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【最終章17-4】「すべてが、実験でした」|Arcanamusica
MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—
著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ
#17 -④
「そこから、更に長い時が経って、この惑星に辿り着きました。音楽にあふれ、その力が満ちた場所——まさしく、私共が理想とした場所でした」
スーの言葉に、まだ戸惑いの渦中にいるであろう川和がそっと、手を上げた。
「え、っと……つまり、お前が、その、スタルトスさん……って、こと?」
「私の中にはスタルトスの思考、知識、人格、その他全てが内包されておりますが、私自身がスタルトスか、と言われるとそうではありません。
ですが、私の行動はすべて、彼の意志によるものと捉えていただいて結構です」
「はあ……」
あまりにも突飛な話に、ついてこられていないのかもしれない。
無理もない、スーも最初、この星が星間移動の手段を持たず、宇宙から閉ざされた場所だと知った時には驚いたし、戸惑った。
異星に対して開けた場所であれば、話はもう少し簡単だった。こちらから選んだ人間を、アウルムに連れていき、そこで協力してもらえばいい。
けれど、地球でそれを行おうと思っても、中々難しい、というのは、降り立った瞬間からわかった。
だから、準備をしたのだ。
ゆっくりと、けれど着実に。
まず、音楽の力を集めるために、音楽を『作れる人間』を選んだ。
川和律が、そうだ。
彼にはすべてを話した。最初は驚いていたけれど、大切なものを守るために音楽が必要だ、と伝えると、悩んだ末に協力を受け入れてくれた。
「音楽の乏しい場所で俺の音楽を鳴らす、なんて楽しそうな話だし……それほどまで切実に音楽を求められたら、応えないわけにいかないな」
そう言って、彼は十六年、スタルトスのために音楽を作り続けてくれた。
けれど、それだけでは、やはり足りなかった。ただ作られた音楽を鳴らすだけでは、石の亀裂はさほど大きくならなかったのだ。
「そこで思い出したのが——タロットの、存在でした」
かつては、神の力に代わるとまで言われていたもの。
もし、それが本当なのならば——何か、導いてくれないかと。
アウルムに残るタロットをかき集めて、スタルトスは調べ続けた。
そして——広い世界の中で、タロットに、呼応する人間がいることに気づいたのだ。
アウローラが≪ワールド≫であったように。
カードの一枚一枚に、適応する人間がいる。
地球でもそれは例外ではなく、八枚のカードが呼応し、八人の人間を選んだ。
「それが、皆様というわけです」
タロットに選ばれた人間。
彼らの力を、どうすれば≪ワールド≫に還元できるのか。
最初に石に亀裂を入れたのは、歌だった。
そして、スタルトスの元には、一枚のカードがあった。
もし、カードに適応する人間の『歌』が、何か作用するのなら。
「……すべては憶測で、すべてが、実験でした。確信を持って行えたことなど何一つありません」
それほど、必死だった。
とにかく、がむしゃらだった。
だけど幸いにして、すべてがいい方向へと転じていった。歌い手は選ばれ、その歌はアウルムを動かし、≪ワールド≫にも影響を与えていった。
「だから、……もう少し、懸けてみることにしたのです。皆様の、歌の力に」
机の上から、スーは、歌い手達を見渡した。
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「どうか、我々を——≪ワールド≫を、助けていただけないでしょうか」
その声はスーのものであったけれど——スタルトスの懇願が、滲んでいた。
To be continued…