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白雪姫に寄せる『君たちはどう生きるか』/感想、考察

〇はじめに

宮崎駿氏による待望の新作、「君たちはどう生きるか」。
宣伝しない宣伝でしっかり話題をさらい、通常の映画よりもネタバレに対するタブー視の強い本作だが、公式から作中の場面写真が何点か解禁されたこと、個人的に2度の鑑賞を経たことを理由に自らの感想や考えを思いつく限り列挙し書き殴っていく。
本noteを書くにあたり、他者の解説、考察の類や感想を極力見ないまま、素の自分の考えを記載することに重きを置いた。
そのため記憶違い、考察被り、果ては頓珍漢な論調が混在している可能性があるが、ご容赦いただきたい。気が付き次第追記および修正を行う。
また鑑賞済みであることを前提とした内容になるため、ネタバレには注意されたし。

〇鑑賞条件

・鑑賞日→2023/7/17、2023/8/27
・当然のことではあるがネタバレを踏むことは避けて、できる限りまっさらな状態で鑑賞に臨んだ。
・一応鑑賞前に知っていたこと
 →メインビジュアルのポスター。
 →主題歌は米津玄師氏が担当。
 →声優に木村拓哉氏が参加。ハウルが好きだったので嬉しい。
 →タイトルの同名小説である「君たちはどう生きるか」の内容をなぞる内容ではなく、オリジナルストーリーらしい。
 →"宮崎駿の原液"という表現。
・二度目の鑑賞の際も他者の考察に引っ張られたくなかったため、極力何も見ずに挑んだ。
・公式のパンフレットは間で購入したがほぼ新規の情報はなかった。

