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お呪いと土地勘:短歌でエッセイ~モノカキ、モノカケルVol.1 w/nemurieyeさん~
僕の大好きな「モノカキ」のみなさんと「モノ・コト」を「カケ」合わせて、「楽しい」をお届けする新企画、「モノカキ、モノカケル」。
初回となる今回はnoteにて短歌やエッセイで表現活動をされているnemurieyeさんとともに、「お互いのとっておきの一首」を交換し、それぞれがそれをもとにエッセイを書くという企画をお届け。
短歌、文章それぞれの筆致の違いも見比べながら、是非読んでいただければと思います、それではどうぞ!
短歌:新井 エッセイ:nemurieye
今朝方の夢見がとても悪いので命の香らぬ納豆食べる
納豆へ わたしの一部になることになりましたので、どうぞよろしく。
夢見は悪い訳ではないけれど、不思議な夢を定期的に見る。 中華街の通りをバスで走ったり、段ボールに乗せられてひもで引っ張られたり、先輩に向かって「砂肝に謝れ!」って大声で叫んだり、アイドルとログハウスで会って旅行に出かけたりしていた。
最新の夢ではなぜか自分ではなくアイドル(この間と違う人)としての視点、 自我でロケに行った。先輩アイドルから超絶丁寧な説明メールが来て「さすが、すごいな~ さんは」と思った覚えがある。自分のベッドで目覚めたのに混乱して誰?ってなった。
深層心理があらわれているような気がして、普通の占いよりも夢占いの方が信憑性があると思っているので夢を見た日は朝から「~ 夢占い」で調べる。荒れる Google の検索履歴。
夢の話を聞いていた妹に、真顔で「その話どういう反応すれば良いの?」と困惑されてから あまり他人にするのも良くないと思いながらも、内容がよく分からな面白すぎてしょっちゅう母に聞いてもらっている。「へえ」しか生まない。
ちなみに前に新井くんが夢に出演していたことがある。彼は戦隊ものの青レンジャーとしてイルカにのって悪者と戦っていた。赤レンジャーが鈴木福君、あと弟の部活の先輩と、知らないおじいちゃんもメンバーだった。わたしの深層心理、自分でもよく分からない。
納豆の「命の香らぬ」匂いの一部はアミノ酸が分解してできた化合物によるもので、酸性の醤油を入れると塩基性の化合物を中和して揮発しにくくなり、その結果人間は「円やかになった」と感じるらしい。
こんな考察をすると情緒も何もあったもんじゃないけれど、逆に言うとそういう知覚を「円やか」と形容する日本語は素敵だ。ほかにも「すずやか」「たおやか」「しなやか」などが好きな形容動詞。
生活に関連する部分に重きを置く知識の総合格闘技的な科目があってもいいよね。縮毛矯正をすると何でさらさらストレートが手に入るのかとか、チョコとガム一緒に食べるとなんで溶けちゃうのとか、そういうなぜなに本みたいな話題を取り上げてみたりして。
理科に限らず、授業で先生がしてくれる小話や豆知識が大好きで、そういうのも全部メモってた。テストで分からないところがあっても思い出すのは小話の内容ばっかりで「これじゃない〜」とよく頭を抱えてた。
夢見の悪さと納豆、端から見れば因果関係がなく、「ので」ではつながらない。ただ自分の気をまぎらわせるため。それだけのために、納豆を食べる。そういう「お呪い(おまじない)」として何かを食べることって意外と多い。
一般的に言う「縁起を担ぐ」とかが表現としては近いけど、そんな野球選手とか受験生がやるような大層なものでもない。
「台風コロッケ」とか「金曜日のカレー」とか、ある程度共通認識として存在するものもあれば、悲しいことがあったから朝からカプレーゼを食べる、むしゃくしゃしたから深夜にポトフを大量生産する、好きな球団のCS敗退でありったけの野菜を切り刻んできんぴらにする等、わたしにしか意味をなさないものまで。
わたしは食によっても溜飲を下げられるタイプなので、そういう所はお得な奴だ。
思えば特に昨年は、行動を食に支えられた時期だった。
(別に環境が途轍もなく悪かったというわけではなく、ただわたしと相性が良くなかったがために)心身のバランスが崩れて大学に、どころか一時は家からも出られなくなった。
気づいたら「Oh!バンです」のハイアンドローが始まっていて、野球の試合が終わって、報道ステーションも終わって、無為な今日を思ってまた沈んで、眠れなくて朝になるような毎日だった。
いよいよマジで卒業が危うくなってきたとき、試行錯誤の末たどり着いたのが「駅前を第一目的地として外に出て、気分が乗ってきたら大学に向かってみる」方法。
何も考えず準備してバスに乗って、駅地下のレストラン街をさまよった。アフタヌーンティーで紅茶一杯で数時間ぼーっと過ごし、居酒屋のランチで「究極の親子丼」を食べ、おかゆ屋さんで備え付けの本を読んだ。
