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『テンシンシエン!』第12話

◆「ヘッドハンター?」

沢村健さんに4件のメッセージが届いています。

 家に帰って”キャリフロ”のサイトを開くと、すでに4件のメッセージが届いていた。期待半分不安半分で、誰も見ていないのに、なぜか冷静を装いメッセージボックスをクリックする。4件のうち2件は、キャリフロからの挨拶や使い方に関するメールだったが、他の2件はヘッドハンターからだった。

「なんだ、案外呆気ないな。登録したらこれか・・・もっとのんびりしていたかったのにな。」
 本当はうれしいのに、心にもないことを言ってみる。

 メールを開くと自動車部品メーカーの材料調達責任者のお誘いだった。ヘッドハンターはオートコンサルという会社の七味さんという男性。キャリフロのサイトから、ヘッドハンターの簡単な紹介文と写真が閲覧できるが、写真が不鮮明で年齢などがよくわからないし、プロフィールも情報量が少なく、メーカー系に強いヘッドハンターとしかわからなかった。しかし紹介の雇用条件は悪くない。調達という仕事に少し不安を感じるが、年収は1600万円と及第点だ。早速、”案件に興味があるので、一度、話を聞いてみたい” という返事をした。すぐに七味さんから私の個人用メールボックスにメールが届いた。電話で話がしたいので都合の良い日時をいくつか連絡して欲しい。時間は1時間、平日のAM10時からPM6時の間が良いとあった。
「今どき、電話かぁ・・・まいっか。」
 早速、明日明後日の木金でいくつか時間を挙げて返信した。数分して返事があり金曜日の11時から1時間ほど電話で面談することになった。求人内容には年収1600万円とあるが、最初は1400万円ぐらいからになるかもしれないと記載があったが、まぁそんなものかと特に気にも留めなかった。

 よし!この調子でと、もう一つのメッセージを開く。千葉の金属加工業で経営層の人材を探していると言う案件だった。この会社は以前取引があったのでよく知っている会社だ。扱っている製品や工場の工程にも明るい。仕事としてはかなりやり易いが、まぁいわゆる中堅企業で、年収も800万円から900万円と今一つだ。ヘッドハンターは枡口さんという男性。この業界では大手の就職エージェントという会社に所属・・・
枡口慎也!?・・・私はこの人を知っている。
15年ほど前、私にヘッドハントで声をかけてきた男性だ。その時も確か従業員数が200名ほどの中堅企業だった。とりあえず枡口さんの人柄は嫌いで無かったので、何度かお会いして話をしたと記憶している。結局、その時の案件はお断りしたのだが、こんなところでまた枡口さんの名前を見るとは思わなかった。
 向こうは私のことを憶えているだろうか?まぁ、たくさんの人に会う仕事だからいちいち憶えていないだろうな・・・とりあえず話は聞くと返事だけしてみよう。それがエチケットだろう。仮に向こうが私のことを憶えていたら無下に断ってしまうのは心証が悪い。

 七味さん同様、すぐに返事が来て面談の方法と日時の候補日を返信して欲しいとあった。朝でも夜でも特に制限は無いので、私が都合の良い日時を連絡して欲しいとのことだった。七味さんの時とはずいぶんと違うなと思った。久しぶりにお顔を拝見したいのでウェブ面談にして、日時は明日明後日の木金、午後を指定して返信した。数分して返事があり金曜日の16時から1時間ほどズームで面談することになった。
 メールの末尾に"またお会いできることを楽しみにしております"とあった。枡口さんはまだ憶えていてくれたのかと、少し嬉しくなったのと、なにか不思議な縁を感じ、実際にスタートした私の就職活動の船出にとても相応しいエピソードになると思った。

「うん、悪くない。山泉さんは歳の数ほどの応募をして、やっと一次面接に辿り着けると言っていたが、幸先良いじゃないか。」

 勝手に手応えを感じて、勝手に就職が決まったものと思っていた。中高年の再就職が大変なんていうのは普通の人の話で、私のような出来るビジネスマンには関係のないものと思っていた。


■第13話へつづく


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