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【最終章20-4】「――皆様は、自由ですから」|Arcanamusica
MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—
著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ
#20 -④
今日はもう疲れただろうからと、その後はすぐに解散になった。
「RiZ様。少しだけ、お時間よろしいですか?」
帰り支度をしていたところで、スーに声をかけられる。
個人的に呼ばれたことに一瞬、緊張感が走るが、スーの表情から警戒するようなことではなさそうだと感じた。
「何?」
「お話ししたいことがございまして」
「いいけど……」
ちょいちょい、と小さく手招きされて近づいていくと、そのまま扉で続いている隣の部屋へと案内された。
「こちらを……」
そうして、スーから渡されたのは一通の封筒だった。
「……?」
「川和律様からの、お手紙を預かっております」
「えっ」
「我々としては動画や通信を繋いでというのも提案させていただいたのですが、律様の方から顔を合わせて話すのは緊張する、と言われてしまって……!」
「あ、いや、それは俺もそうかもしれない」
たしかに、急にここでドン、と父親が現れても、川和も動揺して何を言えばいいのかわからなかったと思う。
そういう意味で、手紙というのはありがたい手段ではあった。
「あの、さ。改めて聞いてなかったけど……うちの父親は、今、どこにいるの?」
「アウルムに」
「!?」
「アウルムの、≪ワールド≫の傍におります。……誰のための歌なのか、その顔を見ながら作りたい、と、律様が仰って」
家出した父親は、まさかの異世界に滞在中でした。
あまりにもとんでもなさ過ぎて、このまま何かのラノベのタイトルにして一発当てられないだろうかと現実逃避めいたことを考えてしまう。
「いずれかのタイミングで、律様にも地球に戻る手はずを整えたいとは思っておりますが……」
「その時は殴られる覚悟で帰って来いって言っておいて」
「お伝えしておきます」
まったく、と思いながら封のされていない手紙を開く。
そこには父親らしい自由な字で、川和の歌への感想が書かれていた。
「……いや、もっと書くことあるだろ」
歌を褒める言葉やアドバイスがいくつもいくつも連なっていて、川和も思わず笑ってしまう。
だけど、きっとずっと——父からの、こういう言葉が欲しかった。
「……せめて母親が生きているうちに帰ってこい、っていうのも伝えておいて」
「はい!」
手紙は、丁寧にたたんでしまう。
さすがにこの一連のことを母に伝えることはできないけれど——父が、川和の歌を聴いていた、ということくらいは伝えてもいいかもしれない。
「それで、RiZ様。ここからは川和静様としてのお話なのですが——」
「……ん?」
意味深に切り出すスーのいつもとは違う雰囲気と言葉に、川和はほんの少し、身を固くした。
To be continued…