山田集佳

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最近の記事

『破墓』観たよ

太鼓や踊りがダイナミックな韓国のお祓いシーンで世界中の人を魅了した『哭声』の系譜として紹介されているっぽい『破墓』だが、ひたすら怖いホラーだった『哭声』とけっこう毛色が違ってこちらはホラーバトルものといった感じ、怖いけど痛快ですごく漫画チックな映画だった。漫画原作映画がどうとかMCUがどうとかでいかに実写化は難しいかみたいな話がよく出てくるけど、どシリアスに見える実写映画でいちばん漫画的な表現をうまく着地できているのって韓国映画なんではないだろうか。インド映画とかスペクタクル

    • 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』への違和感とドナルド・トランプについて

      内戦状態に陥ったアメリカを描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はものすごく話題になっているし評判もいいけど一人の観客としては私は全然のれなかった。映画の出来とかつくりとかそういう部分での話ではなく、この映画が語るもの、見えているものの中に少なくとも私は入っていないなというきわめて個人的な感情によるもので、しかしこの映画を見る上ではその感情こそが重要だろうとも思っている。という話はこちらの映画で詳しくしているのでお時間あったら見てほしい。ひとりのアジア人として、この映画に

      • 『アイズ・オン・ユー』観たよ

        Netflixで配信されたアナ・ケンドリック初監督作品。主演もアナ・ケンドリックだ。初監督作品らしくちょっともどかしいような部分もある(わりと複雑な編集の映画で、その意図は分かるのだけれど観客が「これは何の映画なんだろう」と映画に生理を合わせるのに時間がかかる)けれど、この映画で何を描きたいのかはかなりはっきり伝わる。アナ・ケンドリックの作家性というかテーマみたいなものもこの作品でバシッとわかるのでいい映画だと思う。 1970年代に実在した殺人鬼ロドニー・アルカラに殺された

        • 『憐れみの3章』観たよ

          アカデミー賞にノミネートされまくった『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモスがもともとギリシャで組んでいた脚本家と再び組んで撮った3つの短編のオムニバス映画。それぞれ役者は共通しているけど基本的には別々の3つの物語が楽しめる。 『籠の中の乙女』で一躍その名を馳せたランティモスだけどフィルモグラフィを通して描いているテーマは割と共通していて、人間って意外と社会から簡単に排除されるしそうならないように注意深く生きたとてそうそう同じ場所にはいられないよーっていうこと。それをイ

          『ナミビアの砂漠』観たよ

          公開前からかなり話題になっていた映画で、河合優実は今年の顔で間違いないという事も含めていろんな注目ポイントのある作品。河合優実は高校生の時から監督の山中瑶子に「監督の映画に出してください」と直訴していて、その意味では念願のタッグとも言える。 21歳の脱毛エステ勤務のカナという女性が自由気ままに見えてぜんぜんきゅうくつな日常を生きていく姿を描いている。カナは一般の映画からするとかなり共感しづらい女性に見えるように演出されていて、友達の話を聞いているふりしてノーパンしゃぶしゃぶ

          『ナミビアの砂漠』観たよ

          「Cloud」観たよ

          アカデミー賞の外国語映画賞日本代表が黒沢清の映画だと発表されてみんなびっくりした。その映画が『Cloud』だ。主演も菅田将暉だしもしかしたらいつもよりはふつうの映画なのかもしれないとみんな思ったがいつもより派手だがいつも通り変な映画だった。いつもよりも建物の内部構造は変じゃないかもしれない。 まず転売ヤーが主役だと聞いてなるほど今日的なテーマだと思ったら転売ヤーの部分はガバガバだった。菅田将暉の管理する商品ページがWindowsのエクスプローラーみたいだったり絵的な部分で転

          「Cloud」観たよ

          『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』観たよ

          Netflixで配信されたWWEとWWEを世界的企業に押し上げたビンス・マクマホンに関するドキュメンタリー。撮影は2021年から始まったがそのあとに怒涛のスキャンダルが発覚しビンスはWWEから追い出されたので思わぬリアルタイム性をまとってしまった。 めちゃくちゃ色々な論じ方のできるドキュメンタリーであり正直『極悪女王』とかドナルド・トランプの話とかと絡めて論をまとめたいところだがまずはこのドキュメンタリーでいちばんやばいなと思ったシェイン・マクマホンの話をさせてほしい。

          『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』観たよ

          『Chime』観たよ

          黒沢清の短編映画。シネマカリテの水曜日のサービスデーに見に行ったら特別興行で一律1500円だった。『ルックバック』と同じ方式だが短い映画は本当に嬉しいし気軽に見に行けるのはいい事なので今後も増えていくといいな。RoadsteadというWeb3.0の配信プラットフォームのために作られた作品のようだ。映画も気になるけどWeb3.0の配信プラットフォームも気になるぞ。 料理教室の講師として働いている松岡という男は、ある日不可思議な生徒に遭遇する。頭の中でチャイムが鳴り響いていると

