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『テンシンシエン!』第21話

◆「サバイバル?」

2021年5月11日、火曜日
 今日は初回認定の日、事前に記入しておいた”失業認定申告書”を改めて確認する。
「よし!間違いはないな。」
 さほど難しい記入内容ではないが、だからこそよくチェックをしておかないと、うっかりミスなんてカッコ悪い。ハローワークからもらった書類の中に、”初回認定日の記入見本”なる手作りの失業認定申告書の書き方マニュアルが入っていた。それを見て書けば、まず間違えることはなさそうだ。おそらくこういった書類は、各エリアで申告時の間違いを減らすために、自発的に作成しているのだろう。これに限ったことではないが、公務員の方々の、見えない小さな努力には、本当に頭が下がる思いだ。失業をして初めてわかったことがたくさんあった。
 さて、私が申告書を提出する時間帯は10時30分から10時45分の間だ。まだずいぶんと時間があるな。よし久しぶりにモーニングを食べに行こう。その前に朝の求人チェックだ。毎日、朝晩に、求人サイトからのメールと、求人情報をちゃんと見ようと先週末から始めた習慣だ。毎日2~4件の求人に応募をすることにしている。すでに、よつ和マテリアル、日環製粉、常陸製作所といった、誰でも知っているような一部上場企業だけでなく、中堅のコンサル会社まで幅広く、いや、山泉さんが言うように「節操なく」応募している。正直なところ自分でもどこに応募したか忘れてしまいそうだ。でも、それくらい厚かましくないと中高年の再就職なんてうまくいかないと言われた。新卒の就活なんかよりも、はるかにサバイバルなんだ。


”カランカラン・・・”

「あら、おはようございます!なんだか久しぶりじゃないですかぁ?」
「おはようございます。えぇ、ちょっと色々と忙しかったもので・・・。」
「いつもの?それともモーニングにしますか?」
「あっ、今日はモーニングを。このBセットで。コーヒーはいつものトラジャ。」
「かしこまりました。Bセットのフレンチトーストにコーヒーはトラジャですね。少々お待ちください。」
 いつも座るカウンター席に腰を下ろした。私以外に客がいない。何か喋らないと・・・。

「きょ、今日・・・職安、あっちがう、ハローワークか、ハローワークへ行くんですよ。」
「へ?誰がですか?沢村さん?」
「えぇ、実は失業中の身分で。お恥ずかしい。」
「あら、ここに来る客様のほとんどは無職の方ばかりですから、ぜんぜん恥ずかしくないですよ。あっでも沢村さんは少しお若いか・・・」
「えぇ、3月まで勤めていたんですけど、早期退職ってご存知ですか?それで会社辞めたんですよ。で今は退職金と失業手当で生活しています。はは・・・」
 無職とか失業中と自分から言うのは、想像していた以上に抵抗があるものだ。結構きついというか、恥ずかしい。
「そうなんですね。でも沢村さんならすぐに次が見つかりそうな気がしますよ。なんだかお仕事ができそうな感じがしますもの。」
「あ、あぁ・・・ありがとうございます。早く再就職できると良いんですけどね・・・。」
「ほらほら、元気出して!。はい、モーニングB、フレンチトーストとトラジャ。それと、ベーコンエッグサービスです! ごゆっくりどうぞ。」
「あっ、ありがとうございます・・・。」

 そうだ卑屈になっている場合ではない。
 落ち込んでいる場合ではない。
 節操なく、図々しく生きるのだった。

 身の程知らずと言われようが、空気が読めないと言われようが、就職してしまえばこちらのものだ。

 就活はサバイバルなんだ!

 ん?・・・これって娘が就活中に言ってたセリフだな。あいつも就活はずいぶんと苦労してたからな・・・。
 今更ながらに娘の気持ちがわかるなんて・・・その時、私は彼女に無責任に「がんばれ!」とか「努力が足りない!」とか言ってた気がする・・・。

今一番言われたくない言葉だ・・・

いつか謝らねば・・・


■第22話へつづく


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