他人のポテンシャルを無条件に信じることができる人の特徴
こんにちは、臨床心理士のarisanです。
この記事では、コーチや教師、セラピストの中でもクライアントや生徒のポテンシャル(能力・才能・底力)を無条件に信じることができる人の特徴について書きたいと思います。
「クライアントのポテンシャルを信頼できるか」がコーチングの肝
コーチングを学ぶ中で、クライアントのポテンシャルと可能性をコーチが本気で信じることの大切さをひしひしと感じています。
クライアントを喜ばせるため、耳障りのよい言葉で気持ち良くさせるためではなく、コーチが心の底からクライアントのポテンシャル(能力・才能・底力)を信頼し、その未来に可能性を見出していることが成功するコーチングの肝だとすら思っています。
どんなに言葉ではクライアントを信じていると伝えても、コーチが心の奥底で「それはちょっと無理なんじゃないか」とクライアントの力を疑っていたり、「大丈夫かな?」と疑念を抱いていたら、それは必ず相手に伝わってしまいます。
登山家だった中3の担任の先生の言葉
そんなことを考えていて最近、よく中3の頃の担任のT先生のことを思い出します。
T先生は私立中高の物理の先生でありながら、スポンサーの支援を受けて世界の最高峰の山々に命をかけて登頂するプロの登山家でした。
T先生は厳しい冬山に備えて冬でも裸足にサンダル。
物理の先生だったので黒板用の長い定規で親指を掻いたりしていました。
性格は穏やかで、生意気盛りの女子中学生たちにも声を荒げることはほとんどない、飄々とした先生でした。
以前の記事でも書いたように、私はバイオリンで音楽大学を卒業したのですが、
通っていた学校が中高一貫の進学校だったこともあり、中学2年の頃には、高額なバイオリンを買ってもらって音大を目指すのか、勉強に再びシフトしてキャリアの選択肢を広げるのか、決断しなければいけませんでした。
家系に音楽家もおらず、母も困って保護者会でT先生に「音大にいってバイオリンを学んだところで、実際に仕事にできる人は一握り。それをわかった上でも娘に音大受験させるべきでしょうか?それとも、今から勉強に再びシフトさせて選択肢を広げてあげるべきでしょうか?」と相談しました。
すると、T先生は
「おかあさん、バイオリンやらせてやってくださいよ。
Ariなら、もしバイオリンがだめになっても、
絶対に何か彼女の道を探して、ちゃんと進むことができますから」
と母に言ってくれたのです。
その後、T先生は私の在学中に雪山で命を落とされました。
その事実によって、私たちはT先生が本当に命がけで山と向き合って生きていたことを知ることになりました。
そして私の中で、あの言葉の重みだけが温かく心に残っています。
なぜ、先生は生徒の力を無条件に信じられたのか?
今思うと、最近では、ここまで生徒の将来を左右するようなアドバイスをはっきり言ってくれる(責任をとるリスクを負える)先生はなかなか居ないのではないかと思います。
そして普段はリスクを現実的に見積もり、かなり慎重な母が、この時ばかりはなぜT先生のこの一言に心を動かされたのか?ずっと不思議に思っていました。
当時、この話を聴いた私も「T先生って、私の何を知ってるんだっけ?」と嬉しいのに、なぜ先生がそこまで私を信じてくれたのかわからないという気持ちでいました。
でも、最近、突然わかったのです。
T先生は自分の生命と人生をかけ、登山家として自分のポテンシャルと可能性を心の底から信頼し、山に挑み、成功してきたからなんだと。
自分を信頼しなければ、大切な命を自分に預けることはできません。
だから、先生の言葉には重みがあり、人の心を動かすことができたのです。
その経験知があったからこそ、赤の他人である生徒の力、人間の潜在的な力を無条件に信頼することができたのだと思います。
「人は変われる」ことを信じているサイコセラピィの師匠
もう一人、他人のポテンシャルを無条件に信じることができる人として心に浮かぶ人が居ます。
15年以上サイコセラピィの指導を受けていた師匠です。
出産を機に先生や所属機関とは距離を置いていますが、間違いなく私のサイコセラピストとしての核、根幹を彼からの学びによって創り上げたといえる、大切な人です。
彼は「人は人によって変われる」ということを精神分析的心理療法の理論と実践を通して伝え続けている人です。
彼自身もまた、壮絶な生い立ちの中で多くの傷を負いながら、人生を変える大切な人との出会いを通して、道を外れてもおかしくなかった自分自身が変化した経験知を、彼の臨床の根底に置いているように思います。
他人のポテンシャルを無条件に信じることが出来る人は自分の力と可能性を本気で信じた経験がある人
他人のポテンシャルを無条件に信じることが出来る人は、自分の力、可能性を本気で信じたことがある人です。
自分の能力や変化の可能性を疑ったり、自分を否定してきた人、本気で信じることができない人は、どこか他人にも同様に疑いの眼差しを向けてしまいます。
本気で自分の底力に身を委ねた経験がないから、心のどこかで「無理なんじゃないか」「難しいんじゃないか」という疑念が湧いてしまうのです。
私がコーチングに出会うきっかけとなったコーチからはクライアントのポテンシャルを彼女が純粋に信じていることが伝わってきます。
彼女もまた、本気で自分の力を信じて挑戦し、行動しててきたご自分の経験があるから、他人のポテンシャルや未来を信じることが出来るのだと思います。
コーチやセラピストを選ぶときには
コーチ、セラピスト、教師を選ぶとき、その人が自分自身にどんな眼差しを向けているかを見てみてください。
ひたむきに自分の人生を生き、自分に対する揺るぎない信頼を持っているコーチやセラピストに出会えたら、思い切ってコーチング、セラピィ関係に飛び込んでみてください。
無条件に自分の力を信頼される、未来を信じてくれるコーチやセラピストの存在は、本当に心強く、その体験はまさにプライスレスなものになるでしょう。