元気になってきて教授と小さな戦争をする日の朝は、内側から武装しようと思って改札近くのこじゃれた喫茶店で分厚いたまごサンドとマシュマロの浮かんだココアを食べて、しっかり胃もたれした。
ひとしきりおいしいものを食べ飲みすると段々「大学行ってやってもいいかな」という気持ちになってきて、大学方面行きの空いてる地下鉄に乗りこんだ。 そうこうしていたら卒研発表を乗り切れて、なんとか卒業できた。本当に良かった。
このように、わたしが「自分の状態を整えながら頑張る」ことを覚えはじめたのはかなり最近である。 自分の体力と処理能力を推し量るのがすごく苦手で、「謎に詰め込んで後々バーストして死ぬ」流れを今でもよく起こす。ゲームみたいに自分のスペックと残り時間が常に表示されれば良いのにと何度思ったか知れない。
どういうことがあると処理落ちするのか、どういうものを見たり聞いたりするとテンションが上がるのか、あとは体力の容量とか。自分のこと、未だにわたしはよく分かっていない。あと何年わたしをやらなきゃならんのか知らないけど、ひとりで立って生きていくためにはその知見が必要な気がしている。
自分のご機嫌を自分で取ったり、どういう「急がば回れ」ルートがあるのか、文字通りの「ライフハック」をたくさん見つけておきたい。 言うなれば、自分の説明書を自分で作っていく感覚。人間って難しい。でもそれも考えすぎて自分で勝手に難しくしているだけかもよ?ところで常にある内省的な視点、君は誰?どいつもこいつも話はおしまいにして、大人しくおいしいものでも食べよっか。
短歌:nemurieye エッセイ:新井
目を閉じて思い出せる道 日焼けした網膜に見る原風景(Ⅱ)
僕はまるで土地勘ってものがありません。
故に、「地元の人だしどうやって行けば近いかわかるでしょ」みたいなスタンスで話しかけて来る人が苦手だし、親戚や友達の「〇〇がどこどこに新しくできて~」みたいな話に雰囲気で相槌を打ったりしています。
以前、「なんでこんなに土地勘が培われてないのかな」と、一度自分を冷静に分析してみたことがありまして。
どうやら原因は、同じような生活圏で暮らし続け、行く場所ごとに絶対同じルートをたどっていることにあるのではないか、という結論に行き着きました。
自分の中で「Aという目的地」と「Aまでの道順」は、完全に一対一対応なんですよ。目的地別に、一つ一つ道順が決まってるから、そこから外れたとたんに、どうやって行くか分からなくなるんです。
だから、どことどこが近所で、あの道とこの道がつながってるから、この道でもAに行けるっていう把握が一切できないんですよね。
「土地勘ある」って言葉を言い換えると、「どことどこがつながってるかわかってる」と言えると思っていて。その立体パズル的な把握が僕全然無理なんですよ。
つながってるとかない。そこについたら終わりだもんその道。
だから、僕にとっての「目を閉じて思い出せる道」は、「あそこの道」っていう地図的な把握じゃなくて、「あそこに行くまでの道」って感じで出てくるんです。目的地ありき
で。
やっとテーマとして頂いた短歌のお話をし始めたわけですが、ちゃんと読み解かねばいけないことがもう一つあります。
それは、ただの「原風景」じゃなく、「原風景(Ⅱ)」ってなんぞやってことです。
僕は、1つ目、2つ目みたいなただのナンバリングでは、なんとなくないような気がして。
僕なりに解釈した結果、「置き換え保存しなかったときのナンバリング」かなと思いました。
もっと有り体に言うと、Ver2,0みたいな。
パソコンで作業して保存するとき、同じ名前のファイル名があると
「既に〇〇という名前のファイルは存在します、置き換えますか?」
って聞かれるじゃないですか。あれかなと思ったんです。
書き換えて、中身は少し変わったけど、前のものとは別で進捗を残しておきたいとき、バージョン違いとして保存する。
違うルートも遊べるように、別フォルダにセーブしておくみたいな。
まったく同じ道だけど、僕にとって昔と最近、どちらの思い出もあるような道。そう考えると、僕にとっての原風景(Ⅱ)は「小学校までの通学路」だなぁという結論に至りました。
小学校2年生の終わり頃に今の実家に引っ越して来たんですけど、そこから小学校までが、本当にただまっすぐ進むだけだったんです。どこで曲がることもなく。
何も考えずに、寝ぼけていてもただまっすぐ進めば小学校にたどり着く、障害物といえば、途中に横断歩道がたった一つあるだけの通学路。
1,2年は集団登校だったからお姉さんお兄さんたちについていけばよかったし、3年生からは真っ直ぐな道をひたすら進んで行けばよかった。
家から出るとしばらくは、なんてことのない普通の住宅地。途中にあるお店らしいお店は、小4ぐらいの頃にできた和菓子屋さん一つ。
なんにもない道だけれど、観察すべきところは、ないわけじゃない。
