出会ってから2回目に告白した話
Mさんとは、友人の紹介で知り合った。
友人からの突然の連絡に戸惑ったが、会ってみることにした。
初めは友人を交えて3人で飲みにいくことになった。
彼女の見た目は友人からもらった写真で把握していたものの、それは以外はほぼ何も聞かずに飲み会に臨んだ。
友人から何も聞かなかった理由は、当時の私は恋愛に消極的な態度をとっていたからだ。
恋愛意欲こそあるものの、経験は乏しく、人付き合いが苦手な私は初対面の人とあまり上手く話せない。異性なら尚更だ。
そんな私が友人から『会社の同僚がいい人いたら紹介して、って言いってるからアリソン紹介するわ』と言われて、積極的に会おうと思う方が難しい。
一種の気の迷いか、自分を変えたいと心の底で思い続けていたからだろうか。ストレスと高揚感が入り混じった感情のまま、約束の日を待った。
飲み会当日、私は持ちうる服の中で最もオシャレだと思う服を着て集合場所へと向かった。
すでに友人は到着していたようで、2人でMさんの到着を待った。
少し離れた距離から手を振り、こちらに駆け寄る女性の姿が見えた。
私が180cmあるのに対し彼女は154,5cmほどと小柄で、写真よりも目鼻立ちがくっきりとしており、可愛いとも美人ともとれる顔だった。
第一印象は「笑顔が可愛い人」だった。
3人での飲み会は思いの外楽しいものだった。緊張こそしたものの、Mさんともしっかり話すことができた。
しかし、懸念点もあった。
お互いの趣味に共通点がないことだ。
彼女は旅行好きなのに対し、私は年に一回行ければいい方。彼女は毎週末家にいる時間がほとんど無いほどアクティブに活動するのに対し、私は映画を見たり1人でカフェに行って読書をする。彼女はお酒が強いが、私は弱い。彼女はスカイダイビングやバンジーをするほど高いところが平気だが、私は高所恐怖症で観覧車やジェットコースターに乗れない。
見るアニメのジャンルも普段聴く音楽も。
どの趣味をあげても共通点があまり見つからなかった。
翌日、私は彼女をご飯に誘った。もっと話したいと思ったからだ。Mさんは快く承諾してくれた。
それからというもの、流れるように仕事をしていた時間が、とても長いものに感じた。
単純な私は一度あっただけで彼女に相当惹かれたらしい。
待ちに待った週末がやってきた
彼女は長いスカートを履いて清楚な装いで現れた。
隣を歩く彼女からはほのかな甘い香りがし、女性ってなんでいい匂いがするんだと不思議に思った。
ご飯中は当たり障りのない会話が続いた。
それでも前回よりはラフにいろんな会話ができた。
お互いの趣味について深掘りした。熱中するような趣味はないが、幅広く浅い知識があるおかげでディズニー映画やドラマ、アニメの話など彼女の興味に合わせて話を持たせることができた。
食事代は9000円と高くついたが当然僕が出した。彼女も気を遣ってくれたが、それだけで十分だ。
心残りは彼女が会計前にお手洗いへ行った時のこと。「女性がお手洗いへ行っている間に、お会計を済ませておくスマートな男性かどうか」を試されていたのではないかと、翌日になって思った。私はしっかり彼女の帰りを待ってから会計に向かった。
ご飯の後は少し歩いたところにある広場に腰を下ろし2時間ほど談笑した。暑くもなく寒くもない快適な気候の中、彼女との会話は盛り上がった。
ビタビタに共通する趣味こそないものの、コーヒー好きなことや神社仏閣、お城に興味があること、彼女が好きなアイドルの楽曲に私がハマっていることなど、少しづつ共通点が見つかり始めた。
その日、私たちは次の週末に水族館へ出掛ける約束をした。彼女はそれを「デート」と表現した。
私はドキッとした。なぜなら、私の中で「デート」とは相思相愛の関係にある人と時間を共にすることを指す言葉だからだ。
彼女の中で水族館へ行くことは「遊びに行く」のではなく「デート」することなんだと、1人で興奮していた。
出会ってから1回目のデートで、すでに私は彼女への恋心が芽生えていたのだろう。
水族館デート当日。
普段はあまり運転しないが、夢に見た女性とのドライブを実現するため、父親から車を借りて彼女を迎えにいった。
彼女はコンビニのコーヒーを両手に持ち、私の到着を待っていた。気遣いができる女性だと、好感を抱いた。
水族館へ向かう道中も会話は弾んだ。運転慣れしていないことから、道を間違えることもあったが、「ゆっくり行こうよ」と優しい言葉をかけてくれた。
