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【最終章3-2】「執着は重いものだよ」|Arcanamusica
MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—
著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ
#3-②
「それで? 弦八くんに何をしたって? そもそも、ナンパってどういうことだよ」
「偶然見かけた時に、彼の音楽に惹かれてね。俺の望む輝きの可能性を秘めている気がしたから、磨いてみようと思ったんだ」
「……はあ」
ジュエリーデザイナーという職業柄なのだろうか。斑目は時折、こういう遠回りな……どこかわかりづらい言葉選びをする。
(いや、別に職業関係ないか)
初めて出会った時から、彼の掴めなさは変わらなかったな、と思い直した。「輝き」という言葉も、これまで川和自身も何度も、何度も聞いてきた響きだ。
——君の歌には、とても美しい輝きがあるよ。見たこともないくらい、キラキラしてる——
最初に言われたのは、小学生の時だった。
その言葉を思い出して、ふっと小さく笑いがこぼれる。
今思えば、小学生が口にするにはあまりにも大人びた、どこか胡散臭い言葉なのに——あの時の川和は、たしかにその言葉を喜んだ。
「もしかして、昔のことを思い出してる?」
ふふっと笑いを滲ませながら、斑目に覗き込まれる。思考を透かして見られたような心地悪さで、川和はそっと目を逸らした。
「君の思い出しているその風景と、弦八に出会った時の風景は少し似ていると思うよ。だからかなあ、過度に期待しすぎてしまったのかもしれないね」
「お前、それは……」
まるで伊調が、期待外れだったとでも言うような。
あまりにも自分勝手な言葉に眉をひそめた川和に、斑目は気にした様子もなくグラスに口をつけて一口、カクテルを流し込んだ。
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「君とのデュエット……『いつか晴れた日に』を聴いた後にね。少し、優しくないことを言ってしまったんだ」
「それ、俺もなんか責任感じるんだけど……」
「ははっ。静くんは関係ないよ。これは俺と弦八の問題……」
言いかけた斑目が、珍しく言葉に迷うように口を閉ざした。そして、ゆるく首を横に振ると川和の方をちら、と見る。
「いや……そうとも言えないのかな」
細い指を輪郭に這わせるように頬杖をついて、斑目の視線が少し遠くなった。
「少しね、反省しているんだ。これでも」
「……お前が?」
「最初に聴いた時に、戸惑ってしまったんだよ。弦八の輝きも……君の輝きも。俺の知っているものとも、想像していたものとも違ったからね」
「期待外れだったか?」
「そう思いかけた。……けど、何度か聴いて、違うのかもしれないって思い始めた」
そこで目が合った。
もしかしたら、斑目は自分の心の内を語ろうとしているのかもしれない、と——長い付き合いの中で、初めてそんな予感がした。
「俺はいつの間にか、君達の輝きを自分の思う型にはめようとしていたみたいだ。だから今は、一度この輝きをそのまま受け止めて見ようと思ってね。その先に何が見えるのか……少し、気になり始めているところだよ」
いつもはあやしい輝きを放って見える斑目の瞳が、どこかピュアに輝いているような気がした。
そんなふうに思うあたり、川和自身も斑目の語り口につられているのかもしれない。
昔から、斑目は川和のペースを崩す。最初に歌っているところを見られてしまった時から、今も——ずっと。
「……要するに、良い曲だったって認めてるってことか?」
「単純に言うとそうなるかな」
「だったらそれ……弦八くんにも言ってやればいいんじゃないの。お前が言ったその、優しくない感想とやらを気にしているんだろうから」
「いやあ、それが……困ったものでね。もう少し、悩む弦八を見ていたいというか……その結果、今度はどんな輝きが弦八から生まれるのか……もしかしたら俺が想像していた以上のものが見られるのかも……」
ぶつぶつと語り始めた斑目に、本当にそういうところだぞ、と思いながら振り回されている弦八に心から同情した。
せめて俺は、弦八くんに心から優しく、大人の振る舞いをするよう心がけよう。
「——それより、聞きたいことはまだあるんだよ」
To be continued…