発達障害グレーゾーンは後天性のものではないのか。~脳科学・身体的側面から考える~
10年ぐらい前から、通常学級における「グレーゾーンの子ども」が目立つようになってきた。それにともない、特別支援学級にもグレーゾーンの子どもの転籍が増え、特別支援学級在籍数ならびに学級数、または通級における指導を受ける子どもが激増し、特別支援学級在籍数は2倍以上にもなっている。
参照:特別支援教育の充実について 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 https://www.mhlw.go.jp/content/001076370.pdf
どうしてこんなことになっているのか、この夏に受けた特別支援学校教諭免許取得講座の学びと自分の今までの学びを総合して、統計的・臨床的側面からではなく、脳科学や身体的な側面から考えた。
1.障害の定義
知的障害・自閉症スペクトラム障害(ASD)・ADHDについての定義は、文部科学省やDSM-5などによって示されている。
ただ、文部科学省も、DSM-5も、どちらも表出されている現象に基づいた定義をしていて、その原因について詳しく言及していない。その理由は、原因がわかっていないからである。
「自閉症スぺクトラム障害の原因は解明されていませんが、発症の要因として脳の発達の異常が考えられており、その原因としてある種の染色体異常などの遺伝的要因、胎児期のウィルス感染、代謝異常などが示唆されています。」(「運動・からだ図解 脳・神経のしくみ」石浦章一(監修)マイナビ出版)
「脳の発達の異常」とは言うが、「脳のどの部分がどう機能不全を起こしていて、それはどういう原因で機能不全が起こっている」ということは解明されていない。よくわからないからとりあえず脳の異常としておけば納得してもらえるという論理であるように思われる。
また、DSM-5による診断基準によると、症状が重大な障がいを引き起こしていなければ障害とは診断されない。しかし、子どもの頃から重大な障がいを引き起こしていなく、就職して仕事が続けられなくなってから障害であると診断される話もよく耳にする。重大な障がいを引き起こしていないのは、結果論であって、障害の判断基準では無いのではないだろうか。
これらのことから、文部科学省やDSM-5による、外部から当事者の扱いとして見た定義は、ASDやADHDなどの障害の本質を表すものではなく、当事者のことをよくわかっていない圧倒的多数の定型発達傾向者から見た説明に過ぎないということがわかる。
2.当事者によるASD・ADHDの特徴
ASD傾向者によると、以下のようになる。
「多くの人に比べて、世界にあふれるたくさんの刺激や情報を潜在化させられず、細かく、大量に、等しく拾ってしまう傾向を持っている」(「つながりの作法」 綾屋紗月, 熊谷晋一郎)
ADHD傾向者によると、以下のようになる。
「注意や行動、時間や思考のコントロールが難しい傾向を持っている」(chat GPTと山田)
どちらも量は違うけれど情報をたくさん認識する。 また、ASDだけどADHDの特性があったり、その逆もあったり、線引きができないことが多い。
3.脳の働き~前頭葉でしていること~
前頭葉は、脳の前側、おでこの中あたりにある。
• 脳の他の部位から情報を集めて統合する。
• 複雑な思考や判断
• 人格を決め、情動をコントロールして、社会性を調整する
• 創造性
• 目標を設定し、目標達成のための方法を考え、計画して行動する
• より適切で効果的な行動ができるよう修正する。
前頭葉の働きが悪くなると、以下のようになる。
• 意欲の低下
• 行動のコントロールが効かなくなる→わがまま、移り気、短気
• 情動のコントロールが効かなくなる→おこりっぽい・多幸感
• 他者や社会への興味の損失
• 思考や判断力の低下→情報を精選・判断できない
• 計画性の欠如
4.ASDとADHDなどの障害についての仮定
上記2と3を比べると、ASDとADHDは前頭葉の働きに関係があるように見える。
ASDのうち、脳の他の部分の機能が高いとアスペルガー傾向と見ることができる。
