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コンサルと類似する業界やビジネスの5つの例

戦略コンサルティングファームにおいては、アナロジー思考を活用することが重要とされ、半ば暗黙的に用いられることがあります。アップル自身も、この発想法をしばしば取り入れてきました。

「アナロジー」という言葉は一見難しく感じられるかもしれませんが、要は「例え話」です。例え話は日常的に多くの人が使っています(その上手さには個人差があるかもしれませんが)。例え話をする際には、例えられる物事と例える物事の間に何らかの共通点を見出します。

例えられる物事 ← 抽象化した共通点 → 例える物事

という構造で思考が進みます。アナロジー思考もこれと同様で、Aという対象とBという対象の間に抽象的な共通点を見出し、Bで成立している事柄をAに適用することで、Aにおける新たな発想のきっかけを作ります。例えば、

  • A業界とB業界はxxとyyの点で共通している

  • B業界ではzzというビジネスが出現しているが、A業界ではまだ類似のビジネスが見られない

この場合、「A業界でもzzを模倣したビジネスが成立するのではないか?それを新規事業として取り組んでみてはどうか」というアイデアが浮かぶわけです。

アナロジー思考が得意な人には次の2つの特徴があります。
① 多様な業界やビジネスに関する知識を持っていること(例ではB業界の知識が不可欠)
② 具体と抽象を行き来する思考ができること(A業界とB業界の特徴を抽象化し共通点を見出す能力)

①については経験が重要であり、一般的にコンサルティングファームでは、経験豊富なシニアコンサルタントほどアナロジー思考に優れている傾向があります。

ここまで前置きが長くなりましたが、コンサルティング業界に携わる者として、類似する業界やビジネスを見つけて比較し、コンサルティング業界の未来や新たなビジネス、ソリューションの可能性を洞察することは非常に大切です。

最近もX(旧Twitter)で関連する投稿をいくつか行いましたが、本稿ではコンサル業界と類似する業界・ビジネスについて、私が見聞きしたり思いついた事例をいくつか紹介します。紹介するのは次の5つです。

①SIer
②キャバクラ
③AKB48(アイドルタレントグループ)
④レンタカー
⑤飲食店

それぞれ、「どういう観点で似ているのか」という切り口が異なります。最後にまとめて記載していますので、ぜひ最後までご覧ください。


①SIer

まず、コンサルと特に類似性が強い業界としてSIerがあります。両者には、法人向けビジネスであること、人工商売であること、プロジェクトベースで仕事を進めることといった共通点があります。

先日、Xに投稿した引用ツイートが拡散されました。その内容は、「SIerのビジネスが厳しくなる見立ての構造」を示す一枚の図についてのものでした。

この見立てが正しいかどうかには賛否が分かれるようでしたが、私自身はその図を見て「コンサル業界でも同様のことが起きつつある」と感じ、シェアした次第です。

その図に記載されている「働き方改革による労働時間短縮」「ユーザー企業の内製化の拡大」「(クライアントにおける)自動化」は、少なくとも私の周囲では確実に進行していると感じています。これらがもたらす影響として、価格低下の圧力とコスト上昇の圧力が強まり、売上から原価を引いた粗利を取りづらい構造に変わりつつあるように思われます(もちろん、コンサルティングの領域やファームによってばらつきがあり、価格転嫁が十分できているケースもあるでしょう)。

いずれにせよ、SIerとコンサルティングファームには高い類似性があります。そのため、SIer業界で何が起きているかをウォッチすることで、コンサル業界の変化や未来を洞察する手がかりを得られるのではないでしょうか。

②キャバクラ

次に挙げるのはキャバクラ業界です。以前、私が所属していたファームのアサイン担当者が「俺の仕事はキャバクラの店長みたいなもんだ」と語っており、確かにコンサルとキャバクラには類似点があると感じたエピソードです。

コンサルはB2B、キャバクラはB2Cのビジネスという違いはありますが、共通点も多くあります。まず、「客商売」である点です。コンサルティングも契約自体は法人間で結ばれますが、実際の現場では「ヒト対ヒト」のやり取りが中心です。特に、プロジェクト責任者やPMの個人のスキルや相性が、クライアントに大きな影響を与えることは、キャバクラにおける指名制に似ています。

