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2月の青い春のこと カオルコ(高校1年)

 高校1年生のとき、中学で気になっていた彼にチョコレートを渡した。卒業式から11ヵ月会っていなかった。卒業アルバムを見て自宅に電話をした。最寄り駅が1つ離れている。行ったことがない。

 午後の早い時間、私は電車で隣り駅のホームに降りた。冬は天気が良い。彼は約束通り来てくれた。中央に1つ直線のホームがあるだけの小さな駅だから、頭をかきながら視線を左右に振って落ち着かない様子で近付いてくるのがよく見えた。
 
 相変わらず細身でガニ股、背が高くて蜘蛛みたいだ。クラスが同じだっただけ。あまり話してない。でもF1が好きで、成績が落ちるリスクを取っても深夜のレースを観ていて、将来は僕の作った車を皆に提供すると何かに書いていた。右斜め前の席に居た。黒板がその向こうにあったから、視界に入ってしまった。猫背で足は机から脇にはみ出していた。成績はクラスで3位以内。ちゃんと勉強して志望校に進学していった。

 私は女子高に通っていたので出会いが無く、彼のことばかりになってしまった。クラスが同じだっただけ。あまり話していないのに。デパートで小さめのチョコレートを買った。11ヵ月、偶然見かけることすら無かった。縁が無いのだ。

 彼は横目で私を見た。目が合った。初めてだった。のどに圧を感じて、あたふたと私は何かどうでも良いことを口走って、これ、と言ってチョコレートを差し出した。彼は頭に手をやって、口を「あ」の形にして、ぺこっと会釈して受け取って、好きな人がいるから、と私の不毛を終わらせてくれた。引き続き私はあたふた何か短くしゃべったが、最後はありがとうと言えたはず。彼は猫背でガニ股で去っていった。

 ホームが1つだけの小さな駅。上りも下りもそこに発着する。帰りの電車はすぐに来た。まだ日も高い。

 彼は誠実に儀式に付き合ってくれた。ちゃかしたり、冷やかしを連れてきたりしなかった。それも有り得るとおもっていたのに。本当に彼のことを何も知らない。

 電車は加速して、最高時速にのってすぐ減速する。たった一駅、しかも近い。電車を降りて自転車をこぐ。少し涙が流れる。でも家に自分用のチョコレートも買って置いてある。帰ったら3時のおやつだ。

全速力。

16才のバレンタインの話。

#わたしのバレンタイン

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