私たちは他者とよい関係をつくれるのか──「関係性のデザインを考える──グループ・ビルディングの心理学」事前レポート
私たちは他者とどのようによい関係をつくれるのでしょうか。
多くの人が気になる、重要な問いの一つです。社会心理学はこのような問い(人間の社会性とは何か)に応えようとしてきました(亀田達也『大学4年間の社会心理学が10時間でざっと学べる』KADOKAWA、2023年)。
社会心理学の起点は1908年と言われることもあります(サトウタツヤ「起源神話?1908年は社会心理学が始まった年?!」心理学ワールド、2008年)。そうであれば、社会心理学は100年以上にわたり「人間の社会性」の解明に取り組んできたと言えます。では、「私たちは他者とどのようによい関係をつくれるのか」という問いに対して、社会心理学はどのような応答ができるのでしょうか。
社会心理学は研究対象者を無視してきた?
これまでの社会心理学の考え方のままでは、この問いに応えるのは簡単ではないでしょう。というのも、私たちの考えでは社会心理学は研究対象者の歴史を無視してきたからです。
今から約1年前2023年3月29日(水)、秋保亮太さん、宮前良平さん、そして仲嶺で、『社会心理学者は歴史といかに向き合ってきたか?』と題するトークイベントを行いました(イベント事後レポートはこちら)。
その中で秋保さんは、①研究そのものの歴史(先行研究をいかに発展させるか)、②社会の歴史(どのような時代の変化があったか)、③研究者の歴史(生育歴に基づく研究関心)の3つについては社会心理学はそれなりに踏まえているものの、研究対象者の歴史については関心・優先度が低かったことを指摘しています。
普遍性を求めすぎて、文脈(とくに、研究対象者の歴史)を削ぎ落とし、その結果、現実社会から乖離した研究をしていないか?
秋保さんは、1年前のトークイベントでそう問いかけました(現在、アーカイブ配信をご覧になれます。詳細はこちら)。
実は、似たような問題意識は、1970年代からありました。当時の社会心理学は、些細な実験手続きに拘ったり、細かい理論的な誤りを修正したりする重箱の隅をつつくような研究ばかりが行われ、現実社会における「人間の社会性とは何か」という問いに応えるような研究があまりなされていませんでした。いわば「研究のための研究」が実験室にて行われていました(cf. 吉森護『アナトミア社会心理学──社会心理学のこれまでとこれから』北大路書房、2002年)。
「これではいけない」と多くの批判が出ました(社会心理学の危機とも言われた時代)。その急先鋒の一人がケネス・J・ガーゲン(Kenneth J. Gergen)でした。ガーゲンはいまでこそ、社会構成主義の第一人者として有名ですが、1970年代頃は社会構成主義者への過渡期で、社会心理学はいかにあるべきかをずっと考えていた人でした(というのが仲嶺の見立て)。
ガーゲンはその後、基礎と応用、あるいは、理論と実践は、別々には存在し得ないとして、「社会のための社会心理学」こそが社会心理学の基礎であり応用なのだと考えるようになりました。そして、社会構成主義を理論としても実践としても推進していきます。
関係性から考えるものの見方
社会構成主義とは、別名、関係性から考えるものの見方とも呼ばれ、存在(それが何であるか)に着目するのではなく、関係のプロセス(それが何であるかはどのような文脈のもとで生まれているか)に着目する考え方です。
その考え方のエッセンスは、『関係の世界へ』で紹介されています。(なお、荒川出版会では同書の読書会を実施しました。)
同書の中でガーゲンは、社会構成主義がいろいろな場面(ビジネス、カウンセリングや医療、人間関係、教育)でいかに活かせるのかを解説しています。ガーゲンは「私たちは他者とどのようによい関係をつくれるのか」という問いに対して、「変幻自在」というキーワードをもとに社会心理学(者)としての一つの応答を示してくれました。
関係性のデザインを考える
「私たちは他者とどのようによい関係をつくれるのか」という問いは、言い換えると、「関係性のデザインを考える」ということです。
社会心理学においてその点を突き詰めて考えた一つの具体例は社会構成主義でしょう。社会構成主義をバックボーンに研究・教育をする宮前さんは、研究者としても一人の人としても「災害」に関わり、「災害地域」について考えています。たとえば、被災者とボランティア(あるいは、被災者の周りにいる我々)はいかに関われるのかという「関係性のデザイン」を考えています。
他方、社会構成主義だけが関係性のデザインを考えているわけでは当然ありません。1970年代以降の反省を踏まえて、社会心理学の中でも、現実に根ざした研究がなされてきています。秋保さんは、産業・組織心理学の立場から、仕事や生活に役立つ研究を試みています(たとえば、その成果の一つとして『役立つ!産業・組織心理学──仕事と生活につかえるエッセンス』)。職場内での関係はいかによくしていけるのか、葛藤が生じた際にいかなる対処がありうるのかなどの「関係性のデザイン」を考えています。
それぞれの立場の違いはあれど、ともに「社会におけるより良い関係の在り方」を目指して研究をしてきた点には変わりがありません。両者の立場を踏まえたうえで、「私たちは他者とどのようによい関係をつくれるのか」に対して、いまならどのように社会心理学は応えられるのでしょうか。本イベントではその点に迫ることを試みたいと思っています。
「正解」ではなく「正解(仮)」をつくる。荒川出版会の合言葉です。行き詰まった状況を良くするために「こうしたらうまくいく(=正解)」ではなく、「こうしたらもっとおもしろくなるのではないか(=正解(仮))」を提案してみる。そんな視点から「関係性のデザイン」について自由に話していきたいと思います。
会場でもオンラインでも、皆さんのご参加をお待ちしています! 当日、皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。
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