〇所感・考察

・冒頭、火事のシーン。
宮崎駿氏の作品には多く戦争等の争いがストーリーの中に組み込まれてくるが、意外にもその渦中の民衆の描写は少ない。
ここで主人公眞人少年の視点から、勢いよく燃える炎に翻弄される人々の様子を生々しく描いていることにドキッとさせられた。
ここは眞人にとって全編を通して立ちふさがるトラウマとなるシーンのため、特段のインパクトを持って表現されたのだろう。
・眞人と夏子が初めて出会い、車(正式な名前が分からない、リアカーを自転車で引くような形)の上で腹部を触らせるシーン。
ぎょっとしてしまった。眞人も表情からしてぎょっとしていたと思う。
血縁関係であるとはいえ、女性の身体に突然手を押し当てさせられ、そこに父親との子供の存在を告げられる。しかも女性は死んだ母親と瓜二つ。
正確な年齢の描写があったか失念したが、せいぜい10歳そこそこの少年にあまりにも無神経すぎる行動だ。
これは最後まで観てから思い返すに、夏子の意図した悪意があるだろう。
夏子からみて再婚相手の連れ子である眞人に対し、その心中が肯定的な感情ばかりのわけがないことは想像に難くない。
自分の立場の確固たる自信もない中、いわば異物である眞人に自らが唯一具体的な形として持つ"家族の証拠"を強制的に認めさせることが、夏子にとって精いっぱいの主張であり、攻撃であったように思われる。
・夏子と父が再婚するに至るまで、どのような経緯があったのだろうか。
戦争の3年目に母が死に、4年目に疎開したというようなナレーションがあったため、冒頭で既に夏子が妊娠しているということは少なくとも母が亡くなって1年以内には夏子と父には関係があったはずだ。
当時の風潮として、若くして妻が亡くなった場合に未婚の姉妹が嫁ぐことが当たり前の流れとしてあったとみて正しいのか。
この場合、夏子に恋愛感情と呼べるようなものがあって妊娠、結婚に至っているわけではなく、周囲の後押しによって物事が進行していたのかもしれない。
ペリカンが一族を永らえさせるため、生きるためにやむなくワラワラを捕食していたのと逆に、夏子は家のため、自分の身のためにやむなく嫁ぎ出産することを決めたと考えるのは、やや先走りすぎだろうか。
・見舞いに訪れる夏子の部屋。他より明らかに豪奢で、上品だ。
同じジブリ作品で言えば湯婆婆の部屋などを安直に思い出すような内装をしている。門外漢のため的外れかもしれないが、ベースは中世のゴシック風だろうか。
2度目の鑑賞でどきっとしたのが、この部屋に残された父の痕跡の色濃さである。
入り口横のポールにかかった帽子、ベッド脇にかけられた上着、そして机の上のタバコ。
ちょっと生々しすぎやしないだろうか。
これらのアイテムは背景とは別に描かれているあたり、かなり意図的に表現されているように見えた。
つわりに苦しむ妙齢の女性と、そこに訪れた父の匂い…眞人少年にはショッキングな、トラウマのような出来事になってもおかしくないように思われる。
・眞人が「君たちはどう生きるか」を見つけるシーン、一緒に映る本の表紙に、赤いカメのモチーフが見える。
これは「レッドタートル」ということでいいんだろうか。イースターエッグ的要素だと嬉しい。
・屋敷のおばあちゃん達。これはもう言うまでもなく白雪姫の7人の小人だ。
正確には7人よりも多くいるし、おじいさんまでいるが…モチーフとしては細部は問題でないだろう。
後半ヒミがガラスの棺に入れられて運ばれるのも実に寓話的だ。
もしこのままにとらえて考えるならば、ヒミが昏倒した原因=毒林檎を食すことに該当する行為が母屋への立ち入りという禁忌を破ったことになる。
これは既に妄想の域に入る話だが、ヒミも継母に育てられた生い立ちがあるのではないだろうか。
眞人がヒミの家でパンを食べるシーンで、眞人は夏子のことを尋ねられて「母親ではなく、父の好きな人だ。母親は亡くなった。」という趣旨の内容を答える。
それに対してヒミは「私と同じだ。」と返す。
初見時には、ああヒミは実は眞人の母親だから自分が死んだことを同じと言っているのか、と雑に流してしまっていたが、これは素直にヒミの生い立ちと眞人の生い立ちがよく似通っていたということなのかもしれない。
つまり、ヒミも実母を失い、継母と折り合いの悪い思いをした経験があったということだ。
そう考えると前述した白雪姫とのリンクはより顕著になる。
使用人のおばあちゃんによれば、ヒミはある日突然に姿を消して、また1年もしないうちに変わらぬ様子で帰ってきたという。
これはつまり、ヒミが継母との生活に耐え兼ねて森へと逃げ出した(より童話に寄せるなら追い出された)ということなのではないだろうか。
そしてさらに言うと、その際の"狩人"の役割は使用人の一人であるキリコが担ったと考えられる。
眞人が夏子を探しに塔へ向かおうとするとき、キリコは妙に意味深なことを口走る。
「塔の主の声は一族の血を引く人間にしか聞こえない、眞人は夏子がいないほうがいいと思っているのに探すなんて変だ」と。
これらの言葉がとっさに出たのは、以前にヒミがこの塔に足を踏み入れる際にその場に居合わせた、そしてその際のヒミの心情を理解していたからではないだろうか。
継母からかばい、森へと連れて行った(塔の存在を教えた)末に共にあの世界に訪れ、1年近くの記憶をなくして帰ってきたのであれば眞人をあれだけ必死に止めたのも理解できる。
またさらに言えば、眞人が屋敷にやってきた際に廊下を歩くシーンで登場する使用人のおばあちゃんたちは8人だ。7人が歩き、途中奥に座る一人にキリコが手を振る。
この8人のうちキリコが狩人であるとすると、残りの使用人たちでちょうど7人の小人が成立するのである。
初見時は眞人の境遇を中心に白雪姫へのリンクを考えていたのだが(使用人、継母、綺麗な顔だと評される等)、もしかするとこの物語の白雪姫は見えないところで展開していたのかもしれない。
・幼少期の夏子について。
行方不明になったころのヒミについては触れられるが、夏子の過去に関する言及はどこでも一切ない。
眞人と会った時点でヒミは夏子を知っていたため、恐らくそれ以前には生まれていたのだろう。
また眞人とヒミを同一視するのであれば、ヒミの義母が産んだのが夏子なのかも知れない。
夏子はヒミの行方不明当時、どうしていたのだろうか。物心ついていたのであれば、なにか思うところがあってしかるべきだ。
眞人に塔と大叔父様のことを説明する口調からそのあたりの事情をくみ取ることはできなかったが、果たして。
・黄金の門のある島、キリコのいる島、引きでみたときによく似ている(糸杉)。
マグリットの絵画で印象がよく似たものがあるはず。糸杉の中だけが夜のやつ。
ちゃんと考察されてる人達の間ではもう調べがついてるんだろうな…
・キリコの部屋、二度目の鑑賞で背景などに目が行った。
男勝りなたくましい女性に見えて小物類はずいぶん少女趣味に見え、特に壁に掛けられたワンピースは存在感がある。
ナウシカのトルメキア軍のモチーフに似たような文様のタペストリー?も印象に残った。
・インコ、鼻息荒いし声野太いし怖すぎる。なのに何故か可愛い。すごく好きになってしまった。
インコたちの居住区の描写がもっとじっくり見たい!あの美味しくなさそうなご飯たちよ。
小さくひしめき合ってコミカルに描かれてる感じ、宮崎氏のよく描かれる豚の系譜なのがありありと伝わる。豚野郎の次は鳥頭なのか。
・今作、恒例のジブリ飯的に描かれるのがヒミのジャムパンくらいしかない。屋敷でのご飯ははっきりまずいと言っているし、キリコの作るシチューのような食べ物もあえて美味しそうに写すカットはなかったはず。
・インコ王が鈴木Pに見えるのはもはや仕様。
・鳥の糞という表現。
初出はアオサギが眞人の部屋に現れ去っていく際、窓枠にべったりとついている。
その次は、眞人がヒミと二人で元の世界に戻りかけた際、父がインコの糞にまみれ困惑する。
最後、扉から飛び出した眞人と夏子が同じくインコの糞に汚れて笑う。
別の記事でもまとめようと思うが、これは「内面の弱さ、狡さ」の表れを表現しているのではと思う。
アオサギは眞人の直視を恐れる弱い部分を眼前に突き出してくる存在であり、その痕跡が糞の形で残る。
父、眞人、夏子の三人は物語を通してそれぞれの腹の内を明かしていくこととなり、共に汚れることでやっと家族になっていくのだろう。
・大叔父様の力の根源の石。これもマグリットで見た気がする…
・頻出する螺旋階段。
塔の内部にあるのが螺旋階段であり、その他も大概大叔父様に続く道としての演出になっている。
ワラワラもらせん状に上に上がっていく。

