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56arts|五感であじわう日本の美術(三井記念美術館)

「おいしそう」「いい香りがしそう」と想像しながら、三井記念美術館の所蔵作品を鑑賞してきました!  

本展は、日本・東洋の古美術に親しんでもらう「美術の遊びとこころ」シリーズの第8弾。夏休み期間に合わせて、重要文化財を含む優れた絵画・工芸品を気負いなく鑑賞してもらおう! という趣旨で企画された展覧会です。
五感であじわうと言いつつ、ほとんどガラスケースの中なので観るだけです。


三井記念美術館って?

エレベーターで7階へ

三井家が江戸時代から収集してきた国宝6点・重要文化財75点を含む美術品4000点を収蔵しています。
国宝《志野茶碗 銘卯花墻》をはじめとする茶道具のほか、超絶技巧の工芸品、能面や能装束、刀剣、絵画では江戸時代の絵師・円山応挙の《雪松図屏風》などが代表的な所蔵作品でしょうか。
世界的な切手のコレクションも約13万点あるとのこと。え〜切手の展覧会やりましょうよ〜。

1929年に竣工された三井本館の7階にあり、建物は昭和初期を代表する洋風建築として、国の重要文化財に指定されています。ですので、重厚な室内装飾と暗めの照明が醸し出す雰囲気も楽しめます。
エントランスに戻る廊下に、厳重そうな金庫の扉があるのも見逃せません。

それでは、展覧会の趣旨にのっとり、出品作品を想像を膨らませながら鑑賞していきましょう!

I.味を想像してみる

高瀬好山製《伊勢海老自在置物》明治〜昭和時代初期・19 〜 20世紀

立派な伊勢海老ですね。刺身や焼きでプリップリの身をいただきたいです。出汁をきかせた味噌汁もいいですね。

これは自在置物(じざいおきもの)という金属工芸で、生き物を写実的に、なおかつ関節などが実際の生き物と同じように動かせるようにつくられています。
この伊勢海老の場合、ヒゲや胴体、足は細長いところだけでなく尾に近いヒレ状の部分も動きます。高級プラモデルですね。

安藤緑山《染象牙果菜置物》大正〜昭和時代初期・20世紀

こちらは何で出来ていると思いますか? 実は象牙なんです。

大正〜昭和時代初期に活躍した安藤緑山(あんどうろくざん)は、象牙に彫刻を施し、着色することで、本物そっくりの野菜や果物を制作しました。
その技法や作家自身の情報が伝わってこなかったため、長らく謎の多い人物でしたが、近年の超絶技巧ブームのあってか、徐々に研究が進んできたようです。

仏手柑(ぶっしゅかん)は緑山の作品でしかみたことがないのですが、ナスのヘタの質感や白い部分の色彩、柿の張りのある表面の様子など、本物そっくりです。

中村宗哲《日出鶴波蒔絵煮物椀》江戸〜明治時代・19世紀

もちろん、料理を盛り付ける陶磁器の器や漆の椀もあります。

こちらはお雑煮を入れるのにぴったりのお椀。実家は醤油味ですが、白味噌も合いそうです。
解説には「当時は正月に鶴の身を食べていますが、鶴の煮物にはこの椀がふさわしいでしょう」と書いてありました。鶴って美味しいのでしょうか、食べるところは少なそうです。

II.温度を感じてみる

えっ、五感に当てはめるとどこかしら。触覚?

竹内栖鳳《水郷之図》昭和時代初期・20世紀

こちらは戦前の京都画壇で活躍した日本画家・竹内栖鳳(たけうちせいほう)による水墨画です。西洋の写実的な表現を取り入れて近代日本画の礎を築いた人物で、 フワフワの毛並みをした動物画で知られています。

葦のような水草や木々が薄い墨でぼかすように描かれ、水上と陸、空の境目がまったくわかりません。早朝の、霧の立ち込める水辺の風景でしょうか。ひんやりとしながらもしっとりと肌を濡らす空気が感じられます。

III.香りを嗅いでみる

川端玉章《草花図額》明治時代・19 〜 20世紀

まさに百花繚乱。色とりどりの花々が今を盛りと咲き誇っています。
油彩画のような濃厚な色彩ですが、こちらは日本画の作品です。よくみると、梅にあじさい、朝顔に桔梗、菊、牡丹など、異なる季節の花が、どれも咲いた状態で描かれていますね。

海上貿易によって繁栄を極めた17世紀オランダでは、宗教改革や商人階級の台頭、貿易による博物的な興味や園芸文化の発展などから、世俗的なモチーフを題材にした静物画が多く求められるようになります。
四季折々の花を織り交ぜた静物画は、世界を手中に収めて栄華を誇るオランダを象徴するものでした。

