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26歳男の脱毛記録② 〜非暴力全服従の戦い〜

そんなわけで、私は一時は脱毛反対派の旗を掲げて日々邁進していたものの、大親友の脱毛の向こう側にある新しい時代の光に照らされ、脱毛反対派の旗を下ろしたのだった。(前回参照)

つまり、ヒゲ脱毛をすることを決意したのである。

選んだクリニックは大親友が契約していた医療脱毛のクリニックである。予約当日、脱毛クリニックの受付を済ませ、自分の番が呼ばれるのを待っていた。

自分の番が呼ばれると、肌が強力粉のように白く、眉毛が味付海苔のように濃い、そして顔面に眉毛とまつ毛以外の毛が全くない男が現れた。刻み海苔が散らされた、ざるうどんのようである。自然の摂理から明らかに逸脱しており、自分もこちら側になるのだと身の引き締まる思いがした。

この男にカウンセリングをしていただき、諸々の手続きが完了した。

契約の後、一回目の照射をしてくれることになった。照射機器には、太い毛用と薄い毛用の2種類があるが、初めてなので前者をお勧めしていただいた。また、痛いとは聞いていたので、麻酔をつけていただいた。麻酔は、鼻から謎の気体を吸うタイプである。

まずは麻酔から始まった。

鼻に麻酔噴射器を付けられ、看護師の方に「頭がボーっとしてくるまでゆっくり呼吸してください」と言われ、怪しい気体を吸い続ける。

次第に、頭痛から頭の痛みだけを差し引いたような、なんとも言えないフワフワした感覚になった。看護師曰く、なかなか麻酔が効かないので一段階強さを上げていたらしい。裏で怖いことをするタイプの看護師である。

そして照射が始まった。

事前に、照射の痛みはゴムパッチンされたような痛みと聞いていた。一般的な輪ゴムのパッチンを想像していた上、頭がボーっとする麻酔もしているので、正直痛みを舐めていたところに私の非はある。「いきますよー、はい」「ピシャ」

いっっっっっっっっっっった。え?

ゴムパッチンの痛みとは、お惣菜を止める用のヒョロヒョロの輪ゴムではなく、組み立て前の家具の鉄棒を結ぶ、ぶっとい輪ゴムの方であった。舐めていたとは言え、これほどの痛みであるなら、ざるうどん男も半笑いで「まあ痛いですよ笑」と言うのではなく、もっと深刻に、心から痛さを訴えるべきであった。

「痛いですか?」と聞く看護師さん。
「大丈夫です。後何回くらい打ちます?」
「もうちょっと我慢していただく必要がありますね〜!」

答えになっていない。
が、これも看護師さんの優しさなのだと悟る。

生物の痛覚は、身の危険を回避するためのものだと思われる。他の哺乳類が今の私の姿を見たら、蔑み、笑うだろう。私は逃避本能を抑え、非暴力全服従の姿で照射が終わるのを耐え忍んだ。

顔中に照射され、全ての工程が完了した。

終了した開放感と同時に襲ってきたのが、あとこれが11回もあるという暗澹たる未来である。

果てしない旅は、まだ始まったばかりだ。

〜続〜

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