『テンシンシエン!』第37話
◆「クチコミ?」
2021年5月26日、水曜日 株式会社NEKST カジュアル面談
エージェントのエリートコネクション黒澤さんから届いたTeamsらしきアドレスをクリックして接続を待つ。よくよく考えてみると、退職後、初めての一次面接。緊張というか、なんだかわくわくする。
ウェブ情報ばかりだが、一応、NEKSTの企業研究は行った。SESメインの企業だったが、今年から新分野への進出として、新事業創造部門を設立したようだ。この部門に関しては極めて情報が少ないが、想像するところ、まだ何も具体的に決まっていないような印象を受けた。この部門のサイトには御多分に漏れず「社会課題」だの「持続可能」だのといった文字があふれている割には、その画面からは具体的なものは伝わってこない。この辺りはどこも同じような感じだ・・・実際、何をしたら効果的なのかが、現時点ではよく分からないのだろう。
クライアントである事業会社側も同様・・・というか実はもっと冷静で、要は儲かるか儲からないかが判断基準。この点で考えると、”いわゆる”社会課題と呼ばれるものはマネタイズが難しく、課題は見つかるのだが、事業として成立させるには、ハードルがとても高く、事業会社側としては手を出しづらい。
もちろん、コンサルもこの点は理解しているので、国や自治体を巻き込んで、助成金制度の類を整備する。当面の間はこの助成金で運営可能なスキームを構築するのだが・・・そもそも、取り上げた社会課題にマネタイズの要素が無い訳なので・・・助成金の終了とともに事業も終了してしまうといった絵が見えてくる。その結果、「社会課題」の解決は「持続可能」な事業モデルになりにくいといった構図ができあがる・・・皮肉な結果だ。
もちろん全ての社会課題が儲からないと言っている訳ではない。中には儲かる社会課題だってある。ただ、簡単に見つけることができるような代物ではない。特に、今のように猫も杓子も社会課題の解決と言っている昨今の環境ではなおさらであろう。
「おはようございます!エリートコネクション黒澤です!」
「っ!」
びっくりした・・・完全にPCから気がそれていた。にしても声がでかい。
「あっ・・・沢村です。おはようございます。今日はよろしくお願いいたします。」
「おはようございます!沢村様!こちらが、株式会社NEKSTの人事本部長、山下様です!」
「山下です!沢村さん!よろしくお願いいたします!」
山下さんも声がでかい。なんだか独特の圧が・・・体育会系ってやつか・・・
「えぇ・・それは当社のカジュアル面談を始めましょうか!沢村さん!お互いの理解を深めるためのざっくばらんな面談ですから、気楽にいきましょう!はじめに当社の紹介をさせていただきますね!少々お待ちを・・・」
パワポの画面が共有化された。PCの画面には「NEKST会社案内」と映し出されている。
「えっと・・・私どもNEKSTは・・・
慣れない感じで山下さんの説明が始まった。声がでかい・・・まぁ特に目新しい情報ではなく私の知っているNEKSTが紹介されている。そして最後のほうで資料2ページ程度に今回の求人に関する説明があったが、やはり特に何か決まっているという訳ではなかった。なんでも・・・社長の”鶴の一声”で新事業創出部門の設立が決まり、慌てて求人を始めたというのが本音のようだ。
「何かご質問はありますか?」
”ある意味”好感の持てる山下さんのプレゼンが終わり、一旦、質疑応答となった。
「基本的に同じ業界にいましたので、御社のことはよく存じております。事前にウェブで下調べなどをしていた時に、御社に関する口コミを見てしまって、そこには役職者からのパワハラのことが書いてありました。失礼かと思いますが、実態はいかがでしょうか?」
「あぁ・・パワハラですか・・・正直にお話ししましょう!パワハラというか・・・パワハラと捉えられても言い訳できないようなこと含め実際にありました。」
おっ潔いな・・・嫌いじゃない。
「ただあくまでも”ありました”と言いきれるもので、現在ではそのようなことは起きていないと理解しております。ちなみに、その書き込みは2年以上前のものではないでしょうか?」
「えぇ・・・確か2018年でした。」
「私がNEKSTに入社した時、最初に取り組んだのがこの件ですから・・・ですので、この件は私が責任をもって改善しました。だから大丈夫です!あっ私も中途組なんですよ。」
「へえ、そうなんですか。」
なるほど・・・
「では沢村さん、自己紹介お願いいたします!」
「はい、沢村健、52歳。前職は・・・・
2分ほどの自己紹介の後、職務経歴書に記載されている内容を何点か質問された。今日の面接は、人物というか、人間性の確認がメインのようで、ほぼ雑談で終了した。
「それでは沢村さん、本日はありがとうございました!このあとのスケジュールは、改めて黒澤さん経由で連絡させてください。」
「沢村さん!ご苦労様でした。なるべく早く連絡差し上げますね!」
二人とも最後まで声がでかい・・・
「はい、こちらこそどうもありがとうございました。」
NEKSTか・・・感触は悪くない・・・