〇残った疑問

・アオサギの目的。当初は母親が生きていると言って導いていたがしかし。
眞人の心臓を食べるようなことも言っていたけど、そのために呼んだわけではないだろう。
アオサギは眞人の心を写したキャラクターだというのはそうだと思うのだが、それでも動機がいまいち掴めない。
・墓所と門。そこに眠る墓の主は誰なのか。「我を知るものは死す」の意味。
どこかから引いている一節だったりするのだろうか。
またあのストーンヘンジのような墓の形も、巨石信仰やその他アニミズムに通じる意味を内包しているように見える。
・産屋とはなんだったのか。何故立ち入ることがタブーとされるのか。
感覚としてはわかる気もするのだが、登場人物たちの口ぶりを見るに(また話の進行において重要なフックであることも鑑みて)もっと明確に説明可能な気がする。
こんなに重要な要素なのに言語化できていない力不足が歯がゆい。
・夏子が元の世界に帰りたがらなかったのは何故か。
眞人が夏子のことを尋ねると皆口をそろえて「夏子は帰りたくないと言っている、ここで赤ちゃんを産む」と言う。
向こうの世界で出産するとはどういうことなのか。
折り合いの上手くいかない新しい家族(眞人、父)を捨てて別の世界で生きていきたいという厭世的な思いなのか、もしくは一族や世界のルールとしてあの世界で出産する必要があったのか。
・塔にまつわるあれこれ。
落下物は隕石にも、ロケットの残骸にも見える。
それの周りに多くの犠牲を払いながら建てられた奇妙な塔と、おかしくなって消えてしまった大叔父様。
リアリティとファンタジーが奇妙に交錯し、現実世界と向こうの世界をうまく橋渡しする重要なアイテムだ。
しかしてその正体は結局のところ説明がつかない。
大叔父様の見せてくれた赤黒い巨石が隕石そのものであるとするならば、頭の良い大叔父様は隕石から発せられるエネルギー(放射能等)に気が付き、その活用のためあの塔を作り、その果てに別空間を作り出すまで成功してしまった、ということだろうか。
ちょっとまだ理屈が付いたというには雑すぎる。
・キリコの存在。
上述した考察でキリコに関して触れたが、そもそもキリコはどこから来たんだという話だ。
映画の最終局面で、ヒミとキリコ、眞人と夏子が扉をくぐりそれぞれの世界へと戻る。つまりキリコもヒミと一緒に現実の世界へと向かっている。
ヒミが過去に行方不明になって戻ってきたという話が語られるとき、キリコに関する言及は一切ない。語られていないだけという可能性も十分あるが。
①キリコはヒミと一緒に向こうの世界へと足を踏み入れ、その後また一緒に現実世界へ戻っていった。
②キリコは元々向こうの世界の住民であり、ヒミが現実世界に戻るときに付いていった。
③向こうの世界にいたキリコは眞人と共に来たキリコが向こうの世界に順応した形で現れたものであり、実際に若いキリコが向こうの世界に来たわけではない。扉をくぐったのちに眞人のもつ人形に意識が戻り、元の姿に戻った。
可能性はこのあたりになるだろうか。
記載しながら「眞人とヒミの境遇が似ている+ドアをくぐる際のシンメトリーな構図を考えたら、キリコは夏子の対比=ヒミの義母なのでは…?」と考えが至ったが、さすがにお屋敷での描写でそれは線が薄いかと思い直した。
だが眞人とキリコのふれあいの中に母親としての描写が見られることは言うまでもないため、役割としてまだつかみ切れていない面があることは確かだろう。

〇終わりに

かなり突飛な考察も増えてしまったが、ひとまず思いつく限りに気が付いたことを並べ立てた。
一見不可思議で道理のないように見えても、宮崎駿氏が作る作品には必ず理屈があるし説明がなされている。
全ては眞人の心象風景だから、みたいな安易な考えに逃げて放棄することはできない、必要ないと信じている。
再度発見、疑問、その他気づきを得た際には追記を行い、理解を深めたい。
そして本noteが読んでくださった方の考察の一助となれば…いや、ひとつの読み物として少しでも面白がっていただけたのならば、それだけでも本望である。

この作品の大きな軸として私は「喪失を恐れるな」という教訓、そして眞人達三人が家族になっていくというメインストーリーが据えられていると解釈している。
後日そちらをまとめたnoteも記載できればと思うので、その際はまた是非ご一読いただきたい。

以上。

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