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【最終章17-1】「すべてが、実験でした」|Arcanamusica

MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—

著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ

#17 -①


「異世界、というより、遠い宇宙の果てにある惑星の一つ——と言った方がわかりやすいですね」

 大きな机の真ん中に立って、スーは話し始めた。


「私は、その惑星から来ました。ここからはずっと遠い——同じ銀河の中には存在しない、『アウルム』という星です」


 紡がれる言葉はすべて現実離れしているのに、それを指摘する人間はいなかった。
 それくらい、スーの声はこの空間を支配していた。


「物語の始まりは、一人の男が世界の真実に気づいてしまったことでした」


 そして、スーは語り出す。

 遠い星で生まれた、ある二人の物語を。



 アウルムは、惑星国家である。

 小さい星で人口もさほど多くないけれど、その分あらゆるものが行き届いていて不自由もない。
 周辺の惑星とは繋がっているけれど、互いに小さな惑星同士争いが起こることもない。

 娯楽は少ないけれど、生きるには困らない、そんな国。
 そこで、青年・スタルトスはもうずっと、平和に暮らしていた。
 星が好きで、学ぶことが好きだったから高等教育を受けて研究者になった。仕事は充実していたし、やりがいもあって日々になんの不満もなかった。


 だけどそれは、誰かの犠牲によって成り立っていた世界なのだと——ほどなくして、彼は知ることになる。

「……星の軌道がおかしい」


 研究施設に勤め始めて二年ほど経った頃、アウルムの軌道が本来の軸よりもずれていることを観測した。
 すぐさま先輩の研究員に伝えると、彼はさほど驚いた様子もなく、地下資料庫のβ列にある資料を確認するようにと伝えてきた。


「スタルトスは入って間もないからまだ知らないんだろうけど、アウルムは過去にも度々軌道を変えているんだ。そんなに慌てることじゃない」

「……そうなんですか?」

「ああ。まあ、俺も自分が関わる時代にそれが起こるとは思っていなかったけどな」


 焦ることではないが、稀なことではある、と先輩は教えてくれた。
 とにかく資料探しと、あとは報告だ、と言われてスタルトスも気合いを入れた。

 危険が及ぶようなことではないらしいが、何にせよ知識が必要だ。


(それにしても、そんなことあるんだな……まあ、小さい惑星だし周囲の環境にある程度左右されることもあるのか)


 言われた通り、地下資料庫のβ列で資料を探すとこれまでアウルムが軌道を変えながらも惑星として維持し続けてきた理由がきちんとまとまっていた。
 軌道の変化は、おおよそ五百年程度のスパンで起こるらしい。


「軌道が変わるのは、惑星が変わろうとしている時……? ≪ワールド≫の交代が近づいている……って、なんだ、これ?」


 交代、という言い回しが引っかかった。
 何か機械や部品なら、『交換』が正しいだろう。

 ≪ワールド≫について書かれている資料は少なく、限られた情報の中から得られたのは、≪ワールド≫が惑星に選ばれ、惑星を維持するのに不可欠な存在である、ということ。


(よくわかんないけど……今回星の軌道がずれているのは、この≪ワールド≫と関係があるってことか……?)


 わからないが、書かれている情報がここまでということは、一人の研究者であるスタルトスが知るべき範囲がここまで、ということだろう。

 特に疑問は抱かず、何か指示があればその時に動けばいいか、とその時はそこで、思考を止めた。


 ≪ワールド≫が人であると知ったのは、それから数ヶ月後。

 いよいよアウルムの軌道が変わるとなった時のことだ。


 惑星の維持に必要不可欠な存在である、として選ばれたのは、スタルトスが幼い頃から共に過ごし家族のように想っていた女性——アウローラだった。



To be continued…


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