見をまとめることにしました。
※セトリや演出についてがっつりネタバレしています。
また、軽率に他の作品やライブを例に出したり比較しているので苦手な方はご注意ください。
筆者について
・ファン歴が干支を一周したうたプリのオタク
・歌唱シーンのあるアニメ映画への関心が高く、関連作品はほぼ視聴済み
(うたプリ、バンドリ、キンプリ、少ハリ、アイカツ、FILM REDなど)
・3Dライブも現地参加、円盤視聴歴あり
(うたプリ、ツキウタ、あんスタ、Bプロ、VTuberなど)
・ジャニーズも好き
(NEWSファン、キスマイ、V6、嵐の円盤視聴歴あり)
・アイナナは事前〜2部まで(ŹOOĻを知らない)
・楽さんが好きだった(曲もTRIGGERが好き)
他のライブ映画作品の感想はこちら
ムビナナ感想(DAY1&DAY2)
全体の感想としては、以下の通り。
・<DAY1>より<DAY2>の方が良い
・CGだからこその表現を活かしたエフェクトや高解像度の演出が際立つ
・MCのやりとりが自然で、間の空き方や曲振りなどが非常にリアル
・「旅」って言い過ぎ(笑)
・曲終わりにステージから捌けるシーンまであるのが新鮮で面白い
・カメラワークは最悪。ステージの使い方にもムラがあり、導線が曖昧
・ほぼ全ての曲で暗転するので曲ごとにぶつ切りになる感じが勿体無い
✦「2DAYS開催」という挑戦
ファンでない人間から見たムビナナの肝というか強みは、
セトリを変えた2本の作品として作ったところだと思う。
これはうたプリが行ってきた一部MCや挨拶シーンのバージョン違いのような所謂“お当番回”とは全くの別物で、同じセリフでもDAY1とDAY2で話している人物が違ったり、全く同じセリフとモーションが使われている終盤のMCシーンもカメラワークが変わっていたりとこだわりが窺えた。
特にこの「同じシーンをカメラワークを変えることで別の公演として見せる」という手法は非常に興味深く、3DCGとモーションキャプチャーという環境だからこそ出来る表現だなと感心した。
✦会場
PV鑑賞時に会場の規模をたまアリ(37,000)くらいじゃないかと推測していたのだけれど、劇中や雑誌で座席数を目視で計算したところ7000弱くらいだと発覚。思っていたより小さかった…。
先日スタトレ*が行われたセキスイハイムスーパーアリーナがキャパ7000だったので、同じくらいだと思う。
会場のレインボーアリーナはアイドル16人が横並びになることを想定したメインステージをもとに設計されているらしく、メンステのスクリーンは33mとの情報を見かけた。
アイナナ世界での彼らの知名度についてそこまで詳しくはないのだけれど、国内を代表するアイドルの合同ライブとしてはだいぶ小規模なのでチケットの倍率ヤバそうだな…なんて思ったり。
*『うたの☆プリンスさまっ♪ ST☆RISH LIVE STAR TREASURE -SUNSHINE-』
✦ステージ構成
センステや花道は事前にSNSの情報で見ていたほど使われないわけではなかったが、“曲の一部で一瞬だけ出る”といった感じが多く、あまり出番はなかったなと思う。
メンステも端まで使っている印象がなく(これはカメラワークも悪い)、『マジLOVEキングダム』のように階段上で歌うこともない。
大体いつも同じ位置で歌っていて、アイドル達がステージ全体を活かせていないように見えたのが勿体なかった。
少なくともメンステ上、メンステ下、センステの3箇所ステージがあるのだから、上手く使い分けて欲しかったなと思った。
筆者はキャパ1万前後のライブによく行くのでこの規模の会場については大体想像がつくのだが、ムビナナではアリーナ後方から2・3階席は可哀想なくらい何も見えない気がする。
この規模ならアンコールでトロッコに乗って会場内を回るのはお約束だし、東西スタンドで1曲ずつ歌うくらいの構成でも不思議じゃない。
先日スタトレで2階席をトロッコで回りながら歌うメンバーを見ていたので、現実的に可能だと分かるだけにやるせない。
うたプリやウタ*のように空を飛んで会場を駆けろとまで言わないが、やはりトロッコは出すべきだろうと思った。
*『ONE PIECE FILM RED』に登場する歌姫
✦カメラワーク
思っていた以上に酷すぎる。
SNSでもカメラ目線やファンサが少ないことが挙げられていたが、