また、どちらも「ピープルビジネス」であり、人が資本です。コンサルティングファームではアサイン管理が、キャバクラではキャストのシフト管理が、それぞれ事業の重要な調整業務として存在します。

さらに、「人材の流動性が高い」点も共通しています。コンサルティングファームの平均勤続年数はおおむね3年と短く、頻繁に人材が入れ替わります。キャバクラ業界でも同様の流動性が見られます。人材の流動性が高いことは、同業他社への転職や引き抜きが頻発することも意味します。キャバクラでは日常茶飯事で行われているでしょうし、コンサル業界でも近年市場規模が拡大、ファームの数も随分と増えたことで、日常的に引き抜きが行われています。このような人材の動きや競争の構図も、人が資本のピープルビジネスであるが故の、両業界に共通する要素と言えるでしょう。

③AKB48(アイドルタレントグループ)

突拍子もないアナロジーが出てきたと思われた方もいるかもしれませんが、AKB48のビジネスモデルにもコンサルとの類似性があります。これも、(キャバクラと同様)私のオリジナルではなく、故瀧本哲史さんの著書『戦略がすべて』で取り上げられている事例です。元マッキンゼーのコンサルタントでもあった同氏が、両者の間にどのような類似性を見出したかというと、「素人を採用して、ふるいにかけ、スターを生み出す」という採用から育成までの仕組みにあります。

AKBはご存じのとおり、オーディションで素人を集め、人気投票を行い、センターをはじめとする中心メンバーが決まります。そして、収益を生み出す中核は、センターをはじめとした中心メンバー(俗に「神セブン」と呼ばれる人気投票の上位7名)です。同氏は、AKB48のビジネスの本質は、このような仕組みを内包した複数のタレントを包含する「プラットフォーム事業」であると捉えています。

一方、コンサルティングファームも、ポテンシャルを重視しながらもコンサルタントという意味では素人を採用し(オーディション)、一人ひとりをプロジェクトごとまたは年間で評価し(人気投票)、人気の高いコンサルタントをプロモーションしてクライアントに対してインパクトのある役割を担わせます。そして、パートナーやMDに上り詰めたスターコンサルタント(中心メンバー)が、ファームの収益基盤を作ります。両者の採用、育成、スター化までの流れが非常に類似していることがわかります。

同氏は、このような類似性の背景にあるコンサルビジネスとタレントビジネスの本質的な共通点として、「誰がスターになるかあらかじめわからない」という点を指摘しています。AKBもオーディション段階では誰が神セブンになるかはわかりません。だからこそタレントを多く採用し、ファンの目というフィルタリングを通じてふるいにかけます。コンサルティングファームでも、パートナーに上り詰める人は100人に1人くらいの確率でしょう(アップルの感覚値)。誰がパートナーに上り詰めるかは、新卒・中途を問わず、採用時には全く予測できません。将来パートナーになる可能性のある逸材を確保するために、たくさんの若手をコンサルタントとして採用しているという見方もできます。

④レンタカー

レンタカーとコンサルに共通する点は、どちらも「固定費ビジネス」であるという点です。さらに、その固定費が比較的流動性が高い点も類似しています。

レンタカーが抱える固定費は、貸し出す車や事業所の運営費です。需要に応じて、車の台数や事業所の数を調整しますが、短期的には需要と供給のバランス、つまり「稼働率」がカギを握ります。稼働率をどれだけ100%に近づけるかが、収益性を決定するビジネスです。

一方、コンサルティングファームが抱える最大の固定費はコンサルタントの人件費です。ファームの需要に応じてコンサルタントの人数を増減させますが、流動性が高いとはいえ、即座に人を採用したり解雇したりすることはできないため、1年から3年の時間軸で人員計画を立てて調整します。1年以内の短期的なポイントとなるのは、レンタカーと同様、稼働率です。在籍しているコンサルタントが年間を通じてどれだけの期間、無償でなく有償のプロジェクトにアサインされて稼働しているか。この稼働率がコンサルティングファームの最大の収益ドライバーとなります。

