世界は積読に溢れている 4

 いつの間に夏休みがすぐ隣に近寄ってきた。
 書店では夏の文庫フェアが始まっている。各社色とりどりに並べられた文庫の列を見るのも、夏休みの楽しみのひとつで、毎年必ず何冊かは買ってしまう。
 文庫フェアで買うなら未読のものにするという個人的決まりごとがある。しかしラインナップは毎年、過去の名作が大きな割合を占めている。つまり読んだことのない本は少しずつ減ってくる。
 時間ばかりはたくさんあった学生時代には、書店の文庫フェアコーナーの平積みの山や棚差しの枠を一列ずつ見て、一区切りに少なくとも一冊は既読の本が入っているか、というのを確認したりしていた。意外と多くの本を読んできたのだなと、自己満足する遊びだ。
 その遊びには、未読の本ばかりの枠があれば、そこから必ず一冊は選んで買って帰るというルールがある。すると普段なら読まないだろう本を選ばざるをえなかったりする。それが読んだらすごく面白かったりもするのだ。
 文庫フェアは、自分の中から出てくるものでは探せない本に出会う場にもなっていたのだった。
 全世界の本が自分のために用意された積読であるという解釈より、よほど正常な判断として、書店の文庫フェアコーナーはある意味積ん読だ。
 学生時代には、と書いたけれど、今でも時々ひと枠一冊の遊びをする。どんなに読んでも、読んでも、読んでも、文庫フェアの100冊をコンプリートすることさえできない。
 夏休み、今年も書を求めて街に出る。世界は積ん読に溢れている。


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