考える野帖

世界一長い弓の謎を解くべく弓馬の道の人類史を辿る在野の考古学徒のメモ帳。

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世界一長い弓の謎を解くべく弓馬の道の人類史を辿る在野の考古学徒のメモ帳。

最近の記事

追いかけっこの考古学

昨年夏から今年の春にかけて、茨城県の大洗町で発掘調査していた。大洗は那珂川河口右岸の小さな海洋都市で、漁業や水産加工業が盛んな一方、海水浴客や磯前神社への参拝客で賑わう観光都市であり、さらには北海道と関東を結ぶフェリーの発着地として重要な流通拠点でもある。そして近年では、知る人ぞ知る「ガルパン」の聖地としても有名である(気になる人はGoogleで調べられたい)。 さて、年明け、我が岡安ファミリーが大洗に大挙集結して、新年会を催すこととなった。集合場所は、鹿島臨海鉄道の大洗駅

    • 「子供時代の考古学」の30年

      子供をめぐる考古学は、この30年の間に大きく前進し、その内容と方法とを刷新しながら成長してきた。ただし、残念なことに(あるいは例によって)、日本の考古学は、そうした国際的な研究の動向から、ほぼ完全に取り残されているといってよい。そこで、ここでは、子供(と若もの)をめぐる「あちら」の考古学がどのように進展しつつあるのか、ごく簡単に紹介して、諸賢の参考に供したいと思う。手始めに、研究のマイルストーンとなった四つの論文と一つのシンポジウムについて概略を記し、研究史の流れを大づかみで

      • 四條畷市蔀屋北遺跡と出水市六反ケ丸出土弓の比較

        四條畷市蔀屋北遺跡は、古式の馬具が出土していることなどから、逸早く馬匹生産が開始された地域として知られているが、実は古墳時代中期初頭のものとみられる弓も出土している。 現存長88cm程度で、割材から辺材側を背に、芯材側を腹として、削り出している。古墳時代の原初的和弓に通有な形状の弓弭を持つが、樋(弓幹の腹側に穿たれた縦方向の溝)はなく、実測図を見る限りでは、仕上げとしての削りも磨きも無い粗雑な造りの弓という点で、定型化された原初的和弓とは言い難い。人間の怪我で言えば斜骨折ない

        • 鹿児島県へ弓を見に行ってきました

          鹿児島県埋文センターのお招きにより、出水市の六反ケ丸遺跡から出土した弓を拝見するため、同県霧島市に行ってまいりました。該当する弓に関しては、今年度中に報告書を刊行予定ということもあり、あまり詳しいことは書けませんが、丁寧に削られ磨かれた弓幹に、綺麗に樋が通った丸木弓が数個体出土しており、断片とはいえ保存状態も良好で、日本列島における弓の発達を考察するための貴重な手がかりになることは間違いありません。5世紀代の古墳に副葬された、定型化した原初的和弓が成立するようになる、一つか二

          『考古学研究会70周年記念誌 考古学の輪郭』の原稿を募集していたのでエントリーしてみた

          募集要項によれば、考古学と隣接する分野に関するテ-マについて、複数の論者がそのあるべき姿と研究の最前線を論じ、多様な意見や考えの相違を明確化することを目的とする企画だという。 第1章から7章まで大きく7分野で合わせて60のテーマを設定し、それぞれのテーマに関して公募分も含め2〜3名による論文で構成する計画だそうだ。各章の内訳を要約すると概ね以下の通りである(なお、要約にあたっては、 せっかくの機会だから今話題になっている ChatGPT3に手伝ってもらったことを付記しておく)

          『考古学研究会70周年記念誌 考古学の輪郭』の原稿を募集していたのでエントリーしてみた

          映画『女王トミュリス』とスキタイの弓

          前6世紀に生じたアケメネス朝ペルシアと遊牧民マッサゲタイとの戦いを描いたカザフスタン映画『女王トミュリス−史上最強の戦士』(2019)が面白かった。さすが騎馬の民の国カザフスタンが制作しただけあって、実写による大規模な騎兵集団の激突シーンは、見ごたえがある。 バビロニアをはじめエジプトを除くオリエント全域を征服して空前の大帝国を築いたペルシア王キュロス二世は、数において圧倒的に優る兵を自ら率いて出陣したものの、この戦いで命を落としたと、ヘロドトスは書いている。映画は、ヘロド

          映画『女王トミュリス』とスキタイの弓

          犬の家畜化は人類の言語進化に貢献したか?(その1)

           AD1150年頃、ベーリング海峡を介して、アジアから北米北極圏に激しい戦争状態が波及した。そうした状況を示す証拠として、アジア起源の複合弓や小札式甲冑など新たな武器・武具がアラスカやアリューシャン列島に出現するとともに、要所々々に防御的集落や要塞が建設され始め、さらには戦傷を受けたとみられる遺骸が顕著に増加することが指摘されている。こうした「アジアから来た戦争」という見方に関しては、アメリカ考古学および人類学者の間で、大筋においてコンセンサスが成立しているように思われる(M

          犬の家畜化は人類の言語進化に貢献したか?(その1)