意欲の低下は、鬱につながる。(ASD、ADHDともに大人になってから鬱を発症することが多い。)
情報の精選ができないということは、HSPにも関係があると思われる。
つまり、学校におけるグレーゾーンの子どもは、前頭葉の働きの低下が原因であるのではないかと仮定できる。また、全体的な脳の機能が低下していると、軽い知的障害になるのではないかと考えられる。
5.前頭葉の動きが悪くなる要因として考えられるもの
• 染色体など細胞レベルの異常
•母親の骨盤が歪んでいて、子宮が狭くて無理な姿勢でため、前頭葉のあたりの血流が悪くて十分な発達が得られなかった
• 帝王切開の時、医師の取り上げ方が下手で体に歪みができてしまった。歪みによって前頭葉の血流が悪くなった。
• 定頸前の縦抱っこや硬いマットに寝せてできた側弯、バ〇ボや歩行器など定型発達を無視した育児グッズによる歪みで前頭葉の血流が悪くなった。※注1
・保護者の体がゆがんでいるため、乳児を正しく抱っこできず、骨格がゆがんでしまったり、保護者の体しか見えない抱っこグッズによって視界がせばめられ、目をうまく使えないことから脳をとりまく筋膜が固まり、血流が悪くなった。※注2
• ベビーベッドの置き方などでビジョンに課題ができたため生じた左右差が原因で前頭葉の血流が悪くなった。
• 足に合わない靴を履かせて前頭葉の血流が悪くなった。※注3
・幼い頃からのスマホ等端末の固視によって目が動かないことによって、脳をとりまく筋膜が固まり、血流が悪くなった。※注4
※脳科学では、頭皮からの外部的な電磁波による刺激で脳の働きに働きかける実験の成果が発表されている。(うつ症状の改善、運動機能障害のリハビリテーション、記憶力の向上などへの効果がある。)頭皮からの刺激で脳の働きが変わるのであれば、内部の血流が脳の働きに影響しないわけがない。
昔から染色体の異常によるASD・ADHDの子どもはいたし、今も特別支援学校には重度の該当障害児童が在籍する。
しかし、今激増しているグレーゾーンの子どもたちは、染色体の異常というよりも、その他の成長過程で前頭葉の動きが悪くなっていると思われる。
また、これらの前頭葉の動きが悪くなる要因は、前頭葉だけでなく脳全体にも影響すると考えられる。脳全体に影響すると、記憶力や理解力にも影響する。
つまり、学校で急増しているグレーゾーンの子どもの発達障がいは、後天的に発生した障がいであると仮定できる。
6.特別な支援を必要とする子どもの急増の理由
①身体的なもの
5で述べた前頭葉の動きが悪くなる理由のうち、子育てグッズについてはこの20年ほどで世の中に広まり定着したものであり、端末による子育てはこの15年ほどで定着している。10年前から特別な支援を必要とする子どもが急増している状況と繋がっている。
ちなみに、40代に腰痛もちが多いのは、40代が乳幼児の頃に流行った歩行訓練グッズの影響ではないかと考えられる。また、そのせいで40代保護者の体のゆがみが今の子どもにも影響していることも考えられる。
②その他の要因
端末の普及により、保護者自身が端末に使う時間も増えて、アタッチメントが減り、子どもの育ちが定型発達から外れたことと相乗効果で愛着障害傾向の子どもも増えている。愛着障害傾向の子どもも発達障害と間違われて特別支援学級に転籍することで、更に数を増していると思われる。
また、入学までの育ちや、入学してからの学校システムも変化している。
昔は脳や体の使いにくさがあっても、外で色々な遊びを経験する中で、困り感が解消される程度に矯正されたのではないかと思われる。20年ほど前から、公園から危険な遊具が撤去されるなど、外での色々な遊びが制限されはじめた※注5。その上、前頭葉の動きを悪くするような端末での子育てが増えている。入学してからの学校システムは、昔に比べて今の方が型にはめる教育が行われている。学校スタンダードはユニバーサルデザインとして導入されたはずだが、逆に担任が守らなければいけない、子どもたちに守らせなければいけないルールとして縛り付けるものになっている。机の上に鉛筆類を置くルール、ペンケースや机の中の様子のルール、ノートの書き方のルール、色々なルールに適応できない子は全てグレーゾーンとして扱われる。