          『Chime』観たよ

          『サユリ』観たよ

          押切蓮介原作の漫画を「コワすぎ!」で知られる白石晃士が映像化したホラー映画で、『呪怨』から続く事故物件ものと『ジョン・ウィック』から続く喧嘩を売った相手がやばかったものを組み合わせたハイブリッドホラーアクション。 認知症の祖母と二人暮らしをしている祖父を引き取って子ども三人と七人暮らしを始めた幸せそのものファミリー。めちゃくちゃ崖沿いに立っていて入り口が二階にある(?)という変則ハウス、しかも中心が建蔽率の関係上かどうかわからないけど吹き抜けになっており、特殊な家度でいうと

          『サユリ』観たよ

          『地面師たち』観たよ

          2017年に起こった実際の地面師詐欺事件をモデルにした新庄耕の小説を原作にしたネットフリックスドラマ。配信から一か月経ってるのでいろいろ感想は出てるし評判もいいので今さらという感じもするけど私はこのドラマを見て「詐欺で騙されるか騙されないかの境界」みたいなことに思いを馳せた。 というのも、このドラマは豊川悦司演じる大物地面師ハリソン山中を中心に展開し、ハリソンはドラマ冒頭から広大な土地で狩りをしているなどなんかすごそうな人物として描かれる。そんなハリソンが弟子の綾野剛に映画

          『地面師たち』観たよ

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF7』編

          『FINAL FANTASY VII REBIRTH』はかなりメタスコアもいいので面白いのだろう。そう思ってやってみたらまあ、物量的にはものすごいことをやっているのだがなんと『FINAL FANTASY XVI』と同じ変さを猛烈に抱えていてそればっかり気になってしまいゲームを楽しむどころではなかった。 しかしハードなファンタジーを標榜したFF16とは違って、スチームパンクファンタジーを下敷きにしたFF7の世界は比較的何でもありだからその変さを説明するのもちょっと難しい。設定の

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF7』編

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF16』編

          私がゲームを、特にAAAタイトルを遊んでいるときにわりと気にしていることは、女性の友人にこのゲーム、面白いよって紹介できるか否かだ。なかなかに謎の基準だと自分でも思うし、女性だからといって友人の属性も様々なのでまったく妥当性のない基準なのだけど、なんか「これを面白いよ」と自然に言えるかどうか、それを真に受けて実際に遊んでくれた友人が「なんじゃこりゃ」とならないかどうか、みたいなことはかなり私の中では大事な基準となっている。 その際、ゲームの出来云々はあんまり関係がない。よほど

          FFから考える現代ゲームの難しさ『FF16』編

          『ネット右翼になった父』読んだよ

          『ネット右翼になった父』を読んだ。2019年の記事で父親がネトウヨになってしまってショックやん……という記事から、どうして父親がネット右翼になってしまったのかを追っていくドキュメンタリー。個人的にすご~~~~く嫌な後味が残った。 いろんな人が書評してる通り、この本は原因究明というよりは父親とのディスコミュニケーションを父の死後にやり直して、結論としては父はネット右翼になってなかった!もっと話をすればよかったけどそれも無理だったんだよなぁ……でも父親のことを誤解したままじゃな

          『ネット右翼になった父』読んだよ

          『Venba』遊んだよ

          2023年の7月に発売されたインディーゲームだけど今さらやりました。IGF(インディーゲームフェスティバル)で大賞も獲得して去年発売されたインディーゲームの中でもトップレベルに評価されていて品質はお墨付き。実際すごく面白かった。問題は日本語版がないことだ。なので英語で遊びました。内容の理解度は半分くらいでしょう……。 タイトルにもなっている「Venba」というのは女性の名前で、1980年代末期にインドからカナダへ夫と共に移住した彼女がどのような人生を生きたのかというのを、彼

          『Venba』遊んだよ

          『祇:Path of the Goddess』遊んだよ

          『祇:Path of the Goddess』おもしろかった~~~。仕事柄ゲームを遊ぶときにはGOTYを意識してしまうのだけれどこれはもう年末にどう語るか考えちゃう。すごいよかった。 『祇:Path of the Goddess』はカプコンによる新作アクションストラテジーゲーム。穢れによって浸食された禍福山と、禍福山に点在する集落を解放するため、巫女の世代と共に主人公の剣士・宗は戦うぞ、というストーリーだけどセリフはほぼない。発売と同時にカプコンの名作アクションRPG『大神

          『祇:Path of the Goddess』遊んだよ

          処女じゃなくても大丈夫

           自宅から歩いて二十分ほどにある雑木林は私が子どもの頃からトカゲ山と呼ばれていて、そこに野生のユニコーンが迷い込んだと近くに住む母から連絡があった。特定外来生物のユニコーンが都会の住宅密集地に現れたと地元は騒然となっているようだが、警戒心の強いユニコーンはうまいこと隠れてしまい、SNSにもユニコーンの姿をとらえた写真や映像はほとんど出回っていない。  私はどうにかユニコーンを見たくなって、いてもたってもいられず近所にあるホームセンターに足を運んだ。径の違う塩ビパイプをいくつも

          処女じゃなくても大丈夫