このように、「固定費ビジネス」「稼働率ビジネス」と抽象化すると、一見まったく異なる業界であるレンタカーとコンサルの類似性が見えてきます。レンタカー業界で導入されている仕組みやサービスが、コンサルティング業界にも応用できるかもしれません。

⑤飲食店

最後に紹介するのが飲食店です。一見、どこに類似性があるのかと思わせる業界ですが、私もこれまで飲食店とコンサルに類似性があるとは気づきませんでした。しかし、Xの投稿に対するレスポンスでその点を指摘する方がいらっしゃり、確かにある視点では類似点があると感じました。その類似点をざっくりまとめたのが、以下の投稿(図)です。

何かのリソースを組み合わせ、技術的な加工を施し、顧客のカスタマイズに応じた価値を実現する。両者の「価値提供プロセス」を抽象化すると、類似しているというアナロジーの見方です。

飲食店では、料理人という技術者が食材というリソースを集め、組み合わせ、切ったり煮たり焼いたり味付けをして料理を作ります。対してコンサルでは、プロジェクト責任者やPMという問題解決スキルに長けた技術者が、コンサルタントというリソースを集めてチームビルディングをし、コンサルタントが集める情報や一人ひとりの知見を融合させてクライアントの課題解決策を策定します。このように、価値提供プロセスに着目すると似ています。

さらに、飲食でもコンサルでも、価値提供のカギとなる「技術」が顧客にとって「技術の習得は難しいものの、自分でやることもできなくはない」というほど良い難易度である点も共通しています。

比較的簡単な料理なら、多くの人が自炊をします。料理好きでプロ顔負けの料理を自分で作ってしまう人も少なくありません。最近では料理本を買わなくても、ネット上には無数の献立が載っていますし、YouTubeでは料理技術を披露する動画も多数アップされています。これらのコンテンツを参考にし、一定程度学習すれば、誰もがプロに近い料理を自分で作れる環境が整っています。

コンサルは課題解決を売る商売ですが、クライアントが自ら課題解決をすることも当然可能です。コンサルを使わず、自社で課題解決をしようとする企業もあり、またコンサルのメソッドを紹介する書籍や記事も溢れているため、それらを参考にすれば課題解決を自ら遂行することが以前よりもハードルが下がっています。

価値提供プロセスと技術の難易度が類似している。これがアップルの見立てです。この類似性から、「飲食業で成立しているビジネスで、コンサルにもってこれるものはないか?」という発想が生まれます。

例えば、料理を提供するのではなく、料理の仕方を教える料理教室のようなビジネス、すなわちコンサル版のABCクッキングスタジオのような事業には可能性があるのではないか?また、飲食店を評価する食べログのように、コンサルティングファームやコンサルタントを評価するプラットフォームにニーズがあるのではないか?(フリーランス・コンサルタント向けに似たような機能が登場しつつあると認識)といった発想もできます。

もちろん、両者にはさまざまな違いもあります。最も大きな違いは、B2BとB2Cの違いです。また、コンサルは情報やコトを売るビジネスで、飲食はモノを売るビジネスという違いもあります。違いに目をつぶり、いかに共通点を見出すか。これがアナロジー思考のポイントと言えるでしょう。

まとめ

以上、本稿では5つのコンサルと類似した業界やビジネスを見てきました。これら5つを俯瞰すると、共通点をどの切り口で見出すかによって、類似業界が変わってくることがわかります。

【各事例の着目する共通点】
① SIer:顧客層と人工ビジネス
② キャバクラ:客商売とピープルビジネス
③ AKB48(アイドルタレントグループ):採用→育成→スター化の流れ
④ レンタカー:収益モデル((変動的)固定費ビジネス/稼働率ビジネス)
⑤ 飲食店:価値提供プロセスと技術難易度

コンサル業界に限らず、自分が属する業界のアナロジーをさまざまな切り口で、多面的に見ることによって、自社の業界の理解が深まるとともに、何らかの新たな着想や発想が生まれる可能性があるでしょう。


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