sin. #1
12月21日 18:36
「どうでもいい話していい?」「どうでもいいの?どうでもいいなら話さなくていいよ。分かるよ、どうせ“そこのマンホールの色だけ何で赤と紫何だろうね”とかでしょ。」「何で分かんのよ。でも少し違うんだなあ。あれ赤じゃなくてピンクでしょどう見ても。」「……赤でしょ、絶対。」 「アイス溶けるから早く食べろや。テスト勉強ほっぽかしてアンタの散歩に付き合ってやってんのよ」「良い御身分だぜ全く。」「どっちがだよ、意味分かんないわ」
毎朝毎日始発電車で顔を合わせてから電車に乗って、同じ駅で降りて途中まで歩いて別々の高校の玄関に入る。夕方学校終わりに駅まで歩いて、駅で合流して同じ電車で帰る。最寄駅で待っている祥子か私の家の車で、同じところへ帰る。祥子の家の車に乗ってから両親にラインでもして「“祥子んちに乗せてもらったから迎え大丈夫”」「“りょ”」「パパどっからそんな言葉覚えたんだ」小声で祥子にラインを見せる。「面白いじゃん」「若いやつと浮気でもしてんじゃあないの」「やめとけ」 北に向かう一本道を滑る雪の上でスリップしないようにゆっくり走る祥子んちの車と、その前をのそのそと走っている誰かんちの車。「あの車絶対〇〇さんちだよ、もうナンバー覚えちゃったもん」「近所のじいさんの軽トラでよく覚えたもんだよ」「そらここら辺で車しかも軽トラ乗ってる人なんて部落のじいさんしかおらんて」「言えてる」「東京行きたーーーーい…」「早く行こう何でもあるよ多分」
12月22日 6:29
「…おはようさん」「柚、柚んちのおばあちゃんみたいだからそれおはようでいいよ」「珍しいな柚より早く駅着いてるの」「どうでもいいだろ」「…はいすみませんね〜…」先頭車両にこれでもかと言うほどの固まった雪をくっ付けて走ってくるたった2車両の電車を、暖房も何も効いていない小さな無人駅で待って、祥子は有線イヤホンで何やら椎名林檎の弁解ドビュッシーを爆音で聞いている。柚も音漏れしている大きなヘッドホンを首に掛けながら、黙々と朝ごはん用なのか昼用なのか分からない銀紙に包まれたおにぎりを、後もう少しで駅に着く電車に焦りながらどれだけ口の中に入れるか時間が迫っている。会話をしているのかしていないのか、待っている他の学生たちには分かりえない。「今日も生きろよ〜」「それは柚の方でしょ」「間違い無いよね」
1月1日 0:02
「"祥子ちゃーんあけおめ"」
「"寝てたわ。あけちゃったよおやすみ。"」
1月9日 15:47
柚から祥子にラインを送る。「“今学校終わったんだけど神社行かない?お参り”」…「“あー興味ない、けどラーメン行くならいいよ”」「“行こ、奢んないからな”」…「お菓子買いたいから通りの駄菓子屋ちゃん集合で」ってラインするの忘れたなあ、分かるかな。柚は教室で溜まっていた友達と別れていつものように祥子に会いにいく準備をした。真っ白い道を1人で歩く、柚の雪を踏む足音だけしか聞こえなくなる。いつもは聞こえないけれど、その日だけは下を向いていたからか真っ白く光輝いている雪の道をキシキシと踏みながら、(天気いいけど雪焼けするのやだなあ)なんて考えて、とりあえず祥子がいなくても駄菓子屋に足を向けた。
「いるじゃん…。」「分かるんです」「いや、ラインするの忘れた〜って思ってたのに、いるのが逆に怖いんよ」「私には柚の行動把握なんて夜飯前なんだあよ」「色々考えてること同じになってきて怖いわ流石に」定番の酢ダコとチュッパチャップス2本を手に持って、お店のおばあちゃんに160円渡す。「有難うございました〜」柚はおばあちゃんにそう言って祥子と店を出た。9日にもなると、大きな神社でも人はいない。「柚今年まだ御神籤引いてないんだよねー」「え待って、お参りじゃなくて御神籤なの」「お参りもちゃあんとするだろ。お参りしなきゃ御神籤引いてダメだよ」「それは謎だな」さっきの駄菓子屋で小銭が無くなったと祥子に小銭をせがむ柚。「100円あるじゃん」「100円神様に出すのはでかい」「神様舐めんなよ」舐めんなよと言いつつ、柚の手には祥子からの5円玉が乗っている。感覚のない凍えた手で賽銭箱へと2人はお金を投げる。2礼2拍手1礼。こう言う時に限って、柚は長い。一体神様に何個お願いをしているんだろう。隣の祥子が顔をあげても身動き一つせず、柚はそう言うところだけ人に流されずに我が強い。神社好きって言ってたし、スピリチュアル系も興味あんのかな。今度占いでも連れてってあげようかな。
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