「ライビュも円盤化の予定もないライブのサイドスクリーンの映像」くらいの感覚。ムビナナにはサイドスクリーンが存在しないが。
カメラがない設定なのかと思いきや、たまに視線をくれるアイドルがいるのでそうでもない模様。
あとせっかく視線をくれてもカメラが遠くて分かりづらいのも勿体ない。
引きの画が撮りたいなら、うたプリやバンドリのようにスクリーンに顔を映すなどやりようはあるのだが、ムビナナはサイドスクリーンがない上にメインスクリーンも後述するファンサシーン以外でアイドルが一切映らない。
アイドルのライブなのに主役の表情が分かりづらいカメラワークが多いのはちょっと良くないんじゃないかと思った。
アイドルのオタクはカメラワークをめちゃくちゃ重要視している。
普通の音楽番組でもカメラワークが悪くて炎上することがあるくらい。
ライビュじゃなくて現地だからは言い訳にしかならないと思う。
王国*のように、花道を歩くアイドルを客席から見上げるような
“現地の観客目線”のカメラワークは既に存在するのだから。
*『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム』
「Welcome to UTA☆PRI KINGDOM!!」の “世界が色付くこの瞬間”のシーンで、見上げた先の蘭丸がファンサをくれる。現地アリーナの肉眼視点。
特に酷いのは<DAY2>MCのファンサコーナー。
16人が同時にファンサをするという流れなのだが、このファンサの瞬間、16分割されたメインスクリーンの前に立つアイドルたちの“引きの画”で映るのである。
いや、スクリーンの画をそのまま見せろよ。
リアルのライビュだってそんなカメラワークしないだろ。
まさか、アイナナはするのか…?
だとしたら1回うたプリを見てお勉強した方がいいと思う。真面目に。
画面分割でのキメ顔はうたプリの十八番なので参考になると思うよ。
アニメでもリアルでも同じように分割してくれる。
現実のライブで近い構図が全くない訳ではない。例えば下記の嵐とか。
でもこれは超巨大スクリーンを画面いっぱいに映しているかつ、周りが暗くスクリーンに集中出来るから成立するのであって、派手な赤色の階段上にあるそこそこの大きさのスクリーンを16分割して、さらにアイドル達の全身まで映したら何処に視線を向ければ良いのか分からない。
ムビナナのカメラワーク全体に言えるのだが、視線誘導が下手というか画面内のどこに注目して欲しいのか分からず、見せ場がない。
ムビナナは、バーチャルカメラ技術「ジャンヌ・ダルク」を活用し絵コンテなしでプリビズを制作したことが明かされているが、これなら普通に絵コンテを作って制作した方が余程良いものが仕上がったのではないかと思ってしまった。
✦MC
MCやステージ捌けなどは実際のライブでの雰囲気がよく再現されており、リアルの円盤でも編集でカットされてしまうような余白をあえて残すことでリアルっぽさを出しているように思った。
手を振りながらステージを捌けるシーンが特に良い。大体下手だけど、TRIGGERだけ1曲センステから捌けてたのも良かった。
セリフの重なりなども生っぽさが感じられ、今までの作品にはなかったと思うので非常に面白かった。
(実際のライブで1人が話している時に他の人がONマイクでわちゃわちゃと話すことはないと思うけど、リアル風の表現としてはアリだと思った)
ナギくんと大和さんが三月くんを抱えて移動するシーンは技術的に見てもなかなかすごい。
ムビナナ全体を通してボディタッチが多い印象があったけれど、貫通しないように調整するのは結構大変な作業だったんじゃないかと思う。
個人的にIDOLiSH7の“素人感”の抜けない感じが苦手なのだが、地に足ついたTRIGGER、夫婦漫才を繰り広げるRe:vale、ファンとのやりとりを大切にするŹOOĻ…と4グループそれぞれにMCの特徴があり、各グループについて詳しく知らなくても面白かった。
✦曲の繋ぎ
先述の通りMCが非常に自然で、次の曲のタイトルコールもリアルでとても良かった。
1つ難点として、せっかくMCでシームレスに次の曲へ繋げる流れができているのに、ほとんどの曲が一度暗転するせいで流れが止まってしまうのが勿体無い。
