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【最終章16-3】「君は、ちゃんと戻ってこい」|Arcanamusica
MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—
著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ
#16 -③
「……やはり、そうなってしまいますか」
川和の言葉は、恐らく想像通りだったのだろう。
スーが静かに目を閉じた。
「川和律様——あなたのお父様は、我々の、専属作曲家でございます。
これまで我々から送らせていただいた楽曲は、すべて、彼の手によって作られたものです」
やっぱり。
たどり着いた答えに、川和は深く呼吸を整える。
「それだけか? だとしたら、わざわざ何年も隔離するような真似、する必要ないだろ」
「必要なのですよ。真に力を発揮する、音楽を作っていただくためには」
「ただの音楽じゃないってことか」
「……RiZ様は、察しが良くていらっしゃいますね」
仕方ありません、と呟いたスーの短い足が一歩、前に出る。
そして、トン、と床を踏み鳴らした瞬間——
川和の目の前に、大きなカードが現れた。
「なんだこれ……?」
「タロットカードでございます」
「タロット……?」
知識はないけれど、タロット占い、という言葉は聞いたことがある。しかしそれが、今、何の関係があるというのだろう。
「お伝えしたことがあるでしょう。皆さまは、選ばれた歌い手だと」
「あー……なんか、そんなこと、言ってたような……?」
「我々が『特別な一曲』——即ち、律様が作った楽曲を与えているのは——タロットに選ばれた、歌い手の皆様なのですよ」
「……え、っと、それは、占いとか、そういう……?」
さすがにそんな呑気な話ではないだろうとわかりつつも、スーの話の先がまるで見えなくて間抜けな言葉を返すことしかできない。
(いや、なんかもっと……怪しい、いわゆる闇社会とかそういう感じかと思ってたんだけどそうじゃないってことか……?)
目の前に現れたタロットカードには、12という番号と共に足を縛られた男が描かれていた。
「吊られた男——RiZ様を、我々アルカナムジカへ導くに至ったカードです。縛られている不自由さから孤独や犠牲的精神、現状維持を示すカードとされておりますね」
さて、とひと呼吸置いて、スーがにっこりと微笑む。
「RiZ様は、我々がこの世界ではない、遠い場所から来た……と言ったら、信じますか?」
「はあ!?」
「いわゆる異世界、というものでしょうか。
この世とは異なる理で動く世界……その使者こそ我々であり、律様をはじめとした協力者の皆様は異世界へ転送している、と……そう言ったら、どうします?」
「……いや、さすがに無理だろ。いくらお前達が怪しいって言ったって、そんなファンタジー信じられるわけが——」
「でしょうねえ」
再び、スーが足を踏み鳴らす。
すると吊られた男のカードを囲むように、新たに七枚のカードが現れた。
そして、その向こうに——他の歌い手達の、姿が見える。
「……え?」
獣条《じゅうじょう》がオフィスで難しそうに先ほど川和が渡したUSBを見つめているのを見て、もしかしてこれは、今、この時の彼らの姿なのか、と。
その考えに至った途端、背筋が凍った。
(なんだこれ、まるで監視カメラってか……盗撮……?)
あらゆる場所に情報を巡らせている、と言っていた。
ワンダフルネスト——驚くべき、巣。蜘蛛の糸のように張りめぐされた彼らの存在が脳裏によぎって、嫌な想像が駆け巡る。
(ずっと、……見られていた?)
To be continued…