26歳男の脱毛記録① 〜江戸幕府と明治維新〜
世の中の男性は二つに分けられる。脱毛を経験したか、していないかである。
このところ男性用脱毛の勢いが止まらない。Y◯uTubeの広告でセクシーなお姉さんと共に「密室でじっくり脱毛しに来ませんか?」というような目も当てられない広告ばかりが流れてくる。
以前までは、私は脱毛反対派であった。
私のヒゲは、大学生の頃に突如姿を現し、徳川軍のように、瞬く間に天下統一を果たした。当時私は、付き合っていた彼女に嫌われない一心で抜きまくっていたのだが、徳川軍の勢力は止まることを知らず、ついにはヒゲの存在を受け入れざるを得なくなってしまった。
私の父は、ヒゲが濃くも薄くもない、普通だった。なので、私のヒゲも普通くらいの濃さになるのだと思っていた。しかし天下統一を果たした私のヒゲは、父の軍と比較して遥かに明らかに勢力に違いがあった。
徳川軍は、母の血であったのだ。
「騙された!」と思った。と同時に「子供にはこの騙された!という感情は味わせないようにしよう!」と誓った。「未だ見ぬ息子よ、父はこんなにヒゲが生えているのだ。母は私より薄い。ということは、お前は最悪こうなるのだ」と早いうちから丁寧に伝え、教育しようと心に決めた。このとき、脱毛反対派の旗を掲げたのだ。
この旗は、唐突に折れることとなる。
先月、私の大親友が結婚式に呼んでくれたのだが、スピーチをして欲しいから直接話して依頼させて欲しい、と声をかけてくれたのだ。中学からの友人で、高校も同じだったが心はいつも中学生で会うたびに大爆笑していた。私は久しぶりに会うのにワクワクしていた。
ちなみに大親友は、ハーフのようにイケメンだが、毛が私より深く、鋼鉄製の髭を所有している。おそらくヒゲを剃る際には庭木用の剪定鋏を使用しているはずだ。
そんな大親友と会った瞬間、声を失った。大親友の鋼鉄製のヒゲは、跡形もなく消え去っていたのだ。廃藩置県である。私の目には、微かな、ただし確かな、新たな時代の幕が明けているのを感じた。
「あ、脱毛しよ」と思った。
このままでは時代の波に置いていかれる。海は広い。海の彼方では、欧州の列強がひしめき合い、隙を見せれば我が国は乗っ取られる。鎖国は終わったのだ。未だ見ぬ我が子との誓いなどしょうもないことは言っていられない。
気づけば私は大親友に脱毛について事細かに事情聴取した。医療脱毛が良いこと、ヒゲの脱毛は痛いこと、痛いがツルツルになったら世界が変わることを教えてもらった。
翌日には、脱毛クリニックの予約を完了させていた。
〜続〜
※日本史の知識は中学で止まっているため、誤りがあればお許しください。
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