医療美容にアスペが半泣き敗北宣言 後編
レポート後編
看護師さんがやってきて次の部屋に案内される。
こちらのお部屋にどーぞー
お顔のお写真を撮らせていただきますねー
・・・あのすみません、メイクルームでイヤリングを落としました。
お掃除のときにイヤリングがあっても捨てちゃってください。
安物ですしお手数をおかけすると申し訳ないので。
え！イヤリングを落としちゃったんですか！
ちょっと待ってくださいね、全職員で探してみます！
あ、いえ、そんな、探さなくても大丈夫です。
見つけても捨ててください。
もしかしたら落ちたはずみに私のバッグの中にポンッと入ったかもしれないし。
また家でバッグのなかとか確認してみますね。
え、バッグのなかに！？
今、バッグのなかを調べてもらってもいいですか？
え、いや、本当に、もういいです。
いえ、イヤリングを探してきます。
バッグの中を確認してください。
うそでしょ。この日にかぎってバッグの中は恐ろしいほどの荷物が入ってて。
しかもひとつひとつが小物ばかりで、バッグの中はカオスになっている。
えこれをひっくりかえして探すの情けないしいやもうなんかつらい。
看護師さん、ほんとうにもういいです。ありがとうございますありがとうございます。
安物なのでなくなっても大丈夫です。
お時間もあると思うので施術をはじめてくださって大丈夫です。
（フロアの遠くの方から職員さんの「どうでしたー？」「あれー？」みたいな声がきこえる）
ああもうほんとなんか地獄。ごめんなさいごめんなさい。
すみません、全職員で探したのですが見つかりませんでした。
本当に申し訳ありません。
もうしばらく職員で探しますので、お帰りまでお時間くださいね。
ああもうほんとにいいんですもうほんとにありがとうございますありがとうございます
職員さんの親切が心に染みすぎて痛い
想定外のことばかりおきて混乱しつつ、初施術にドキドキしながら施術台に横たわる。
それでは施術に入りますねー。
痛かったらお声をかけてくださいねー。
とにかく落ち着け自分。ここまでくればあとは施術だけ。
痛かったらっていうてもパチンみたいなもんでしょきれいのためならガマンできるわおんなだもの
いたい！いたい！
なにこれ想像の50倍いたい！
たしかにパチンではない、これは、なんつーか、あれだね、あれ。
火の玉が顔に飛んでくる。
アチ！イタ！ってやつだ。
やけどだ、やけどするときのアツイタッ！だ
とくに顔のやわらかいところがやばい。
目の下とか一瞬お迎えがきた。
クリニック初の途中離脱者は私かもしれない。
顔の右、左、おでこ、眼のまわり、鼻周辺、あご。
あちっ！いたっ！あちっ！いたっ！あちっ！いたっ！
はーい、一周おわりましたー。
がんばりましたねっ。
灰になった。
動揺も混乱もパニックも超えたその向こう側をはじめてみた。
はーい、それでは二周目に入りますねっ。
あと少しがんばりましょう！
まてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまて
にしゅうめってなんですかっ？
あ、フェイスライトダブルなので、ダブルですー。
ダブルって二周することなんですよね。
お得ですよねっ。
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
ダブルってそゆこと!？
いらんてにしゅうめ
あちっ！いたっ！あちっ！いたっ！あちっ！いたっ！
眼の下でまたお迎えがくる。
はーいおつかれさまでしたー
あーお顔の赤みは少なくてよかったですね
次は一か月後でおねがいしまーす
おわったかえろうはやくかえろうはやくかえってゴジラをみよう
メイクルームでメイク直しをする気力もない。
ガッタガタに眉毛だけかいて転がるように受付をすませる。
動揺で手先がぶれていた。
受付で渡された施術後ケアのパンフレットで指を切った。痛かった。
にじんだ血をみてなぜか泣きたくなる。
患者さま、イヤリングを探しておきますね。
みつかったらご連絡いたします。
ほんとにほんとにほんとにありがとうでももうほんとにいいんですもう
駅でスイカのチャージをする用事も忘れ
娘の好きなパン屋さんでスコーンを買う気力もなく
冷たい北風が吹く夕方にコートもはおらず
片耳だけイヤリングをして
ガッタガタの眉毛ですっぴんの女52歳。
自分の顔から皮膚の焦げた匂いがする。
私は負けました。
痛みに耐えてまでキレイを追うことは私にはできない。
ものすごい敗北感。試合にも負けて勝負にも負けた。
痛みと戦えない自分はダメ人間だと自分を責めたてたが、駅であったかいタイ焼きをほおばったら、それはないなダメ人間ってことはないなと自分を少し取り戻した。
キレイってなんでしょうね。
人の美しさってなんだろう。
繰り返し言うが、Aクリニックは親切で誠実な美容クリニックだ。
私は弱虫で施術は断念したが、穏やかな施術であれば迷わず通院させてもらった。
あ、あと、痛みの感じ方は人それぞれです。
多くの患者さんはごきげんに施術を受けておられるとのことです。
ちなみに医師が診断してくれた黄疸は、その後、みかんの食べ過ぎと判明。これはこれでせつない。