見出し画像

【最終章LIVEpart③】|Arcanamusica

MAIN STORY【Chapter2】Arcanamusica —My song, Your song—

著:衣南 かのん
イラスト:ユタカ


【Introduction:彼の場合】


(やっべー……やっべー!)


 休憩中、の画面と、その横に流れるたくさんのコメント。それらを眺めながら、いつまでも興奮がおさまらない。

 アルカナムジカ、初めての配信ライブとして告知された日から数日。今日のために全部の予定を調整して備えてきた。なんとしてもリアルタイムで、歌い手達の生の歌声を聴きたかったから。


「想像以上じゃん、やべー!」


 他に言葉が出てこないくらい、圧倒されてしまう。
 今まで聴いていたレッジェさんやシブキチだけじゃなくて、この場に選ばれた歌い手達は全員がレベル違いだった。


(そりゃ俺のbetがいつまでも伸びないわけだよ……なんかもう、オーラが違う。画面越しだけど)


 最近は少しずつbetやコメントをもらえるようになって来たけど、それでもまだまだ人気の歌い手達には程遠い。

 アルカナムジカで歌を歌っている、というところは同じはずなのに、彼らと自分の違いは一体何なのかと考えてしまう。
 それくらい、どの歌い手も格好よかった。

 歌の上手さなんて単純なものじゃなくて、表現力や歌を通して伝わってくる想いのようなものが、俺とはどこか違う、と思ってしまう。


「何が違うんだろうなあ……」


 歌が好きで、歌うことが好きで、俺もアルカナムジカで歌っている。
 だけど、ああ、違うな、と思ってしまった。


(……よし、後半はもっと真剣に聴くぞ!)


 前半は、圧倒されてしまって聴いているだけで精一杯だった。だけど、後半はもう少し聴き込みたい。
 できるかどうかはともかく、何か自分に活かせるものがあるなら、全部吸収したい。


(それで、いつか、俺も……)


 小さなスマホ画面の向こうに広がるステージは、今の俺にはとても遠くて、大きく見える。

 いつまで経っても、近づける気もしない。
 だけどいつか、と思わないことには、何も始まらない。


「めげないめげない! まだまだ、俺の音楽はこれからだ!」


 よし、と気合いを入れて、そろそろ始まりそうな気配に改めて画面を見つめる。
 さて、次はなんの曲が聴けるだろう。




「やあ、初めまして。こうして皆の前で話すのは初めてだね。テティスだよ」

「それにしても、RiZリズくんの『逆転スピナー』……素晴らしかったよね。
 キラキラと輝く、あまりにも美しい曲だった。皆にも、その輝きは伝わったかな?」


「本当はまだ彼の歌を聴いていたかったんだけど、次は俺の番のようでね。
 でも、『綺麗だ』は俺の中にある、美しさへの崇拝をそのまま現したかのような曲だから……彼の後に歌うのは、ぴったりかもしれないな」


「実は、自分で歌うことに以前は興味がなかったんだ。俺はあくまで観測者でありたかった、というか……音楽を聴いて、その美しさを享受できるならそれでよかった」

「自分で歌ってみたのも、その一環でね。自分の歌がどんな輝きを見せるのか、見てみたかったんだけど……」


「……おっと、話しすぎちゃったな。もう、時間みたいだ」

「俺がある音楽の中に輝きを見出したように、この曲も、君達にとって何かの標になってくれたらいいな。……なんてね」

「それじゃあ、そろそろ歌おうか」



「皆さん、こんにちは……あっ、こんばんは……アリアです」


「え、っと……これから、『ムーンライト・アリア』を歌わせてもらいます」

「この曲をもらった時のことは、すごく覚えていて。僕はまだ自分の音楽の迷っていて、その中でどうやったらこの曲を自分の歌にできるんだろう、どんな響きが、どんな想いが、この歌を輝かせてくれるんだろう、人を、動かすことができるんだろう、って……」

「そんなことばかり考えて、思考錯誤していました」


「……今も、これが僕の音楽です、って、胸を張って言えるかはわかりません」

「だけどこの曲を最初に歌った時よりも……もっと真っすぐな気持ちで、向き合えているとは思っています」

「だから、今日は、心をこめて。この曲が少しでも多くの人に届くことを願って、歌わせてもらいます」


「……僕の音楽を見守ってくれていた人達に、感謝をこめて。……聴いてください」




「レッジェだ。『テノヒラダンサー』、どうだっただろうか」

「この曲は、アルカナムジカで最初に歌った曲だな。……正直、当時のことはあまり、語れるようなものではないが……突然歌うことになって戸惑っていたし、これで正しいのか、不安だったことも覚えている」


「何度か話したかと思うが、俺は正直、歌は得意ではない。……というか、歌というものに、あまり近くない人生を送ってきた。
 友人とカラオケに行っても、何を歌っていいかわからないから聴いているばかり、ということが多くてな」

「そんな俺が、こうして歌って……それを、聴いてくれている人達がいる」

「今まで、そこにきちんと目を向けられていなかったように思う。改めて、これまで応援してくれていた全ての人に、感謝を述べたい」


「未だに、歌を得意だとは思っていない。だけど、……少し、歌うことは楽しいと思えるようにはなってきた。そして、楽しいと思う自分を、認めてもいいんじゃないか、と」

「なんだか、とりとめのないことを語ってしまったな。ただ、ありがとう、と伝えたかったんだ。聴いてくれて、本当に……ありがとう」





「どうも、シブキチです!」

「……タイガーです」

「二人合わせて~……?」

「や、ユニット名ないだろ、俺達に」

「ははっ、だよね。えーっと、この後はオレ達二人の曲を歌わせてもらいます。俺にとっては、もう、すっごく、すーっごく、思い入れの深い曲です! アルカナムジカで、この曲をタイガーと歌えてよかった。本当に、心からそう思います!」


「だから、全部言うなっての」

「タイガーは? タイガーも一緒?」

「ああ、まあ……そうだな。いろいろ思い出もある曲だけど、聴いてる時はそんなこと考えないで、楽しんでくれたら嬉しい」

「そうそう! 手拍子とか、合いの手とかもあるから! コメントもバンバン盛り上げてくれたら嬉しいな!」

「そうだな。画面の向こうで、一緒に盛り上がってくれ」

「それじゃあ……せーの、」


「「イケてるBuddy!!!!」」



「うわあ……盛り上がってましたね、シブキチさんとタイガーさん」

「あの曲ずるいよなー。俺達も聴いてて思わず手拍子しちゃったもんな」

「わかります、楽しい気持ちになりますよね」

「さてと、俺らも負けてらんないな、アリアくん」

「もちろんです、RiZさん!」

「シブキチくん達みたいに、いろいろ語るのは得意じゃないから……えーっと、どうしようか?」

「そうですね。歌で聴いてもらうのが、僕達は、一番いいと思います」

「そうだな。それじゃあ……準備はいい?」

「もちろんです!」




「なんか、最初も最後も俺って……本当にいいのかな」

「えーっと。次の曲で、ライブは最後です」

「うわ、コメントの流れ早い……すみません、あんま読むの上手じゃなくて。でも、あとでじっくり読ませてもらいます」

「俺の歌を聴いてくれて——俺を、見つけてくれて、ありがとう」


「はは、終わるの寂しい? わかる、俺も。ライブ、すげー楽しかったから……ちょっと、寂しいな」

「でも、これからもずっと、俺達は、俺達の歌は、ここにあります」

「思い出した時には、いつでも聴きに来てください。いつまでも、待っています」

「それじゃあ、……聴いてください」


「『My Song』」



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集