『新プロジェクトX~挑戦者たち~ ゴジラ アカデミー賞を喰う~』を観た
満足の内容だった。
過去の記事では『新プロジェクトX』に対し「中身はともかく、この時間帯にドラマチックなドキュメンタリーは合わないだろう」と語ってはいたが、やはり番組ならではの見せ方で流石にこみ上げるものがあった。『新・地上の星』をBGMにゴジラが語られるオープニング部分には思わずジワァっと……我ながら現金な男だ。しかしここで天の邪鬼な感情は要らないのである。素直に楽しめばいい。
ただ放送前はというと、この回の告知を聴いて「確かにオスカー獲ったけど、もう紹介されるの?」という疑問は抱いていた。
以前も『ゴジラ誕生 ~特撮に賭けた80人の若者たち~(初代ゴジラ製作に関する物語)』はあったが、それは昭和の物語だからこそ題材になったのであり、今回のゴジラは平成どころか令和、しかも公開からまだ2年も経っていないのだ。仮にやるならもっと後の話で、それまでに番組が続いているかどうか、などと考えていたくらいである。
また告知内容も「ハリウッド大作ではVFXの現場に1000人も投入されるが、山崎貴監督率いる山崎組はたった35人」と、如何にも少数精鋭で立ち向かったかのような書き方であり、そこにスポットを当てるのか? と不安を覚えたのも事実である。
が、それは杞憂だった。先の話題は紹介こそされたが、VFXでゴジラを描くにあたっての「挑戦方法」として触れており、話の軸はまた別にあった。
かつて、山崎貴監督は『未知との遭遇』に魅せられて視覚効果への道を志した。やがて映像制作会社・白組に入社し、いち早くCGを使用した映像技術に取り掛かる。だが規模や表現全てにおいて、日本のそれはハリウッドと比較して「周回遅れ」だと痛感させられてしまう。望んでいるものとは程遠く、それでもなお黙々と社内で研究に勤しみ、作品の企画を練っていた山崎氏の前に「いかにも”社長”という感じの人」が現れる。
映画製作会社・ROBOTの代表:阿部秀司氏だった。
「やってみればいいじゃないか」が口癖だった阿部氏は山崎氏の才能に惚れ込み、彼の企画『ジュブナイル』に4.5億円の予算を投入。結果、興収は11億円に達して商業面でも成功する。また「映画は細部に宿る」と常々語っており、山崎らが手掛けたVFXを必ずチェック。さらに阿部はこうも言っていた。映画が当たれば関わった人の人生が変わる、だから絶対に当てなくてはいけない……
2005年、阿部の肝入り企画だった『ALWAYS 三丁目の夕日』において、山崎は昭和33年の東京をVFXで再現し、興行・批評面で大成功する。自分もその映像に唸ったくちだが、何より劇場での初見時、造りかけの東京タワーをバックにタイトルが出た時、客席のあちこちから「おぉ~」と感心の声が上がっていた様子は忘れられない。物語もベタだが自分は好きだ。
山崎にとって阿部は自分を導く羅針盤でもあり、また壁でもあった。一方で阿部は山崎との関係を「叔父と甥みたいなものだ」と記している。時に背中を押し、ある時はダメ出しをする。プロデューサーと監督という互いのポジションにおいて、自分の務めを果たす。番組ではこの絶妙な関係を軸にして紹介していた。
これまでに『ゴジラ-1.0』を紹介した番組だと、映像技術や山崎監督自身の特撮&VFXに対する想いなどがよく語られてきたが、プロデューサー・阿部秀司氏との関係性について重きを置いたものはこれが初ではなかろうか。この辺は『プロジェクトX』ならではの方向性やアプローチといっていい。
そして番組では『続・三丁目の夕日』の冒頭でゴジラを出した件にも触れた。この2分にも満たない場面だけで同作におけるVFXのリソースを半分近くも使ったうえ、肝心のゴジラも山崎監督自身が「もっとゴツゴツしたものを出したかった」と語るほど理想とはかけ離れたものだった。あのシーン自体は掴みとして最高なのだが、それでもまだまだ、なのである。
ここから今度は、山崎監督自身が若い才能を見つけていく話へと展開する。SNSを活用し、直接オファーをかけていくあたりはいかにも今風だ。そんな若者達にもやはり物語があった。
佐藤昭一郎は幼い頃に3.11で被災し、後に母親も亡くした青年であった。彼の心を埋めたのは趣味のVFX製作。当人はあまり人と話さない内気な性格だったが、監督は「植物を生やすのが上手い」と彼の才能を見抜き、劇中でも冒頭の大戸島を彼に託した。そして本編では何一つ違和感のない光景を作り出していた。
野島達司もまた、監督が「水を描く」才能に惚れ込んだ人材だった。本編でもその大役をこなしてみせたが、彼は監督に「だったらこうした方が良いです」と逆提案出来るようなタイプだった。こうなると上も下もない。見出された、という点では監督と阿部氏との関係にも似ているが、それとはまた違うだろう。しかし彼ら同士には強固な繋がりを感じる。プロデューサーと監督、そして監督とクリエイター。彼らは立場や役職こそ違えど、全員同じフロアににいるような感覚だったのだ。
それらを踏まえたうえで、ようやく最初に挙げた「白組の精鋭35人でゴジラのVFXに挑んだ」ことが語られる。予算や規模はハリウッドより少ないが創意工夫を持って……という技術的な話ではなく、出会いと才能の発掘、羅針盤と壁(ダメ出し)、そして立場を超えた横の繋がりの良さがそのままゴジラ作りにも繋がった。これはずっとやり続けてきたことの延長にある、と同番組は語っているのだ。先に書いたアプローチ方法がここで生きてくるのである。
だが、ある日を境に阿部秀司氏はVFXのチェックに来なくなってしまう。末期がんだと宣告されたのだ。そんな映画みたいな展開があるか、と言いたくなるが『新プロジェクトX』第1回放送の「東京スカイツリー 天空の大工事」でも、やはりそういうエピソードがあったりする。氏が他界されたことは既知の話でも、改めてこう語られると本当に泣けるポイントになってしまう。ちなみに阿部氏は監督が励ましのつもりで送った動画にすら「背びれの水しぶきが足りない」とダメ出ししていたそうだ。どこまでも貫く方だったのだろう。
映画は2023年春に完成、初号試写を観終えた阿部氏は監督に「最高傑作だ」と語った。同年11月3日『ゴジラ-1.0』は国内で封切して大ヒットとなり、続けて米国でも12月1日に公開され、邦画実写作品として異例の大ヒットを飛ばした。
同年12月11日、阿部秀司は他界した。享年74。
アメリカでもヒットしている話は、氏の耳に届いただろうか。届いた、と想いたい。授賞式の時も、実はドルビー・シアターの片隅で一緒に見守ってたのではなかろうか。
そしてVTRの最後にこれを持ってくるあたり、やはり一つのドキュメンタリーとして構成が良すぎるのだ。参りました、である。
過去にアレコレ書いてたけど、これに関しては十分アリですわ。楽しめました。見逃した方は土曜日朝の再放送でどうぞ。