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ローレル・パーメット『The Starling Girl』―― 信仰と個人の間にある見えない境界

 少女が大人になるとき、何を信じ、何を捨てるのか。ローレル・パーメットの長編デビュー作『The Starling Girl』は、信仰の枠に閉じ込められた少女が自分を見つけようともがく物語だ。アメリカ南部の厳格なキリスト教コミュニティという舞台を背景に、彼女の心の揺れが静かに膨らんでいく。

 主人公は17歳のジェム・スターリング(エリザ・スカンレン)。キリスト教保守派のコミュニティで育ち、家族と教会に従うことを当然のものとして受け入れている。彼女は父の指導のもと、教会のダンスグループで神への奉仕を続けている。だが、28歳の指導者オーウェン(ルイス・プルマン)との出会いが彼女の世界を揺るがせる。彼の優しさとカリスマ性に惹かれるジェムだが、彼は既婚者であり、ジェムが属するコミュニティにおいて惹かれるべき相手ではない。

 この映画はジェムの視点を一貫して保ちながら彼女の選択の意味を問いかける。ジェムは自ら惹かれ、自ら行動しているように見える。しかしそれは本当に彼女の自由意志なのか、それとも環境によって形作られたものなのか。オーウェンはジェムに新たな世界を見せる存在であると同時に、彼女の純粋さを支配する大人でもある。

 ジェムを演じるのはオーストラリア出身のエリザ・スカンレン。『ベイビートゥース』(2019年)で注目を集め、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(2019年)で三女ベス役に抜擢された。

 パーメットは脚本を執筆するにあたり、教会に足を運び、礼拝に参加し、厳格な宗教コミュニティの中で育った女性たちの証言を直接集めた。取材の中で語られたのは、自由意志と信仰の狭間で揺れる彼女たちの葛藤だった。生まれた瞬間から神に仕えることを運命づけられた生活。恋愛や自己表現の自由が制限される一方で、信仰によってアイデンティティが形成される。その二重性に興味を持ったパーメットは、この題材を映画として描くことを決めた。

 『The Starling Girl』は、少女が信仰と欲望の間で揺れ動く物語であると同時に、信じることそのものを問い直す。パーメットは抑制的な演出でこの世界の複雑さを描き出す。

 2023年サンダンス映画祭でワールドプレミア。日本公開未定。

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