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『破墓』観たよ

太鼓や踊りがダイナミックな韓国のお祓いシーンで世界中の人を魅了した『哭声』の系譜として紹介されているっぽい『破墓』だが、ひたすら怖いホラーだった『哭声』とけっこう毛色が違ってこちらはホラーバトルものといった感じ、怖いけど痛快ですごく漫画チックな映画だった。漫画原作映画がどうとかMCUがどうとかでいかに実写化は難しいかみたいな話がよく出てくるけど、どシリアスに見える実写映画でいちばん漫画的な表現をうまく着地できているのって韓国映画なんではないだろうか。インド映画とかスペクタクルじゃん漫画っぽいじゃんと言われるかもしれないけどそれとはまた違うと言うか(インド映画はインド映画としてのルールや定番がかなりはっきり尖っているため)、『破墓』は最後の最後まで「格調高いどシリアスホラーでした」と言えば通じる仕上がりっぽくて、韓国ホラージャンルだけじゃなくここ十年ちょいのウェブトゥーンの映像化の達成なども大きいんだろうなあと実感する。漫画やアニメを実写化するとなんかコスプレっぽくて~みたいな話の答えは韓国映画にあると言える。『破墓』は別に漫画原作とかじゃないけど、実写映画には実写映画の外連味があり、それはものすごく漫画っぽくもあるということを学べる映画になっている。

アメリカ在住の超金持ち夫婦が韓国の巫堂(韓国のシャーマン)に怪奇現象の解決を依頼するところからお話はスタートする。夫婦の一族は跡取りとなる長男が精神を病みがちで、生まれたばかりの赤ん坊もまた全然泣き止まなかったりと様子がおかしい。これは病気とかじゃなくて祟りとかそっち系の現象なんじゃないか。先祖の祟りとかはよく聞く話ではあるけど赤ちゃんにまで祟るというのはなかなか厳しい。非道だ。巫堂のファリムは夫婦の一族の一連の禍いが墓の立地によるものだと見抜いて、韓国のとある山奥にある彼らの先祖の墓の改葬(墓を掘り起こして棺を別の場所に葬り直すこと)をこころみる。
ファリムの弟子ボンギルに加えて地官(お墓に適した土地、明堂を見極める人)のサンドクと納棺師のヨングン、この4人がチームとなってお墓の謎を解いていく。日本の宣伝ではこの4人を墓ベンジャーズと呼んでてちょっと嫌だが、実際のところこのチームアップが相当いい。そのあたりの話はSNSにファンアートがいっぱい出てるところからも理解できよう。

五行を利用した攻撃方法とか十二支を使った身代わりとか、週刊少年漫画もかくやのバトル理論で祟りとの戦いが展開していくのが非常に熱いしわかりやすく納得感がある。結界を張ったけどそれを回避する方法は、とか『呪術廻戦』じゃん!特にファリムのお祓いシーンは本当に見事で、彼女の表情や体が線となって舞と一緒になって美しいカーヴを画面の中に描き続けるさまは実写映画ならではのものでもあるしきわめて漫画っぽいとも言える。

お墓の場所が大事とかそれを定める風水の話とかとにかく専門用語がいっぱい出てきてそのどれにもワクワクする。それぞれの用語が歴史的な蓄積によって強固に体系化されていてお話を進める上での説得力に還元されているのもすごい。シンプルに勉強にもなる。納棺師のヨングンがクリスチャンのしかも長老(牧師ではない一般信徒だが所属している教会の中でいろいろ決める責任のある人)だというのもよくて、多様な信仰がすでにそこにあるものとして理解されている世界なのだと示されているからこそ、墓に隠された脅威にマジに立ち向かう登場人物たちの背負うものの身近さ、重みがすっと入ってくる。
そんな中で対応不可能な脅威として、日本からやってきた怨念が配置されているというのは、日本の観客にとってはかなり重要なことでもあるだろう。韓国という土地の超自然的な感覚の連続性を断ち切ったのは何なのか、という共通理解がここにはある。それは単なる事実であり実感であり、だからこの映画に対して(懸念としても)「反日(に見られちゃうかも)」という言葉が出てくるのにギョッとする。虎の背に乗るひとびとがずっとずっと背負ってる、それは外の世界からやってきた理不尽な呪いで、反日とかそんな言葉で説明できる理不尽さではない。そんな理不尽を背負わされたひとたちの思いの強さは、事件のきっかけとなった家族がどのような感じになったのかを見ればわかる。韓国は恨の国とか訳知り顔で私達は口にするし、もちろんその恨にはいろんな意味が含まれているけれど、どっこい日本の側の恨み(これは日本語の意味での恨み)もめちゃくちゃ強いし恐ろしい。多くの日本人は自覚してないかもしれないけど、たぶん今も、きっと確かにあるんだよ。歴史だったり記憶だったり、感情以上のものとして。「反日」という言葉は、その感覚の傍証にもなるだろう。いまだに癒えぬ傷と楔をその身に抱える場所で暮らす人々は、私達が自覚していない恨みの深さを確かに知っている。


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