メタい話をすると、おそらく曲ごとに下請けの制作会社が異なるから繋ぎを楽にするために全ての曲を暗転させているのではないかと思う。
あとは先述のステージ構成への不満とも繋がるのだが、みんな同じ位置で歌っているので暗転しないと次のグループがメンステに立てないのかもしれない。
バンドリ2ndはメンステ、センステ、バクステの3箇所でグループごとに別のステージでパフォーマンスしていたので、やはりステージの使い方がバラけている方が繋ぎもカメラワークも自然に上手くいったのではないかと思った。
「Incomplete Ruler」〜「TOMORROW EViDENCE」への繋ぎは暗転がなく、天くんが横に捌けて後ろからIDOLiSH7のメンバーが現れる流れがとても綺麗で良かった。
✦テーマ
SNSで一悶着あった「旅」というワード。森羅万象どこいった。
うたプリのオタクもびっくりするぐらい擦ってる。
あまりに旅々言うので計算してみたが、両日MCで20回以上言ってる。
ちなみに「旅」がテーマのST☆RISH単独ライブ『マジLOVEスターリッシュツアーズ』では8回しか言っていない。
(一応、曲の歌詞も合わせると24回になる)
被りがどうとか以前に「いや、旅って言い過ぎwww」と思わず笑ってしまうレベルだった。
冒頭、IDOLiSH7のMCで壮五くんが「時間を超えて、空間を超えて、常識も全部飛び越えて。4つの音楽、4つの季節、4つの世界を旅していきましょう」と言っていた。
コンセプトとしては良いフレーズだと思ったのだが、その後に続いたアイドル達が方舟、テイクオフ、汽車、祭り、宇宙船…とバラバラなことを言うので、具体的なイメージが掴めずどんな旅…?とふわっとしたまま終わった。
旅(ライブ)を通して何を感じればいい?どんな景色が見せたいの?終着点はどこ?再出発ってどこへ?
そういうライブ全体のストーリーが曖昧で、特に印象に残らない終わり方なのが残念だなと思った。
筆者はこれまでいくつもの旅をテーマにしたライブを見てきたが、どれもストーリーや伝えたい思いがしっかりしていて飽きることがなかった。
過去から未来への「旅」、季節を巡る「旅」、世界を巡る「旅」、異世界を冒険する「旅」、出会いから別れまでの「旅」…
ムビナナはその全てを表現しようとしてとっ散らかった印象を受けたし、コンセプトを伝える手段を言葉に頼りすぎているなと思った。
もっと森羅万象というテーマを大切にして、地球の誕生から今までの「旅」に絞って自分達の軌跡に重ねるような演出の方が良かったんじゃないかと考えたりした。
例えばIDOLiSH7が宇宙、ŹOOĻが溶岩、TRIGGERが氷河、Re:valeが大地…みたいな感じで地球の歴史をイメージするような構成とか。
溶岩や氷など自然をイメージした演出もあったのに片方の公演でしか使われなかったりして、上手くライブ全体のコンセプトに活かせてないのが勿体ないな~と感じた。
気になった曲の感想
OP
開演前のライビュのスクリーンに映ってる会場の映像みたいな感じから始まる。
会場の俯瞰映像2分+OP映像2分で約4分あるので結構長く感じた。
OP映像は大地に芽が生え、様々な自然の映像を挟みながらキービジュアルの大樹に育つまでを描いている。かなりリアル寄りの映像で、途中の花や波のカットはおそらく実写ではないかと思う。
曲との相性も良く、かなり壮大なテーマだな~と感じた。
(この時点では森羅万象がテーマだと思ってた)
MONSTER GENERATiON / IDOLiSH7
先にYouTubeで見ていたが、感想は鑑賞前と特に変わらず。
やっぱり傘とダンサーの存在が気になる。
IDOLiSH7が曲中で傘を投げ捨てたとき、ダンサー達は回収することなく普通に捌けていく。
それなら捨てた傘はどうなるの?と思いきや、次に床が映った時には消えている。
傘を捨てた場所は少しの間映らなくなるので、その間に誰かが回収したのかもしれないが、ステージ横から黒子が走ってきて傘回収してまた捌けているのだとしたらめちゃめちゃ不自然では…?と謎が残った。
PARTY TIME TOGETHER / IDOLiSH7 <DAY 2>
謎の動力によって動く噂のコーヒーカップ。
花道に出れば良いのに何故かずっとメンステをぐるぐるしているところも気になるが、酔って(?)眉間に皺を寄せる一織くんと心配する陸くんが映るシーンにはちょっと物申したい。
