【欧州ひとり旅】フランクフルト中央駅
フランクフルト中央駅で乗り換えの列車を待っていると、ひとりの少年が近づいていました。どうやら盲目の彼は、白杖をつきながら、しかし堂々と、構内を歩いています。
「こんにちは、どこへ行きたいの?手伝いましょうか?」
次の列車まで少し時間のあったわたしは、彼に声をかけてみましたが、自信のある声で、すぐに断られました。
「大丈夫、ありがとう。この駅にはよく来るし、今日も大好きな列車を見に来たんだ。だから大丈夫、ありがとう。」
“列車を見に来た”という言葉を、わたしはどのように理解するべきか分かりませんでしたが、視覚以外の感覚で“見る”という表現を知らないわたしは、乗り換え待ちの残り時間を、目を瞑って過ごしてみようと考えます。
列車の遅延を知らせるアナウンス。転がされるキャリーケース。雑談をするマダムたち。油の効いていないブレーキ音を鳴らす列車。
色々な音が聴こえてきて、そのどれもが、先ほどまであまり気にならなかったものたちばかりでした。しかしそれにしても、音が絶え間なく行き交うところで目を瞑るということを、とても怖く思います。
欧州ひとり旅日記より抜粋
in Frankfurt am Main Hbf, Germany Oct.2023
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