7.学校でできること
体が使いにくくて脳が使いにくくなっているのであれば、体を使いやすくする活動をたくさん取り入れればよい。
教科書に無いことをするには、時間が足りないと感じるかもしれない。しかし、子どもの体や頭の使いにくさが少なくなった方が、教科指導はスムーズになるし、トラブルも減って、逆に時間が生まれたりエネルギーが少なく済むようになる。どれだけ長い時間教えてもなかなか入っていかない算数や漢字の指導に時間を費やすよりも、体のケアに時間をかけたほうが、少ない時間で算数や漢字が入るようになる。時間とエネルギーの投資先を考えて、子どもも大人も楽しく過ごせる道を選ぶべきだと思う。
方法としては、体づくりの運動や昔遊び、感覚統合遊び、ビジョントレーニング注6などが挙げられる。脳の発達を考えると、できるだけ低学年のうちから行いたい。
また、学校のシステムをもっと柔軟なものにするべきだ。個に応じた対応、その子に合わせた配慮がもっと必要で、そのためには、子どもをよく観察し、子どもの話をしっかり聞く必要がある。個別最適な学びも対応方法の一つだが、個別最適な学びは方法を間違えると、子どもの学習の責任を子どもに押し付けてしまいがちであり、また、子どもの困り感が見えにくくなってしまうのでこちらに伝わらなくなる。子どもの様子をしっかり観とる力量が必要である。
本レポートは、発達障がいグレーゾーンが育ちの中で後天的に生み出されたことについて、グレーゾーンの子の保護者を非難するものではない。一般的に知られていないものを保護者が知らないことは仕方がない。
また、脳の使い方の癖が全く無くなり、全ての人が定型発達するべきだと考えているわけではない。脳の使い方の癖は、時に新しい発明、発見、芸術分野の発展などに貢献している。
それよりも、このことについて何かしらの研究が進み、その結果が義務教育などを通して全国民に知らされ、次世代の子どもが同じように育たないようになることを望んでいる。また、グレーゾーンに育ってしまった子には、その子の責任でない特性によって苦しむことが少なくなるように、できれば幼いうち(脳のシナプスの成長が止まる小学校3年生ぐらいまで)にたくさんの経験をさせてあげたい。そして、脳の使い方の癖を無いものとして(全ての人が定型発達していると仮定して)世の中の仕組みを作るのではなく、癖があることを前提として世の中が動くといいと思う。
なんでも個別最適な学びとして個に分断していくだけではなく、まわりにどんな人がいるのかを認識して、色々な人がいて当たり前なのだという感覚を定型発達の子が理解している社会を作るべきだと思う。
注1 うつぶせ寝での乳児の窒息死亡事故以降、乳児の布団は固いマットが主流になってしまった。乳児の背骨はCカーブになっているため、固いマットに仰向けに寝せると背骨のCカーブがつぶれて側弯になりやすい。(赤ちゃんの寝かしつけで、抱っこで眠ってしまった赤ちゃんを布団に寝せたとたんに起きることを「背中にスイッチがついている」と表現することがあるが、背中が痛くて起きてしまうことが多いと思われる。)
また、保護者は忙しくて家事の時間や自分の時間を確保するために、赤ちゃんに座っていてほしかったり、入浴時にお風呂に浮かんでいてほしかったりして、器具に頼る。だが、お座り器具はお座りができる体になっていない幼児に使うことが多く、体の正常な発達を阻害してしまう。お風呂に浮かせる方法も、普段使わない部位に力を入れる必要があり、乳幼児の首に負担をかけるものになっている。
更に、なぜか子育て世代では「早く〇〇できるようになること」が歓迎される。まだ歩くための体ができていない子どもを早く歩けるようにするため、歩く練習として手つなぎや手押し車、歩行器を使って無理やり歩かせる。すると、腰回りの骨の発達が未熟なまま、無理やり周りの筋肉をガチガチにかためてカブトムシのように歩くことができるようになってしまう子どもが増えた。(成長後、自閉傾向につながる。)
