極貧詩 331 旅立ち⑯
3年間お世話になった、川に架かっている木造橋
坂道を下る途中で見えてくる
いつもヤッちゃんとそこで待ち合わせて3人で渡った
今日は心を騒がす、わずか10メートルにも満たない橋
中学3年間の往復歩数は合計何歩になるのだろうか
下を流れる川は四季折々いろいろな姿を見せてくれた
坂道の角を曲がって木造橋の端が見えてくる
3人で静かなエール交換を始める
最初に俺とヤッちゃん
「ヤッちゃん色々とありがとうな、本当に楽しかったよ」
「俺だってそうだよイッちゃん、俺こそありがとうだよ」
「親孝行で働き者のヤッちゃんが家に残って家族の人は嬉しいだんべ」
「そうかもな、特におばあちゃんが嬉しそうだよ」
「最近ずいぶん大人っぽくなって成長したよな」
「そうかなあ、おめえたち2人の影響だよ、感謝してるよ」
「百姓は勉強しなくていいなんつうことはねえもんな」
「新聞とか本とかには為になることがいっぺえ書いてあるよな、俺今まで字を読むなんざ大きれえだったけど、今は面白くてな、ところでイッちゃんは高校一番で入ったつうからえれえプレッシャーだんべなあ」
「うん、奇跡が起きたよな、まさかと思ったよ」
「奇跡かあ、それじゃあこれからもしっかり勉強しねえとすぐに誰かに追い越されるで」
「そうだよな、奇跡やまぐれは何回も続かねえよな」
「でもよく頑張ったよな、すごいと思うよ」
「ありがとうな、貧乏人はダメだって言われたくねえ一心でやってきたんだけどな」
「町にはできるヤツがいっぺえいるだんべなあ」
「多分な、でも一生懸命頑張るよ」
「俺たち貧乏三羽烏の中からおめえみてえなヤツがでてくるたあなあ、俺の自慢だよ、貧乏人は勉強ができねえってずっと言われてたもんな」
「貧乏とか金持ちとか全然関係ねえよ、でも金持ちに対する反抗心があったなあ確かだよ」
「そうか、あいつらいい服着て、いいモノ持って、うんめえモノ食ってるんだから貧乏人に負けて恥ずかしいだんべなあ」
「確かに、ずっと俺たちのこと馬鹿にしてたもんな」
「イッちゃん、まぐれだなんて言われねえようにこれからも頑張ってくれよ、いつも応援してるからな」
「ありがとうなヤッちゃん、ヤッちゃんも村で一番の農家になれるように頑張ってくれよな、期待してるで」
「おう、任せとけよ、まずは家族のために、そして村のために精いっぱい頑張るよ、最後は日本の農業のために頑張るよ」
「おう、ずいぶん大きく出たなあ、その意気だよ、頑張ってくれよ」
「イッちゃんに今度会う時が楽しみだよ、どんな風になってるかな」
「俺もおんなじだよ、やる気にあふれたヤッちゃんの成功を心から祈ってるよ、本当に楽しみだよ」
「俺小1の時、俺と似たような格好してるイッちゃんとシゲちゃんが気になってな、恥ずかしかったけど声をかけたんだよな」
「俺も覚えてるよ、あんときゃ俺はすげえうれしかったよ、声かけてくれてありがとうな」
「こっちの方こそ、気さくに話をしてくれて本当にうれしかったよ」
「いつまでも友達でいてくれよな」
「あたりめえだろ、ヤッちゃん、シゲちゃんみてえないい友達がそうめったにいるわけねえだろう」
「うん、絶対これからもな」
「うん、絶対これからもだよ」
さっきまで大粒の涙を流していたヤッちゃんがにっこり微笑んでいる
俺もつられて微笑み返す
ヤッちゃんと俺の間に「別れの前の」熱い心のやり取りができた
本当にうれしかった、そして寂しかった