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『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』植木等の回を観た。

 無責任男と称された植木等だが、そこには葛藤があった……てのはコアなクレイジーキャッツファンの間では既知の事実だったりします。
 NHKで植木等といえば、以前に小松政夫の自叙伝を元にしたドラマ『植木等とのぼせもん』が製作されました。植木等(山本耕史)は求められるキャラが余りにも破天荒すぎたため困惑し、無責任男が終わったと思ったら今度はホラ吹きだ、とボヤく姿も描かれてます。

 とりわけ付き人だった小松(志尊淳)は、師である植木が困惑しつつも全てで真剣に、かつ真面目に取り組む姿をずっとそばで見ていたため、ある日フト街で出会ったサラリーマンが「無責任男は楽でいいなぁ」と呟いたことにカチンと来てしまい、思わず
「てめぇ、もう一度言ってみろ!」
とブチ切れてしまう、てな描写も。もっともこれらのシーンに対し
「そういう植木さんの苦悩を、変にドラマにしないで欲しいなぁ……」
てな風に語る、コアなクレイジーファンの方もいたような。
 理由は不明ですが、その方からすれば、例え苦悩があろうともあのキャラを徹底して作り上げた植木等はやはり最高のエンターテイナーであり、まるで「周囲からやらされた」かのように演出し同情を誘うのは不要だ、ということでしょうか。
 ただ、ドラマとして個人の葛藤を描くのはやはり演出として、かつ演者としても一つの見せ場であり、ここは外せなかったと思います。ましてや無責任男という破天荒なキャラであれば、なおさらかと。

 何より最終的に植木等は『スーダラ伝説』で見事にカムバックを果たしました。その頃に出演したトーク番組で植木さん曰く
「あれは僕が望んでいた舞台じゃなかった。
 でもあれは、間違いなく僕のために用意された舞台だったんです」

 苦悩からこの境地に至るまでの心境を考えるのも、ファンの役目でしょう。

 さて今回の『アナザーストーリーズ』も中盤でその点をしっかりと描いてましたが、個人的には無責任男の生みの親である脚本家・田波靖男にスポットを当ててくれたのが嬉しいところ。
 元々は田波が当時の東宝で製作されていた「サラリーマン喜劇」にマンネリを感じていたことから始まります。映画の中だと主人公らは至って会社に忠実だが、現実にはいくら会社に忠誠を誓っても全く報われないじゃないか! と。だったらアンチテーゼ的な映画を作ってやろう、と田波は一本のシナリオを書き上げました
 しかし当時の上司だった敏腕プロデューサー・藤本真澄は、作品に対してトコトン真面目さを要求するタイプだったため、あえなくボツ。そこへ藤本の部下だったプロデューサー・安達英三朗から「『スーダラ節』を元にして一本映画を作りたいんだけど、何かいい案はあるかい?」と話を持ちかけられ、先のシナリオを出したところ大受け。これがきっかけで『ニッポン無責任時代』が産まれたのです。

 それでも藤本はこの企画がトコトン気に入らなかったのか「こんな無責任なヤツが出世して社長になるだなんて言語道断、最後はクビにして守衛にでもなる結末にしろ」とまで迫ってきます。しかし田波と安達はここで折れることなく、逆に藤本を出し抜くという映画のキャラ顔負けの行動を見せます。
 脚本は一切変えずにこっそりと撮影を終わらせ、試写会も藤本が長期出張の間にやってしまったのです。
 藤本が全てを知ったのは『ニッポン無責任時代』が初日から大ヒットの報を受け、その反応を見届けようと劇場まで足を運んでからでした。当然彼は大激怒し「俺は認めんぞ!」と怒鳴ったそうですが、映画に真面目さを求めると同時に、世間の流行にも敏感だった藤本としてはこのヒットを逃すわけにも行かず、続編の製作を決定。見事翌年の正月映画ラインナップに加わるという大出世を遂げたのでした。

 で、映画がシリーズ化されると「無責任男」は藤本の意向によってキャラ変されて……と話は続きますが、やっぱり無責任男誕生の裏にあった「会社への忠誠度」てのは現代でも全く一緒だと思います。あれやってくれ、これもやってくれと仕事を任せてくれるのは有難いけど、それに似合う見返りをよこす気はあるのかい? と。その保障が無いのなら会社こそ無責任だ、と思えてなりません。なので、何かあるたびに会社を出し抜いてやりたい、という衝動が頭をもたげるんですよね。

 これからも無責任男の精神を心のなかに常駐させておきたいです。


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