田中泰延さんの『読みたいことを書けばいい』を読んだので、俺はプノンペンのジョーの話をする。
2月、プノンペンはカラッと晴れて暑い。肌を焼くような日光に閉口し、さっさと道沿いにあるレストランへ逃げ込むことにした。
20代ぐらいの若い女性にビールとミーチャを頼み、空いている席に座る。フライドライスをかきこむように食べる労働者や、春巻きをつまみにビールを楽しんでいるオヤジ、かき氷をぼろぼろとこぼしながら頬張る子供がいて、店の中は賑やかであった。
ふと、自分の腕をみて「えらく焼けたな」と思った。お祈り程度に日焼け止めは塗っていたが、カンボジアの強烈な太陽には効かないらしく、肌はすっかり小麦色になっていた。1か月後、カンボジア製松崎しげると化した俺を見て、恋人はゲラゲラと笑い、やめろと言っても「しげる」と呼び続けるだろう。そんな姿を想像し、少し寂しくなった。
ビールとミーチャが目の前に出される。アンコールワットのロゴが描かれた缶ビールには、プノンペンに来てから毎日のようにお世話になっている。何処の店に行っても見かけるので、ここでは有名なビールなのかもしれない。アンコールと呼ばれるビールはすっきりとした飲み心地に、しっかりとした苦みがある。カンボジアの熱い気候に合って、気持ち良く喉の渇きを潤してくれた。
ミーチャを大口で食べた瞬間、猛烈な辛さが口を焼く。
え!?なにこれ辛い!辛いというか痛い!
あまりの衝撃に言葉も出ず咽ていると、横からかき氷が出された。男は「食べろ」と言っているらしい。つたないクメール語で「オークン」と言い、溶けかけているかき氷を口へ流し込んだ。
「ここのオヤジはチリをたっぷり入れるから、チリなしで頼まないとえらい目にあうよ」
奢ったビールを美味しそうに飲みながらジョーは言った。
「ここのミーチャを食べて咽た日本人を見たの、君で2人目かもしれない」
数年前の雨季に起きた事をジョーはゆっくりと語り始めた。
東洋人の若者が数人、滝のようなスコールから逃れるためにジョーの勤めるレストランに入ってきた。子供のような幼い顔をした彼らは、ビールとミーチャを頼んだ。飲みながら雨が止むのを待つようである。楽しそうにビールを飲む集団の中で突然大声が上った。チリの有無を確認せずにミーチャを頼んだ者が、あまりの辛さに驚いているらしい。他の者たちは笑いながら、苦しそうにする男にビールを飲ませていった。
周りがカッと明るくなり、鋭い雷鳴がした。
ジョーが「あっ」と思った途端、店の中が真っ暗になる。停電だ。
現地の客はいつものことと落ち着いているが、東洋人たちは驚いているようだった。停電が起きると数時間、下手すると何日も復旧しないのが普通で、彼らの動揺は大げさに感じられた。
雷が落ちた晩に電気は復旧せず、客は店内で一晩を過ごす事になりそうであった。ジョーは東洋人の若者たちに近づき、停電の謝罪をした。
「この国にはまだまだ支援が必要なんです」
と呟いた言葉が聞こえたらしく、男ははっとしたような顔をして何かを悟ったようであった。
「僕たち、それをどうにかする為に日本から来たんです」
ジョーは話し終えると1冊の本を取り出して、俺に差し出した。
『読みたいことを、書けばいい。』と書かれている。
「自分の事が書かれてるからって、あの時の日本人の子が送ってきてね。でも、日本語がさっぱり分からないんだ。よければ翻訳してくれないかな」
ジョーから本を受け取り、翌日この店で会う約束をしてホテルに戻った。
◆『読みたいことを、書けばいい。』ってこんな本
自分の書く文章、対象を愛せ!!!!!!!!!!!
あと
プノンペンのジョーの話は作り話だ!!!!!!!!
以上!
ジョーと会い、本の内容を伝えると「そうか、俺は作り話か」と笑った。
「ありがとう。その本貰っておいてよ。持ってても分からないし」
俺の手から本を受け取らずにジョーは去った。
俺は「この部分は切り取っておけ」と本に書いてあった部分だけは切り取り、後の部分は揚げ物屋の子供にやってしまった。
揚げバナナの包装に使うそうだ。
プノンペンは今日も暑い。
これで終ってしまうのもアレなので、『読みたいことを、書けばいい。』はいい本だって話をします。
noteやブログを読んでいても「読んでもらいたい!」という圧が強くて読む気が失せる様な文章が多いです。
「役に立ちたい」「有名になりたい」という圧の強い文章は読んでいても気が滅入ってしまうし、気楽に読みたい身としては気張りすぎた文章はちょっと疲れてしまいます。
人間関係でもリラックスしている人と気張っている人とでは、リラックスしている人間と一緒にいた方が心地がよいし、長い時間付き合えますよね。
文章もそういうもんだと思うんです。
それに、好きな人と好きじゃない人とどっちと居たいかって言われたら、好きな人の方が良い。誰かから話をされるなら、好きな事の話をしてもらった方がずっと楽しい。
「この人のここが好き」「この人のあそこが好き」と好きな所を見つけるのは楽しいですし、人に話すのも気持ちが良いものですよね。
そういう人間関係によく似たものを文章との間にも持ちましょうって感じの本です。
具体的な文章術ではありませんが、楽しく文章を書くいい話が載っています。
是非ともこの本は
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に4冊買いましょう。
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