あさなあさなに金槐和歌集
ほんの少しだけ、金槐和歌集にふれてみました。
金は鎌の偏。鎌倉のこと。
槐は槐で、ここでは大臣を意味する。
金槐和歌集とは、
鎌倉右大臣家集。
鎌倉右大臣は鎌倉幕府三代将軍源実朝。
最近まで何一つ知りませんでした。
今年になって短歌に興味を抱き、大河ドラマで源実朝を知りました。
実朝の短歌がドラマで放送されました。
われてくだけてさけて散るかも
私は、これを聞いて、直ちに図書館に駆け込んで金槐和歌集を手にしたのでした。
その本で、実朝の歌の解説には、関連しているほかの短歌が必ず紹介されていました。
『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』『拾遺集』『壬二集』などに収録されている作品です。
それらは当時の歌を詠む人々共通の知識だったのですね。わたしたちが、『よもや、よもやだ』『うっせぇわ』などを取り入れて、会話したり、投稿したり、川柳にしたりするように。
実朝は先の短歌に学び、自分のものとしていきます。一首の作品に、いくつもの短歌を自在に使いこなして、自分の表現をしています。
なんだか、自由で楽しそうです。
軒端の梅の春の初花
たとえば以下の二首を念頭に、実朝が詠んだのは、ある春の朝の場面でした。
〈万葉集〉秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる朝けの風は袂さむしも
〈古今和歌集〉谷風にとくる氷のひまごとにうち出づる浪や春の初花
〈金槐和歌集〉
その春一番の、梅の花が咲いた朝のこと。
大河ドラマで、執権に抑えつけらる将軍実朝の姿を観ているので、こんな穏やかな日が彼にあったのなら、よかったなとおもってしまいました。
山吹のうつろふ花にあらし立つらむ
政治に口を出すことができず、なんらかの書類に盲判を求められ、畠山をころすな、和田をころすなと言っても無視をされる様子が『鎌倉殿の13人』で描かれました。
10代前半から鎌倉殿となり、20代になっても利用されるだけの将軍。
実朝の短歌には彼の心が遺されています。
散る山吹に吹きつける嵐。実朝のたたみかけるような表現に、私は胸をうたれるのです。
朝な朝なにおもふこと
金槐和歌集には、実朝が素直に短歌を練習していた様子が、うかがえます。
『朝な朝な』を使って、何度も歌を詠んでいます。
『朝な朝な』は、毎朝です。『夜な夜な』は今もよく使われています。
古語辞典を引くと、『あさなさな』でも同じことのようです。
(関連している短歌)
〈万葉集〉あしひきのやたけのきぎす鳴きとよみ朝けの霞みみれば悲しも
〈古今和歌集〉野辺ちかく家居しせれば鶯のなくなる声を朝な朝なきく
このほかにも『朝な朝な』の歌が
いくつもあります。
〈金槐和歌集〉
おのがつまこひわびにけり春の野にあさるきぎすの朝な朝な鳴く
朝な朝な露にをれふす秋萩の花ふみしだき鹿ぞ鳴くなる
秋の野におく白露の朝な朝なはかなくてのみ消えやかへらむ
6音の『朝な朝な』をどこに置くのか。実朝の師の藤原定家も『朝な朝な』の歌をいくつも詠んでみています。
ここ数日、『朝な朝な』の六音もしくは五音で、令和の歌を詠めないかなと朝な朝なにおもいます。
三十一文字からたっぷり六音も持っていかれて、なんだかうまくいきません。あさなあさなに、そんなことをしています。
おほうみの磯もとどろに寄する波
ゆったりと海がうねり、エネルギーをためて、高く大きく波が立ち上がり、後半7、7に加速してたたみかけてくる、凄まじい大波。
昨日、和田の乱をテレビで観たばかりなので、由比ヶ浜で滅んだ和田一族のように感じてしまいます。
源実朝の短歌に惹かれて、少しだけ、金槐和歌集にふれてみたのでした。
もうしばらくは、このあたりを彷徨っていたいです。まずは、金槐和歌集について書いてある他の本も探してみて。それから、万葉集、古今和歌集、新古今。
気長にね。
【参考図書】
鑑賞 日本文学 第17巻
新古今和歌集
山家集
金槐和歌集
編者
有吉保
松野陽一
片野達郎
角川書店
平成元年7版
※こちらは、私の趣味の記事です。
短歌の解釈は、素人のレンズで盛大に曲がっている可能性があります。
※仮名遣いは、参考図書に合わせました。
※この世界を地道に歩んでいきたいとおもっています。
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