『狂った野獣』(1976)
東映は本作の3ヶ月前にも深作欣二監督のカーアクション映画『暴走パニック 大激突』を公開している。これは前年に『トラック野郎』が大当たりしシリーズ化した影響と、日本でもこの手のアクションものは作れるのか? という実験的試みでもあったようだ。とはいえ本作の予算は安かったそうで、おまけに78分という短尺。その中でどんなカーアクションを描くのか?
結論から書くと、アクションしてたのは車どころか映画全体だった。
まず上記の「あらすじ」を書いてみたはいいが、話の筋からして普通ではない。銀行強盗のバスジャックまではまだ分かるが、そこに別の強盗事件が絡んでいて、その実行犯の過去までもが描かれる。物語は過去と現在を錯綜させながら、とにかくノンストップで突っ走る。
おまけに銀行強盗どころか、たまたまバスに乗っていた乗客たちに至るまで一癖も二癖もある人達ばかり。それが突発的なバスジャックによって極限状態に陥ってしまい、その場に居合わせた全員が恥も外聞も無くなってしまう。女同士で喧嘩が始まったり、生命保険入っとけばよかったと嘆いたり、さらには延々と続くカーチェイスの末に銀行強盗の方が「もう逃走はやめようや」と言い出したり……もはや犯人と客という関係ではなく、一台のバスに居合わせた人間達が運命共同体になってしまうという、至極ハイテンションな群像劇と化しているのだ。この人物描写があったからこそ、結末で
「あいつら、やりやがったな!」
とさせられてしまった。まさに運命共同体だからこそのオチになっており、彼等が何をやった(やらかした)かは、ぜひ作品を観て確認してほしい。
それを80分にも満たない尺で一気に見せてしまう。この上映時間は予算ももちろん関係していようが、中島監督の演出はそんな製作状況を全く感じさせず、ひたすら迫力ある場面や見せ場を作り楽しませてくれる。封切当時の興行はイマイチだったそうだが、現在ではカルト化している一本だ。
主演は渡瀬恒彦、脇をピラニア軍団が固めている。銀行強盗二人の川谷拓三と片桐竜次、犯人を追跡してたらバスにしがみつく羽目になった警官・室田日出男も印象的だが、個人的にはチンドン屋役の志賀潔が良い味を出していると思う。運命共同体となり、もはやどうなるかも分からなくなったバスの中で、おもむろに択ボンが「南国土佐を後にして」を歌い始めると、チンドン屋の志賀潔がクラリネットで伴奏を始めるのだ。
まるでタイタニック号沈没事故の音楽隊ではないか。自分にはそう思えてならなかった。