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【欧州ひとり旅】とある家族の待ち合い

 「お客さん、あそこに幸せそうな人たちがいるから見てごらん。あなたもわたしも幸せになれるよ。」

 いま思えばはなんとロマンチックかつ胡散臭いことを言われたのだろうと思うわけですが、しかしその方向を見たらきちんと幸せになれたのですから、わたしはあのカフェの店員さんに感謝しています。なんてことない、とある家族の待ち合いの瞬間でしたが、登場人物がみな笑顔で、さらにぽかぽかな午後の光が差していて、それはそれは、幸せにならないはずのない瞬間でした。

 そのあと店員さんは、なぜだかわたしにピスタチオのジェラートをご馳走してくれたのですが、「店員さんのおかげでわたしも幸せです」という言葉でさようならをしてしまうのは、いささかもったいないことをしてしまったなあと、いまでは少し後悔しています。

 よく考えれば、わたしはその家族の待ち合いちはなにも関係のない人物ですから、ジェラートをご馳走される所以はなにもないわけで、それはつまるところ、きっと店員さんはあの家族の待ち合いを特別な想いで見ていて、衝動的にわたしにジェラートをご馳走したのだろうと推測することがよかったのかもしれません。

 したがって、わたしはその家族の待ち合いと店員さん想いとの関係性を、突き詰めるべきでした。せっかく、旅をしているのですから。

とある家族の待ち合い

欧州ひとり旅日記より抜粋
in Füssen, Germany Oct.2023

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