この作品にそういった権力を誇る意図はなく、盆と正月が一緒に来たようなめでたい画題といったところでしょうか。贅沢な香りがしそうです。

「十種香・錫合子」時代未詳

実際に良い香りのする香木やお香の道具、香箱といった品々も並びます。ネコちゃんが前足をたたんで座る姿を「香箱座り」と言いますが、なかなか日常生活で目にしないものの名前がついているのですね。

東大寺の正倉院に伝わり、織田信長が切り取ったという蘭奢待(らんじゃたい)もありました。香木は焚いて楽しむもので、使えば無くなってしまう。
ものすごく良い香りがすると伝えられているのに確かめられないのか……。

IV.触った感触を想像してみる

《伊賀耳付花入 銘業平》桃山時代・17世紀

ベコッと凹んだ、色や手触りも均一でない伊賀焼の花入です。
正面のゴツゴツとした肌は、灰がかかった部分が焦げてできたもの、背面のツルツルの肌は、灰がかかった部分が溶けてガラス質になったところと土肌が露出したところ(いわば素肌)が併存しています。

やきものは窯に土でつくった器を詰めて、その窯の中で火を焚いて焼成します。場所によって炎の当たり具合や灰のかかり具合が違い、それは人がコントロールできない領域です。その自然による造形に「味がある」と、魅力として捉えられています。
整った美しさもありますが、人間だって不完全で、その人の個性も捉えようによっては欠点ですからね。

もし実際に触ることができたなら、つくり手の手の動きも追体験できそうです。

象彦(西村彦兵衛)《水晶玉・平目地水晶台》明治〜昭和時代初期・19 〜 20世紀

確かに水晶玉は触ってみたい!

三井家が所蔵する中で最も大きい直径約18cm、重さ約8.9kgの水晶玉と、その台座だそう。えっ、いくつか所蔵しているの? というか、水晶玉って何? 古今東西あるけれど、何、飾り? 占いに使うの?

V.音を聴いてみる

亀岡規礼《酒呑童子絵巻》江戸時代・19世紀

大江山に住む酒好きの鬼・酒呑童子が人を攫い喰らうため、源頼光と渡辺綱、坂田金時らが退治するお話は、絵巻や能・歌舞伎のみならず、マンガやゲームの題材にもなっています。

武将たちの雄叫びや鬼の断末魔、刀が骨肉を断ち、血の吹き出す音、首が落ちる鈍い音が聞こえてきそうです。
ウオーッ!!カキィン!ズシャッ!ブシャー!!ギャーッ!!ドサッ、ゴロリ……

VI.気持ちを想像してみる

五感……?

山口素絢《鬼図》江戸時代・寛政12年(1800)

片足を上げ、両腕を後ろに引き、腰が引けた様子の鬼。飛び出た目玉に、鼻を大きく膨らませ、口元はキュッと引き締めています。その視線の先には、魚の頭が刺さったヒイラギ、節分の日に玄関先などに飾られる焼嗅(やいかがし)です。

どこかに侵入しようとした矢先、イワシの匂いを感じて見上げると焼嗅を発見して、本能的に体が動いてしまったのでしょう。全身で拒否反応を示しています。
本当に苦手なのが伝わってきますね。

重要文化財 能面 室町時代・14 〜 16世紀

では、この人たちの気持ちはいかがでしょうか。
「能面のような顔」と言う表現がありますが、どれも性別や年齢は明確ですが、怒りの表情以外は感情を読み取りづらいですよね。(左から2番目は般若よりさらに嫉妬の感情が強い「蛇(じゃ)」)

能は最小限の動きや舞台装置で物語を紡ぎ、能楽師はわずかな顔の角度で気持ちを表現します。
さまざまな角度から眺めるのは難しい展示ですが、「この面をつけてこんなポーズをとるのかな」と想像するのも面白いものです。

茶道具 夏の取り合わせ

展示室の中ほどには、信長の実弟・織田有楽斎が建て、のちに三井家の所有となった国宝の茶室「如庵」の内部を再現した展示室があり、季節に合わせた設えがなされています。

国井応祥筆、文字即中斎筆・岑一郎筆《七夕の絵 即中斎文字「天の川」・岑一郎文字「七夕」》昭和時代・20世紀
即中斎《竹茶杓 銘七夕 裏朱塗笹絵 共筒》昭和時代・20世紀

7月は七夕をテーマに、桃山時代〜昭和時代、また明時代(17世紀)の茶道具が展示されていました。
4世紀も時代の離れた品々がひとつの世界観をつくり上げるのは、とても自由でクリエイティブな営みに感じますね。

この夏は駅近で涼しい美術館で、時に真面目に考察をしながら、時に愉快に冗談を飛ばしながら、自由な視点で日本美術を味わってみるのはいかがでしょうか。

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浅野靖菜|アートライター
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