添い寝と脱力の呼吸法 ナツ(高校2年冬②)起立性調節障害
おおらかにね
これをしろ、あれをするなと言わないで、眠れているか、痩せてきていないか、見守ってください。
おおらかにね。
消化器内科の先生は、私だけ診察室に残してそう言った。
今回のナツの吐き気は秋のおわりから続いている。中学生の受験週間が終わった。初日は行けて、イチゴが主役の小さな弁当も完食したが、2日目は遅刻で早退、その後2日間欠席した。
欠席初日は消化器内科に診てもらった。心配な所見は無い。原因が他にあって、症状が胃腸にきているので、目先を変えるために薬を少し変える。体重が減り始めたら、心療内科を受診するように。
先生がナツに話したのは、心配いらないよ、胃腸の薬を少し強いのに変えるね、とだけ。1日1回、いちご味で美味しいよ。
7科目模試
欠席2日目、高校から電話があった。翌週から授業が2週間オンラインになる。感染者数は1日8万人を超えていた。「欠席」は2日で済んだということだ。悪くない。
でも、高校2年3学期は受験生0学期。模試が2回あって、それは通常通り学校で行う。1回目は電話の翌日だった。ナツは登校して受けたいという。無理だろ。
添い寝
夜、単身赴任の夫と電話している間に、ナツはおやすみと言って元気無く階段を上がっていった。30分ほどで電話を終えて様子をみにいくと、電気が消されてポルノグラフィティのCDがかかっていた。
速くもなく遅くもないテンポで丁寧な音楽。
ナツにちゃんと聴こえているだろうか。
ナツはベッドにもぐって、懸命に寝ようとしていた。
頭をなでた。
私と大きさが変わらない。どうしたものか。
永遠で、一瞬。
いっしょに寝る?と聞いてみた。
すぐに2回、頭がうなずいた。
ナツの呼吸は浅くて早かった。走っているみたいだ。ベッドに入って30分もそうしていたのか。
添い寝しなければ、気づかなかった。
妊婦の呼吸法
ゆったり吸って、のんびり吐いて、
吐くとき一緒に力を抜くんだよ。
吸って吐くたびに力は抜けていくよ。
恐怖と不安で強張る体をほぐす呼吸法を知っていた。陣痛は10時間以上断続的に続く。痛みの山を越えたとき体力を温存するために使う、回復の呼吸だ。
翌朝ナツは支度をして薬を飲んで弁当を持って登校した。7科目模試をやりきって、夜7時過ぎにフラフラになって帰ってきたが、夜なので朝よりは元気だ。台所にきて問題用紙を私に見せながら、おしゃべりが止まらない。現国で恋愛小説が題材になっていたとか、英語の長文が長すぎだとか。
添い寝は続けている。寝付くまでいたのは初日だけだ。呼吸が落ち着いたころ、おやすみと部屋を出るようにしている。なんとなく。
寝るまで居たほうが良いのかな。どうしよう。
いつも、よくわからない。
愛が呼ぶほうへ
リモート授業が始まった。ナツの吐き気はあまり変わらない。調子が良いと朝のみそ汁が飲める。授業は昼を挟んで5時間目まで。休み時間や昼休みは時間割り通り。
朝、9時2分前に階段を上がって部屋に向かう。いってらっしゃいと声をかけると、いってきまあすと声だけ降りてくる。
通常登校になっても、カメラだけまわしてくれたら良いな。大人になってハスキーと住むという鉄の意志を持ってしても、どうしても行けない日があるから。
ハスキーの待つ家にたどり着けますように。