写真04_アート作品0

アート/作品は此れから? ―― 丹羽良徳のいやらしさと齋藤惠太のなまいき、および岡田真太郎のいきがりについて

「作者の死」という宣言がなされて以降、単一の固有名をもつアーティストとその作品をめぐる関係性は絶えず懐疑の眼差しのなかで浮遊することになります。命名と所有の関係を組み替えることで公共に向き合う丹羽良徳、集団生活の多数性のなか で家のインスタレーションを展開する齋藤惠太。そして、コミュニティの名前それ自体をアート作品として取り引きする岡田真太郎。アーティストとコミュニティの間で取り交わされる固有名をめぐるネゴシエーションのかたちとは、そしてその先で実現される「作品」とは、今日どのようなものになっているのでしょうか? アーティスト、鑑賞者、参加者、美術商、不動産業、編集、批評など、それぞれの視点からアート/作品をめぐる現在について語り合います。

丹羽良徳 VS 齋藤惠太 & 岡田真太郎による34,000字、ライブトーク・アーカイブ。齋藤惠太の〈渋家〉のエコノミーを丹羽良徳が徹底的に問いつめる。日本のコミュニズムのオンゴーイングをめぐる“敵対”の対話篇、此処に公開!

〈イベント概要〉
・日時:2016年1月24日(日)14時~
・場所:伏見地下街周辺(名古屋市中区)
・ゲスト:丹羽良徳、齋藤惠太、岡田真太郎(モデレーター:F. アツミ)
・ウォーキングコース:comunity barM-アートラボあいち長者町(休み)-ヱビスアートラボ-スタンディングパイン(休み)-トランジットビル-ぎゃらり 壺中天-伏見地下街-(終了後、有志でMitts Coffee Standに立ち寄った後、THE CUPSでお茶会を行いました)
・主催:岡田真太郎(美術商/長者町商店街研究会)& Art-Phil
・協力:comunity barM、伏見地下街協同組合
〔※ 本トークイベントは、丹羽良徳「名前に反対」展(Minatomachi Art Table,Nagoya[MAT,Nagoya])の期間中に実施されました。〕
「名前に反対」 http://www.mat-nagoya.jp/archive_exhibition/568.html

〈参加者 略歴〉
・丹羽良徳:アーティスト、1982年愛知県生まれ。自身の状況を転置することで眼に見える現実を解体し「公共性」という幻想のシステムの彼岸を露出させる新たな物語を作り出す企てを記録映像として作品とする。主なプロジェクトに、東ベルリンの水たまりを西ベルリンに口で移しかえる《水たまりAを水たまりBに移しかえる》(2004)、震災直後の反原発デモをひとりで逆走する 《デモ行進を逆走する》(2011)、社会主義者を胴上げしようと現地の共産党で交渉する《ルーマニアで社会主義者を胴上げする》(2010)やロシアの一般家庭を訪問してレーニンを捜し続ける《モスクワのアパートメントでウラジーミル・レーニンを捜す》(2012)など。 移り行く思想哲学とその歴史を横断する活動を展開している。 http://yoshinoriniwa.tumblr.com/xxx

・齋藤惠太:1987年、東京都生まれ。高卒。アーティスト、キュレーター、株式会社渋家取締役。 2008年、現代美術作品として家を借りるプロジェクト 〈渋家〉を制作。 その後、渋家名義にて「渋家トリエンナーレ」(渋家/東京 、2010)、「House 100」(The Container/代官山、2012)、「After Nuclear Family」(TRANS ARTS TOKYO/神田、2012」、「Owner Change」(Art Fair Tokyo/東京国際フォーラム、2013」などを行う。 2011年、劇作家・岸井大輔と出会い「東京の条件」に参加。戯曲集〈戯曲|東京の条件〉(東京文化発信プロジェクト、2013)を編集。 2013年、「六本木クロッシング」(森美術館/東京)、「ニッポンのジレンマ-新TOKYO論-」(NHK)などにアー ティストとして出演。 2014年、演出家・篠田千明に誘われ演劇活動を開始。〈機劇 ~「記述」された物から出来事をおこす~〉(森下スタジオ/東京、2014」出演、〈非劇〉(吉祥寺シアター、2015)作。 また、1990年生まれ前後の批評家を集めた冊子「アーギュ メンツ」の企画・編集を行っている。 渋家  http://shibuhouse.com


・岡田真太郎:名古屋生まれ。美術商/Art Dealer(主な担当作品:渋家 〈OwnerChange〉)Commercial Venture Ajito。伏見地下街協同組合専務理事。長者町商店街研究会会長。アーギュメンツ発行。

