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まさか、鍋を美味しくする灰汁とりの仕組みが濾過装置からわかるとは:泡沫分離
陸上養殖の施設では、こんな装置を見かけることがあります。
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下の方から大量の泡が出てきており、上の方には汚れがたまっているように見えます。果たしてどのような役割をもつ装置なのか。
仕組みを調べていくと、意外にも"鍋料理の灰汁とり"についても理解が深まっていくのです…!
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なぞの装置と、灰汁とりの共通点。
そこには「泡」が関わってくるようです。
何の装置?=泡沫分離装置
この装置は、泡沫分離装置(ほうまつ ぶんり そうち)と呼ばれます。
魚が飼育されている水槽の水が、ポンプによってこの装置の中を通りぬけるようになっており、水質を維持するために重要な働きをしています。具体的には大きく2つ。水中に溶け込んだ汚れの除去、そして、水中への酸素供給を担います。
水質維持を叶えるのはキメ細やかな泡。どうして、泡が汚れを除去する力を持つのでしょうか?
泡のちから
泡が除去できる汚れは「疎水性=水から離れたがる性質」をもつ物質です。
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泡の内部には空気があり、周りは液体で覆われています。境い目は「空気と水が触れる場所」なので疎水性の物質は「水」より「空気」に近づいていきます。
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*なぜそうなるのか?を少しだけ具体的に説明すると、水は「電気に偏りのある物質」で、同じく「電気に偏りのある物質」をよく溶かします。一方で「電気に偏りのない物質」は溶かしにくいのです。その方が、状態として安定するんですね。
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魚を飼育する中で除去したい主な疎水性の物質は、エサの食べ残しや排泄物由来のタンパク質、脂質。またそれらが微生物に分解されてできる有機物です。いずれも水槽内にたまることによって魚にとっての毒へと変化していく汚れです。(詳しくはこちらの記事をご参照ください。)
灰汁が湧くのも泡により。
疎水性の物質、電気の偏りなど、イメージがしにくい理屈が展開されましたが、もっと身近に同じ仕組みの例がありました。
鍋の灰汁を思い浮かべてください。
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実はこれも同じことが起きています。灰汁は食材に含まれていた成分が過熱されて変化することで出てきます。疎水性の細かな不純物が、煮立った鍋の底から生じた気泡にくっつき持ち上げられて、水面に溜まっていくのです。
*厳密には、溶けでた成分同士が泡に寄らず勝手に凝集して浮かんでくる場合もあります。
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灰汁に含まれる成分のなかには、臭み・苦味・えぐみの元になるものが入っている場合があるため、水面に浮かんできた灰汁をとることが美味しさを向上することに繋がります。
この仕組みからイメージを繋げていくことで、泡沫分離装置がどうやって水質を維持しているかが見えてきます。
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大量の泡が疎水性の汚れを水から分離。水位が上がると泡が水面に集まるので汚れと一緒に排出され、一方で汚れが除かれた水は配管を通じて飼育水槽に戻る道を進んでいく。という仕組みだったのですね。
他のろ過システムとの合わせ技
泡沫分離装置は、物理ろ過や生物ろ過だけでは除去しきれない、疎水性の有機物や非常に小さい粒子状の物質を取り除く能力に優れています。
一方で、泡沫分離では空気が浮上する力を越える重たい物質は取り除けません。→物理ろ過が力を発揮します。それに、親水性のある有害物質を取り除くことも苦手です。→生物ろ過が力を発揮します。それぞれのろ過方法に長所・短所があることを踏まえて、複数のろ過方法を組み合わせて水質を保つことが効果的ということになります。
まとめ
泡は疎水性の汚れをキャッチする
その様子は灰汁からも観察できる
泡沫分離の短所は他のろ過方法で補完される
捉え方によっては、
陸上養殖で育てられている魚たちは私たちの食卓に届く前にすでに「灰汁抜き」されていた。と言えるかもしれませんね。そんな魚を鍋でいただく際には、湧き上がってくる灰汁から泡の力を感じてみてはいかがでしょうか。
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