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カリン・アイヌーズ『スエリーの青空』―― 帰る場所を失った女性の彷徨
夜行バスの車窓から北東ブラジルの荒涼とした風景が流れていく。都会から故郷へ戻る女性。彼女は旅の終着点を探していたのではなく、むしろどこへも帰れない現実に気づくために戻ってきたのかもしれない。カリン・アイヌーズの『スエリーの青空』は、逃避と帰郷、そして新たな自由を求める女性の姿を描いたロードムービーだ。
主人公のエルミラは、幼い息子を連れてサンパウロから故郷の田舎町に戻ってくる。しかしかつて自分が出て行った場所は何も変わっていない。彼女を待っているのは希望ではなく閉塞感に満ちた現実だ。再びここで生きることを考えていた彼女だが、この町では未来を見出せないことを悟る。彼女は「新しい人生のための資金」を得るために、一度だけ自分の身体をオークションにかける計画を立てる。
カリン・アイヌーズの作品には「故郷との葛藤」がある。『フトゥーロ・ビーチ』では故郷を捨てた男が再び帰るべき場所を見つけられずに彷徨うことになる。本作もまた帰郷と逃避の間で揺れ動く物語だ。エルミラにとって故郷は安息の地ではない。それは彼女を押し戻し、再び閉じ込めようとする場所だ。彼女は新たな人生を求めながらも、何をすれば本当に自由になれるのか分からない。
映像はブラジル北東部の乾いた空気を淡々と映し出す。広大な土地にぽつんと存在する小さな町。夜の暗闇にぼんやりと光るネオン。暑さと埃に包まれた日常の中で、エルミラは自分の人生の選択肢を模索する。
エルミラの選択は過酷であり、彼女が望む未来が実現するかどうかはわからない。彼女は少なくとも自分の意志で次の一歩を選び取ろうとする。どこかへ向かうのではなく、ただ前へ進むことだけが彼女の持つ唯一の自由なのかもしれない。
2006年ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で上映。2008年2月9日日本公開。