注2 体が歪んでいる保護者は、赤ちゃんをリラックスした状態で抱っこすることも難しい。乳幼児の体に負担を強いる抱っこ紐やおんぶ紐の使い方をしてしまい、首がつらい子ども、肩こりの子どもを育てる原因になることもある。また、最近の乳児の保護者が使っているエ〇ゴは新生児から縦抱っこできるとして便利がられているが、首が座っていない赤ちゃんは頭を縦にすることで重力に逆らうことになる。まだ筋肉もついていない首で重力に逆らおうとするために、周辺の筋膜を固まらせてしまう。結果、首回りの血流が悪い、首の座っていないガチガチの赤ちゃんになる。
更に、抱っこグッズを使うことによって、ずっと保護者の側に乳幼児の顔を見せていると、自分の正面を見ることに目を使わなくなる。(どうせいつもと同じ体しか見えないし、遠くが見えないから。)結果、自分の前を見るための目の発達が遅れ、周辺しか見られなくなる。ちゃんと話を聞かずにぽーっとしているように見える子どもは、たいてい目の前を中心とした視界を見るための黒目の動きが周辺に比べて著しくぎこちなく、焦点をうまく合わせることができない。眼科で弱視と診断される子にこのタイプが多い。
注3 幼稚園・保育園では室内で靴を履かない園もあるが、小学校以降は校内でも靴を履いて過ごす。小学校の新入生でよくあるのが、靴のサイズが大きいことだ。自分の足より1cmも大きい靴を履いて生活している子が多い。子どもの足はすぐに大きくなるので、大きいものを履かせたい保護者の気持ちはわかる。けれど、靴が大きく中で足が滑ると、滑らないようにするために足首に力を入れて踏ん張りながら歩くことになる。前に滑らないようにすると足首の前側が固くなり、ひざ、おなか、胸、顔、そして頭の前側がどんどん固くなっていく。頭の前には前頭葉があるので、そこが固くなって血液がうまく流れなくなると感情のコントロールが難しくなる。また、横にずれないような歩き方をして足首の側面が固まると、目の動きが悪くなる。小学校の新入生で落ち着きの無い子や目の動きが悪い子には、サイズの大きい靴をはいている子が多い。
注4 今の子育てにスマートフォンは必須だ。保護者が自分の時間を確保したいときには、子どもにスマートフォンを渡すのが一番簡単ですぐにできる方法で、子どもたちもスマートフォンの扱いに慣れている。
ただ、スマートフォンを見ていると、眼球運動が少なくなる。目の動きが発達しない。子どもは体をたくさん動かすことで自然に体の歪みを修正することもできるのに、スマートフォンを優先してしまうことで、歪んだ体をそのまま固定してしまう。寝転がってスマートフォンを見ることで、片目だけを使うようになってしまうこともある。焦点を合わせることが難しくなる。
注5 1990年代後半に、回転ジャングルジムや親子ブランコによる事故が相次ぎ、公園から危ない遊具は撤去された。 10年ほど前からは、公園に遊びに行くと、大人の数が多く見られるようになった。30年ほど前は、公園は子どもの国で、大人はほとんどいなかったし、子どもの遊びを制限することも少なかった。今は、保護者の責任を問われることが多く防犯的な問題もあるためか、小学校低学年程度の子どもであっても保護者同伴であることが多い。
大人が子どもの傍にいると、少しでも危なさそうなことは止めてしまう。子どもがスムーズにできていない状況に我慢できずに手を出してしまうこともある。子ども同士のちょっとした喧嘩にすぐ大人が対応してしまう。すると、子どもは体を大きく使うダイナミックな遊びをすることなく、大きな失敗もせず、できないことをできるようにしたいという気持ちが育たない。非認知能力(社会性・感情のコントロール・やりたいと思ったことをする力)や体の使い方が身に着いていない子どもに育つ。
注6 ビジョントレーニングは、目を動かすことで脳まわりの筋膜に直接働きかけることができる。手足が体を通して脳に繋がっているため、手足を使いやすくほぐすだけでも体や脳の動きはよくなるが、脳から直接アプローチすると、逆に体や手足の動きがよくなる。手足をほぐすことよりもビジョントレーニングの方が教室で取り入れるには簡単である。ただ、目の動きをほぐすだけでなく、体のバランスも矯正するために体を使った遊びは必須である。