友達と「どちらがデカイつららをゲットするか」で勝負するときには、いつも命運を握っている見知らぬ人の家のカーポート。
よく100玉が拾えるから、毎回お釣り部分を漁っているダイドー自販機と、一回だけ500円玉が下に落ちているのを発見したことのあるコカコーラの自販機。
夏になればよくチューチューとみつを吸っていたツツジの植え込み、冬場よく滑って転んだマンホール。
探そうとおもってそんなスポットを、見つけていたわけではなかったと思うんです。あ、ここもポケスポットなんだ、みたいな感じだったと思うんです。
きっとわざわざ誰かに話すような景色でも モノでもなかったけど、一つ一つが、僕たちにとって毎日見逃してはいけないモノだったように思います。
やがて僕は中学生になって自転車とバスの登校になり、ガラッと通学路も変わって、受験をしての進学だったので、一緒に帰っていた友達とは別の中学生活を送ることになります。
そして高校大学と経て、秋田を離れるわけですが、この通学路は、駅から家に行くまでの通り道だったりするので、帰省したときとか、二十歳になった今でもよく通ります。
月並みな話なんですけど、今通るとやっぱりちょっと見え方違うんですよね、特に視点の上の方に。やっぱりそもそもの身長の変化って大きいみたいです。
この電柱ってこんなこと書いてあったんだっけ、とか、この家の名字って「〇〇」なんだ、珍しいな、とか。
でも、決定的に違うのは、僕はもう自販機のお釣りを漁ったりしないし笑、ツツジのみつを吸って帰らないし、つららを見つけても必死で取ろうとはしないこと。
一つ一つの気づき以上に、今はもう家までまっすぐ続く道それ自体を、なんとなく「懐かしいな」って噛み締めていたりして。
そういうエモい気持ちになるから、やっぱり僕にとって原風景なんでしょうね。
「懐かしいな」って思いながら歩いてることに、初めて自覚的になったときに、「ちょっと大人になったな」って思いましたもん。
そして、直近でいうと成人式で帰ったとき。友達とお酒を飲んだ帰り道、駅で友達と別れて、同じ道を歩いて帰った夜。
まさか自分がこの道をほろ酔いで変える日が来るとはと、なんだか少しうるっと来たりしました。
多分あの帰り道もなんとなく、こうやって文章にしたくなるぐらい自分の中で「エモい」思い出だし、忘れないんだろうなと思います。
だからもろもろ含めて、置き換えられない新しい原風景 is あの日の帰り道、すなわち原風景(Ⅱ)かなと。
酔っ払ってるのを良いことに、「おつり」に手、突っ込んじゃったよ。やっぱりなんにも、入ってなかった。
新井のアフタートーク
と、いうことでそれぞれのエッセイを読んでいただきましたが、いかがだったでしょうか。
nemurieyeさんのエッセイは、カメラワークがほんとに綺麗だなぁと、送られてきてはじめて読んだ時、強く思いました。
夢の突拍子もない話から、すっと日常にカメラが降りてくる気持ちよさ。
エピソードを語るときの場面転換もそう、「視点の移動がわかる」感じが、独特の読みやすさにつながっているのかなぁと思ったりしました。
僕がnemurieyeさんにこの短歌をテーマとしてお送りしたのは、ご自身のnoteなどで書かれている「夢」の話がとても好きだからです。
僕は「夢見が良いか悪いか」は覚えていても内容は頭に残っていなかったりすることが多いので、余計に新鮮に人の夢の話が読めているところも、あるのかもしれません。
そして、僕が頂いた方の短歌。
nemurieyeさんの短歌は、「解釈の余地」の残し方が上品で、すごく好きです。
逆に僕の短歌は、「いかに全部言うか」って感じなんですけど、そんな自分には決してかけない、自分を主人公にして思いを馳せる余地のある短歌だなぁと思います。(Vol,3でお届けする物語短歌たちもお楽しみに)
noteに「人からもらったテーマで文章を書く」ということをするのは初めてだったので、なかなか不思議な感覚でしたが、楽しかったです。
協力頂いたnemurieyeさんに、超絶感謝!!
後日nemurieyeさんのnoteでも後日談が載るかも?とのことでしたので、気になった方は是非フォローをよろしくおねがいしますね!
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【モノカキ、モノカケル初回記事はこちら】
現在、企画記事の総PV4000を目指し奮闘中です。第二弾も読みたいと思って頂けた方は、是非記事の拡散、サポートをよろしくお願いいたします。
※この記事に頂いたサポートは、全額nemurieyeさんにお渡しさせていただきます。
2019年の人気傑作記事はこちら
https://note.com/arawish825/m/m44b0630c2fe3
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