あっという間に水族館に着いた。
3連休の中日ということもあり、家族連れやカップル、外国人観光客で溢れていた。入場規制がかかっていたため、時間まで前日にリサーチして見つけた人気のカフェで食事をした。
カフェの雰囲気も素敵で料理も美味しい。
Mさんはとても喜んでくれた。
食べ終わる頃にはちょうど入場できる時間になっていた。
小学生ぶりに訪れる水族館は魅力的で、予想以上に楽しいものだった。
ベタなデートスポットだが、彼女も水槽を指差し「見て!」と興奮気味に呼びかけてくる様子から水族館を楽しんでいるようだった。
中盤に差し掛かったあたりで、私は勇気を振り絞って彼女に提案した。
「今更かもしれないけど、手繋いでいい?」
彼女は少し驚いていたが、コクっと頷き私の手を握った。
汗かきの私はじんわりと手汗かいていたため、嫌じゃないだろうかと不安に思ったが、ギュッと強く手を握ったのは彼女の方だった。
私も、強く握り返した。
水族館は2時間半ほどで一周することができた。
後半は鑑賞どころではなかったものの、水族館のエンタメ性の高さをこの年齢になって認識することができた。
その後はカフェでコーヒを買い、近くのベンチで肩を並べて水平線へと消えていく夕日を眺めた。
これもまたベタな展開だが、今まで見たどんな夕日よりも輝いて見えた。
辺りが暗くなってきた頃、高所好きである彼女と共に近くのビル高層階にある展望台で夜景を見に行くことにした。
高所恐怖症の私はガラス張りのエレベーターに腰が引けたが、怖いことを口実に彼女の手を握った。
展望フロアから見る景色はとても綺麗だった。
意中の女性と見る夜景はこんなにも輝いて見えるのかと感動を覚えた。
彼女の大きな瞳には夜景が映り、キラキラと輝いていた。
お互いプリン好きなこともあり、展望フロアにある売店で売っていたプリンを食べた。
食べている間私は、ある思いを抑え込むことに必死になっていた。
彼女に好きだと伝えたい
この気持ちを押さえ込もうとしていたことには理由がある。
1つは、雰囲気に流されているのではないかということ。夜景を前に好きな女性と2人きり。気持ちが昂っているのは、このシチュエーションに押し流されてしまっているからではないかと感じていたからだ。もっと慎重になるべきだろうか、不安に感じていた。
もう1つは、2人でのデートが2回目であること。まだ互いの恋愛観や私生活について知らないことが多すぎる。確かに彼女は素敵だし魅力的な点がいくつもある。しかし、相手はどうだろうか。Mさんは私に対して好意はあるのか。
不安症な私はこの2点で告白を思いとどまっていた。
しかし、とある映画の言葉が私の背中を押した。『アバウト・タイム』の言葉だ。
「この日を楽しむために自分が未来から来て、最後だと思って今日を生きる」
次のデートで告白することも可能だった。変わらず彼女のことが好きだろうから。しかし、楽しい時間を過ごした後、夜景を望む展望台でロマンチックな雰囲気になることは今後ないかもしれないと思った。
何より、様々な場面で躊躇して後悔を積み重ねてきた私は、もう2度と同じような思いはしたくないと思った。
私は夜景を眺めるMさんの手を握り、思いを伝えた
「少し気が早いかもしれないけど、Mさんのことが大好きです。僕と付き合ってくれませんか」
なんと平凡な言葉だろうと、今になって思う。
鼓動が急激に早くなる
困惑し口元を抑える彼女
「私でいいの?」
「うん、君がいい」
「ほんとにいいの?」
「うん」
「ありがとう、私で良ければお付き合いしてください」
彼女はしばらく照れているのか困惑しているのかわからない様子を見せながら私の手を強く握り、肩に寄りかかった。
なるべく不慣れな様子を見せないよう彼女の肩をそっと抱き寄せ、無言のまま夜景を眺めた。
私に必要なことはほんの少しの勇気なんだと思った。
それからというもの、仕事中や自宅で過ごす時間が180度変わった。することは何も変わらないのだが、灰色だった世界に色がついたような、そんな感覚。ありきたり表現だが、1番しっくりくる。
彼女に見合う男になるために自分磨きを始めた。生活習慣や仕事に対する姿勢も改め始めた。単純だと自分でも思うが、それでも彼女の存在は僕にとってとても大きなものになった。
彼女との出会いから僕の人生が再スタートした。
これからどんな新しい人生が待っているだろうか。後ろ向きだった性格が前を向き、快活に歩く姿が目に浮かんだ。