・F. アツミ:Art-Phil。編集/批評。 http://art-phil.com

〈キーワード(人・事)〉
丹羽良徳、齋藤惠太、岡田真太郎、F.アツミ、伏見地下街、打開連合設計事務所、〈渋家〉、MAT、吉田ゆり、田中重義、笹川財団、ビレッジバンガード、猪熊弦一郎現代美術館、「愛すべき世界」、森村泰昌、鷹野隆大、ミヤギフトシ、〈日本共産党とカールマルクスの誕生日会をする〉、「真のアカデミー」、パヴェル・アルトハメル、アルトゥール・ジミェフスキ、1335 MABINI、あいちトリエンナーレ、ヱビスアートラボ、打開連合設計事務所、劉國滄、星画廊、エッシャー、ボタンギャラリー、渡辺英司、夢画廊、長者町画廊、バカの壁、中島晴矢、「リーチモダン」、原爆の図丸木美術館、「私戦と風景」、丸木夫妻、「アーギュメンツ」、諏訪綾子、アートフェア東京、オーナーチェンジ、ティノ・セーガル、岸井大輔、「世界の演出」、ココルーム、星野太、平井友紀、ギャラリーアジト、ダミアン・ハースト、村上隆、杉本博司、ナディッフ、ジャック・マクリーン、ミヅマアートギャラリー、ザ・コンテナー、シャイ・オハイヨン


〈キーワード(理論)〉
作者の死、コミュニティ、パフォーマンス、編集、記録、公共性と災害、アート・システム、ギャラリー・システム、ファクトリー、ランド・アート、美術館、ネゴシエーション、アーティスト、キュレーター、ギャラリスト、コレクター、オルタナティブ、ディスカッション、革命、シェアハウス、不動産投資、社会主義、国家、テロ、パトリオティズム、デモ、哲人政治、プロレタリアート、イテリゲンチャ、キュレーション、アート・マーケット、アート・ディーラー、批評家

〈コンテンツ〉
①階段で入っていくと、アーティストがいっぱい
②一票差で残った打開連合設計事務所の作品
③もともと作品というのは政治的なものじゃないと思っている
④〈渋家〉という作品を買うと、オーナー権が買える
⑤映像でできた記録とやっていることはまったく違う
⑥人間が一杯いて、その外側がどんどん変わっていく
⑦作家なき作品っていうのは存在するのか、よくわからない
⑧アーティスト、キュレーター、ギャラリストの役割の違いは?
⑨アートは社会に影響を与える可能性があるか?
⑩世界は縮減できないっていうことはけっこう面白い
⑪アートは“直接経済”? “間接経済”?
⑫ディーラーっていうか、スペースのないギャラリスト


■階段で入っていくと、アーティストがいっぱい

アツミ:……。

丹羽:ちょっと声を大きくしましょう。今の10倍で。

齋藤:ちょっとすみません、聞きとれなかったです。

アツミ:わぁ、すみません。……あの、作品をつくるなかで、丹羽さんは自分の企て、例えば共産主義/マルクスのシリーズですと、作品のなかでビデオを撮りながら出てくる人との交渉それ自体を、自分の予想が裏切られることも含めて扱っているところがある。齋藤さんのほうは、〈渋家(シブハウス)〉という作品のなかで行われている交渉があり、齋藤さんの企てはあっても、やはりプロジェクトが進行するなかで参加者から裏切られてくるところがあります。どちらの作品も、「作者の死」ともいえるように、近代的な意味で「作者が世界をこのようにみる」という態度が成立しない出発点から作品をつくっています。自分の見方が交渉のなかで思っているようにはならないところで作品をつくることについて2人にお話を聞ければなと思って、今日はディスカッション・イベントを企画しました。
 まずは、「名前に反対」展を名古屋のMATでしている丹羽さんに。すごく長者街のなかにアートやデザインを扱っている場所がたくさんあって、印象的でしたね。そのあたりから……。

丹羽:いきなり、むちゃぶりだね。(笑) あの、簡単に言うと、僕は今、名古屋のMAT、港区の築地口にある港まちづくり協議会、NPOで、ボートピア名古屋の設置に伴い競艇を施行する自治体(蒲郡市など)から名古屋市に交付される「環境整備協力費」で街づくりをするうちの何パーセントかで美術展覧会をするっていうプログラムがあって、長者町で吉田ゆりさんっていう東京出身の人が、あいちトリエンナーレのスタッフをやっていたんだけれども、その港まちづくり協議会に転職して、去年ぐらいから美術の展覧会専門でするプログラムなんですが、その3つ目で、僕がやることになって「名前に反対」っていう展覧会をしている。それはフィリピンでのプロジェクトを展示するっていうことで、1月9日から。チラシがこれなんで、もしみていなかったら。これをやっていて、チラシのチラシで、チラシをつくってそれをチラシにしている。昨日も僕、MATのなかで名古屋大学の田中重義さんっていう社会学者の先生と「公共性と災害」の専門家と対談してきました。名古屋にいるっていうことなので、何かやればいいんじゃないかっていうところで、アツミさんと岡田さんにこういうことを企画してもらったという流れですね。今日はMATの人が来ていないから、MATとつながりがあるかはわかないけれど。

齋藤:税収の何パーセントかを文化事業に使うってことですか?

ここから先は

31,411字
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?