見出し画像

餃子今昔物語

今は昔。
私がまだぴちぴちの新入社員だった頃のこと。

配属先が決まるまでの間、私達は毎日新人研修なるものにいそしんでいました。とはいえ、学生気分が全く抜けていない人間に学生時代と同じような講義。そして定時退社をさせると何が起こるかご存じでしょうか。

そう。連日、定時退社後に飲み会が行われるのです。

そして私は実家から遠い関東の地にある会社に就職したため、社員寮に入っていました。

当時、私が入社した会社では、寮生活を希望する新入社員は住み込みの寮監さんがいる、のどか・・・な場所にある伝統的に○○寮に入ることが決まっていました。

なので、残業や休日出勤が無い新入社員にとって、寮生活とは同期と連絡は取り放題。翌日に響かない時間帯なら夜も部屋に遊びに行き放題。休みの日も同期を捕まえたい放題な環境なわけです。すると何が起こるかご存じでしょうか。

そう。全ての休みの日には誰かの部屋で部屋飲みが開催され、そして召集されるのです。


そんな中、栃木出身の一人が大量の冷凍餃子を実家に頼んで送ってもらったことからこの話は始まります。

「今日は餃子あるよ!」

その一声で集まったメンバーは何人いたのかはもう覚えていないけれど、彼の部屋で見せられたのはデカい冷凍餃子の箱が5つほど。
みっちりむっちりと箱ぎゅうぎゅうに詰められたそれは『まさし』という店の餃子らしい。彼の地元ではかなり有名なお店らしく、彼の実家でもかなり食べられているとかなんとか。

それはさておき、多すぎん?

という心の声は飲み込んだか飲み込んでいないかは定かではないけれど、そこから始まった餃子パーティー。

焼いてヨシ。
鍋にしてヨシ。

米なんか必要無し。
餃子餃子酒餃子酒餃子……

うまい。
とにかくうまい。

皆でワイワイと話をしながらはふはふと餃子を口に放り込む。
付属のタレは結構辛めだけど、それがまたお酒とあうあう。

暑いからなのか酔ったからなのか笑い過ぎたからなのかわからない感じで赤い顔をして、熱いからなのか酔ったからなのか笑い過ぎたからなのかわからない感じでちょっと涙目っぽくなりながら、皆で楽しい時間を過ごしたあの日。

本当にめちゃくちゃ楽しかった。

あの寮にいる間に彼は何回か餃子を取り寄せ(?)て餃子パーティーが開催された。その全部が凄く楽しかった思い出。初めて実家を出ての一人暮らし(?)だったけど、全然寂しくなんかなく、楽しかったという記憶しかないのはとても幸せなことだったのだと思う。


~時は流れ~

私はまさしの餃子をごちそうになっていた。

あの彼の実家で。

「昔、いっぱい餃子送ったけど、あれ、大丈夫だった?」

そう言った彼のお母さんは、彼に餃子を送る度に「毎回毎回こんなに大量に送って大丈夫なのかしら」と思っていたらしい。いくら息子が餃子が好きだとはいえ、食べ盛りの若者だとはいえ、普通に食べるには量が多すぎるだろうと。

確かに。私もそう思っていた。

「みんなで集まってワイワイやってたんで、すぐに無くなっちゃってましたよー。この餃子、本当に美味しいですよね」

当時のことを思い出しながら、私は餃子をひとくちパクリ。
うん。美味しい。かなり久しぶりに食べる餃子の味は、物忘れが激しい私には昔と同じ味なのかどうかまったくもってわからないけど。
大勢でワイワイガヤガヤと他愛もない話をしながらお酒を片手に食べた思い出がふっと蘇る。ああ。楽しかったな。そして若かったなと。

そんなことを思いながら、私は醤油をつけた餃子をちょっと茶色くなった白いご飯が入った我が子の茶碗にちょこんと乗せた。

「餃子好きやろ?おいしいで。もっと食べ」

餃子好きな我が子が一生懸命大きな餃子を頬張り始めたのを見て「喉詰まるで。いっぱい噛みや」なんて声をかけながら、新しい餃子をひとつつまんでタレに絡める。

「やっぱりこの餃子が1番美味しいな」

子を挟んだ向こう側で口をもぐもぐさせながら彼が話しかけてくる。

同期の仲間とワイワイ食べた餃子を子供と夫、そして夫の家族と食べる。同じお店の同じ餃子。なのに全然違うこの感じ。でもどっちもとても幸せな時間。

それは今でも大切な思い出だ。

いいなと思ったら応援しよう!

ふくりと
良かったらスキ・コメント・フォロー・サポートいただけると嬉しいです。創作の励みになります。

この記事が参加している募集