何故か絶対に片手をカップから離さない、くらいだったら苦手だけど頑張ってるのかな〜くらいで楽しく見れたと思うけど、ファンを心配させるような表情をステージ上で見せる一織くんも、心配を隠せない陸くんもプロ意識が足りないし、意図せずそんな表情が出てしまったとして、そういう画をカメラさんは絶対抜いちゃダメ。
<DAY1>のRESTART POiNTERの「環くん危ないよ」もそう。ONマイクで言うことじゃない。
どちらも2曲目での出来事ということで、おそらく製作側の意図的な演出だと思うが、個人的にはただIDOLiSH7のプロ意識のなさを感じる嫌な瞬間だった。
不測の事態は絶対に起こる。
過去、ジャニーズ(現SMILE-UP.)のカウコンでマリウスくんが曲中にステージから落下して一時行方不明になったり、先日行われたスタトレでも寺島さんが演奏中のギターの弦が切れてしまうハプニングが起きたり…。
それでも彼らは焦りや不安を感じさせないような完璧なパフォーマンスをして見せたし、そういうプロ意識の高さを尊敬している身としては、彼らの振る舞いは“ナイ”なと思ってしまった。
ササゲロ -You Are Mine- / ŹOOĻ <DAY 2>
アプリ2章までしかプレイしておらず、ŹOOĻを知らない人間だったのでやや不安があったが杞憂に終わった。
SNSで話題になっているのを見かけたが、その理由がとてもわかる1曲だった。
・束縛彼氏のようなセリフから始まる
電話するように右手を耳に当てている振付も◎
・他メンバーが映らない顔アップのソロカットがある
・「愛の鎖で〜」でメンバーの体を撫でるような動き
・間奏のコーレスでアイドルの背中から会場が見えるカメラワーク
などなど。
曲終わりのMCも上手い。「旅」を話題に出しつつグループの絆とファンへ愛を見せてくれる。
その後に続いた「Bang!Bang!Bang!」が好みの曲だったこともあり、劇中で一番満足感のあるパートだった。
NiGHTFALL / IDOLiSH7
幕間映像明け、第2部の開幕と言えるこの曲は客席の間から登場したアイドルがステージに集うと言う演出から始まる。
客席の合間を走り抜けるシーンはこだわって作られているようで、ファンがアイドルを追って体の向きを変えているのが見て取れる。
ダンサー含め、モブのモデルはやはりCG臭さが残るので全体のクオリティとしてはやや落ちるが、動きはかなりリアルに作られているように思った。
ファンの間を手を振りながら走り抜けステージに向かう姿は非常にエモーショナルで良い。
ただこれも歌い出し前に暗転が入るのが勿体無い。
総括
「森羅万象」もしくは「旅」というコンセプトを掲げた「BEYOND THE PERiOD」というライブという意味では作り込みが甘いなという印象を受けたが、曲単体で見れば良く出来ていると思うし「アイドリッシュセブン」という作品のファンにとってはこれ以上ない満足感のある作品だろうと思った。
2019年『マジLOVEキングダム』での
・業界初、完全新作の全編ライブ映画
・作中グループによる合同ライブ
・2週目からの週替わりアンコール
2021年『FILM LIVE 2nd Stage』での
・過去の声優ライブを再編集した専用音源の使用
そして2022年、『マジLOVEスターリッシュツアーズ』はグループ単独公演という挑戦で前作の興行収入を超え、振付のレクチャーやサプライズシーンなど、視聴者の参加できるライブ映画の新しい楽しみ方を提示した。
何より『FILM RED』から飛び出した歌姫「ウタ」は
地上波の音楽番組でその場限りのパフォーマンスをするという前例のない快挙を成し遂げ、アニメキャラ初の紅白出場歌手となった。
正直なところ、ライブシーンのあるアニメ映画としては2022年に出尽くしてしまったんじゃないかと思っていた。
しかし2023年、ムビナナは“2DAYS開催”という新しいアプローチを提示してくれた。
まだこれから先新しい2次元アイドル、アーティストによる新たな表現の可能性を見せてくれた。
次にライブ映画というジャンルに踏み出すのは誰なのか、どんなものを見せてくれるのかと楽しみが尽きない。
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