![苦しくて_3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/14985239/rectangle_large_type_2_9c9e578968ee820a4998b0a339d0a85f.png?width=1200)
苦しくて。何も無くて。 そして。
何も見えない。何も聞こえない。何も書けない。
真っ暗闇の複雑な迷路のど真ん中でただ一人。
向かうあてもなく、歩を進める気力もなく、道を示してくれるものもなく、この状況を共有できる友もおらず。
唯一できることと言えば、今立っている足元にできる限り小さく膝を抱えてうずくまり、過行く刹那を淡々と感じていることだけ。
そんな虚無と喪失の入り混じった何もない混沌の世界に、いつの間にか僕の日常は変わっていた。
突如会社を辞めて物書きになると決めてから約1年半。
がむしゃらに、必死に、ただひたすら書いてきた。
毎日PCの前で頭を悩ませながら、時には車を走らせこの感情に最も合う言葉を探す。
誰かとの会話も当たり前に過ぎゆく街並みも、全てにアンテナを張って、小さな何かを拾い続ける。
大してお金にもならない、それでも自分の書きたいものが書きたいと、僕だけの世界が作りたいのだ、と。
あるかも分からない才能を信じて縋り向き合い続ける日々。
まるでブレーカーが落ちてしまったようだった。
PⅭの前に座っても何も思いつかない。何も書けない。溢れるのは涙と言葉にならない感情ばかり。
僕は突然、特に理由もなく、何も書けない物書きとなってしまったのだ。
書きたいのに書けない。そして書けない自分には何も価値を感じない。
毎日自分を責め続ける日々は苦しくて、悔しくて、情けなくて。
目も当てられなくて、僕が僕でいられなくて、だから僕は逃げた。走って、猛烈に走って、たぶんメロスくらいの速さと必死さで走って。
たどり着いた混沌の暗闇のどこかに腰を下ろして、一時的に僕が僕でいることすらも諦めて、孤高から孤独へと引きこもった。
もう誰も僕のスマホの通知を鳴らす人はいない。
そりゃそうだ。返信をしていないのだから。
ただ、独りになりたかった。孤独の恐怖に怯えながらも、それでも一人を選んだ。否。そうするしかもう僕は僕を守る術を知らなかった。
そんな最中、僕のスマホの真っ黒の画面に、突如、ふいに、何の前触れもなく表れた1つの通知。
いつかの僕が、もう何も書けなくなってしまった僕が、暗闇で怯えて蹲っていた僕が、唐突に思いついてしまったけれども、どうにも処理できずにスマホのメモに記していた、何でもない一文だった。
「何も大層なことを書こうとしなくてよかったらしい」
何度も何度も、無心で反復して繰り返して、声に出してみて、そして大声で嗚咽をもらして泣いた。泣き叫んだ。
これはいつ書いたものなのか、どうして書き残していたのか、というかSIRIはなぜこんな提案をしてきたのか、何の機能なのか。
考えられる疑問は山ほどあったけれども、そんなことはどうでもよくて、とにかく心のままに、従順に、小一時間ほど泣き続けていたような気がする。
そうなのだ。
何も大層なことは必要なかった。
ただそこに僕の想いが、魂が、強く繊細に刻まれた言葉があればよかった。
僕が語りたい、届けたい、叫びたい、強い情動のある言葉があればよかった。
無様でも、無骨でも、無才でも。
だから、僕は今、こうしてもう一度、僕として僕の言葉を綴っている。
誰にも読まれないかもしれない、誰かに批判されるかもしれない、それでも僕は書き続ける。
何も「無」い。
そう決めて逃げることは簡単だったけれども、必死に逃げた先には僕の求めるものは、僕が僕でいられるものは何も「無」かったから。
どうせ何もないのならば、全力で僕が抱える「無」へ抵抗し足掻いていたい。
「有」るのは意地とプライドだけ。それでいい。
絶対的に、確信的に、圧倒的に、「有」るなんて信じられる強さは持てなくてもいい。
そんな大層なものは必要ない。
何も「無」いと感じてしまう孤独な日には、もしかしたら何か「有」るかもしれない、そんな風に感じれる日がくるかもしれない、と。
心の奥底で、ほんの少しだけ、そんな想いをあなたが抱いてくれることを願います。
何もない混沌の日常で、自分の言葉とSIRIに救われてしまうなんて日が、あなたにも訪れてしまうかもしれないのだから。