読書感想文(249)二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』
はじめに
今回は久々に数学関係の本を読みました。作家の著者が、数学者や数学教育者にインタビューしたものをまとめたような本です。
昨年、数学関係の本を読むことを目標にしていましたが、結局ほとんど読まなかったので、今年は目標リストに入れませんでした。
目標から外した途端に読みたくなるのは、義務感が生じるとやりたくなるからかもしれません。
感想
とても面白かったです。
今回は図書館で借りて読んだのですが、文庫版もあるようなので買って再読したいと思いました。
印象に残ったことはいくつかありますが、二人の数学者が岡潔の名を挙げていたのがまず思い出されます。私がこの本を手に取ったのも、岡潔のエッセイを読んで、もっと数学について知りたいと思っていたからです。
高瀬正仁先生は、現代数学は面白くないと言います。そして、岡潔の言葉を借りて、現代数学は冬景色である、と。「岡・カルタンの理論」という岡潔が世界的に有名になった理論があるそうですが、その論文を雑誌に掲載する際に、岡潔がなぜその研究をするにいたったかを書いた序文を、カルタンが削除してしまったそうです。数学は情緒であるという岡潔と、主観を排して客観を重んじ、命題と証明だけでよいとするカルタンの立場の違いがよくわかります。
岡潔は十本目の論文、すなわち最後の論文で、「もう一度、春の季節を感じさせるようなものを書きたい」と序文に書いているそうです。
岡潔の数学観は人間の営みに根ざしていますが、現代数学は抽象化・一般化に寄りすぎている。だから学校で習う数学も、何のためにこんなことを学ぶのか分からず、モチベーションが下がってしまうのかなと思います。
私は高校までしか数学を学んでいませんが、それでも数学で培った知識や思考力が日常に活かされているなとよく感じます。つまり、学校数学のモチベーションの問題に限って言えば、抽象化されたものを具体化する力があれば良いのかなと思います。
この点、この本でインタビューを受けられた一人である、数学とお笑いをミックスしたタカタさんは、それができているのかなと思います。
タカタさんや堀口さん(大人向け数学教室の先生)のような、間を繋ぐ橋のような存在が自分の役割かなと思っているので、具体化する力は鍛えないといけないなと思いました。
また、学校教育において、数学は一度つまずくと追いつくのが大変なイメージがあります。一方で、国語はいつからでも学ぶことができると思います。ただし、力がついたことを実感するのに時間がかかりやすかったり、体系的に学ぶ土台ができていないということも言えます。でも、だからこそ、勉強が苦手だと思っている人が、勉強だと思わずにじっくりと取り組んで力を伸ばせるものであったらいいなと思います。
脱線し始めているので、以下、印象に残ったことや覚えておきたいことを箇条書きしていきます。
・リーマン予想が解決すれば、ざっくり言えば素数の分布がわかる、らしい(P16)
・万物は数で表せる。言葉もそう。数学は言葉である。(P17)
・原資と数学の比喩が秀逸(P18)
・2000年に100万ドルの懸賞金をかけられた7つのミレニアム問題は、ポアンカレ予想のみロシアの数学者であるグレゴリー・ぺレルマンによって2006年に解かれた(P27)
・プロの数学者でも新しいことを学ぶときは、基礎勉強に数か月かける(P58)
・グロタンディーク素数は、日本語で言えば「猿も木から落ちる」(P123,私見)
・ラマヌジャンノートには超ひも理論に出てくる数式がある(P136)
・数学に答えが存在するのは、価値観が違う者同士でも分かり合えるということ(P168)
・何かのために作ったものじゃないからこそ、数学というのはいろんなところに使える、汎用性がある(P180)
・トポロジー(位相幾何学)と平仮名の遊び(P234)
私はまだまだ勉強不足なので、常識的なことでも知らないことがたくさんあります。無知を恥じずにこうして色んなことを書いておき、いつか「当時はこんなことも知らなかったのか」と振り返れたらいいなと思います。
最後にもう一つ。
この本や、岡潔の本、小川洋子『博士の愛した数式』などを高校生の頃に読んでいたら、私は数学科に進んでいたのかもしれないな、と思いました。
私は元々理系でしたが、『伊勢物語』や『和泉式部日記』を読んだことをきっかけに、国文学科に進学することを決めました。
しかし、大学に行ってからシャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』を読んだ時には、「自分は高校生の頃にこの本を読んでいたら、英文学科に進んでいたかもしれない」と思いました。
もしかすると、今後物理学や歴史の勉強をしたら、同じようなことを思うかもしれません。
大学に入り直すことは今のところ予定していませんが、労働に甘んじず、これからも勉強を続けていきたいです。
また、もし私が数学科に進んでいたとしても、結局岡潔の本から松尾芭蕉や夏目漱石に関心を持ち、国文学の勉強もしたことだろうと思います。そう考えると、多少の違いはあれど、自分は色んなことを学んでいたのだろうと思います。
そんな自分をどのようにして社会で役立てるか、或いは自分が本当に心惹かれることは何なのか、今はまだ明確ではありませんが、そういったことも考えながら生きていきたいと思います。
おわりに
この本を読んで、数学の教員免許を取ろうかなと思い始めました。
私は現在国語の免許を持っているので、元々「国語と数学の免許持ってたら面白いな」と思ってはいました。
しかし、なかなかきっかけがありませんでした。
けれども、とりあえず数学の免許を取っておけば、「自分は数学の人間である」という意識づけにも繋がるのではないか、と思いました。
まだ少し迷い中ですが、前向きに検討したいと考えています。
高校までの数学を復習しつつ、大学数学を学び、ゆくゆくは数学書も読んでみたいなと思います。
また、数学系の読みものも、これからたくさん読んでいきたいです。
ということで、長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。